ランタオ島ロケ地巡り〜『いますぐ抱きしめたい』
ランタオ島は漢字では「大嶼山」と書き、その読み方は「タイユイサン」…英語表記だけ「Lantau Island」という不思議な名前ですが、香港では一番大きな島なんですね。ここでは最近の『バレット・オブ・ラブ』他沢山の映画のロケが行われているのですが、私にとっては「ランタオ島」と言えば、『いますぐ抱きしめたい』しかありません。
前々から行きたいと思いつつも、いつも同じ所をウロウロしているだけで時間いっぱいになってしまう。
そんな折、今回は香港の達人に連れて行ってもらえるということで、これ以上のチャンスはありません。
朝7時45分のフェリーに乗ろうと中環へ向かったのですが、なんとタッチの差で間に合わず。 30分ほど待つことになりましたが、周りの景色や人々を見ていると全然飽きることはないんですねぇ。
朝中環に降り立つ人は意外にも白人やハイソなOLやサラリーマンが多く、ゴミゴミした中心部を離れ、生活のベースは自然の中で、仕事だけホーバークラフトで通って来るというライフスタイルが増えているようです。ランタオ島には、その為の地域ができているという話です。
フェリーの時刻表を見ると、なんと24時間運行。完全に日常の交通機関になっているんですね。
船室は普通と〈豪華〉の二種類。料金は10ドルと16ドルと差がありますが、この際〈豪華〉に乗ってみました。
シーズンではないし、ましてやウイークデーなので豪華船室はガラガラ。大きなテーブルで新聞を広げてゆーーーっくり目を通せます。
ちなみにこのフェリー、普通席に乗っても劉徳華(アンディ・ラウ)が海にグラスを投げ捨てた後部デッキには、あの様なベンチはもうないと達人が言っていました。
1時間弱で間もなく梅窩(ムイオー)に接岸という時、窓から港を見ようとしたら「ダメ!」と達人の厳しい声。
「今見たら感激がうすれちゃう。いい?降りたら私がいいと言うまで振り向いちゃダメよ。客が全員いなくなったらキューだすから。」
ということで、ゾロゾロ降り立つ中、なんだかぎこちなくゆっくり歩き達人のキューを待つ。
「はい、どーぞ。」
振り返ると、そこには『いますぐ抱きしめたい』で血まみれになってアンディが転がり落ちてくるあの階段がそのままありました。
背中がゾクゾクして来ます。お願いだからシャッター半分占めてくれい!!
ああ、なんという感激。あれから10年以上経っているのに、階段の両側の黒い柱もそのまま。
ただ、アンディがマギーを見つけてヒョイと乗り越える柵はなくなっていました。
フェリー乗り場の前のバスターミナルもそのままの面影を残していますが、あのマギーが歯を折ったという激しいキスシーンを展開した電話ボックスは位置が変わり、当然ですが電話会社が当時と変わっているので電話ボックスの色も違います。
ちょっと手を加えて、当時と現在の位置を比べてみましょう。
そしてまずは大澳(タイオー)を目指し、バスに乗ります。
丁度次のバスは冷房のない古いバスで、アンディがマギーを訪ねて行くバスの風情が残っています。席はもちろん左側。前の座席についた手すりを持つと、王傑(ウォン・キッ)の切ない歌が頭の中をぐるぐる駆け巡ります。
ああ、やっぱり「你是我胸口永遠的痛」のMDを持ってくるのだった。
大澳(タイオー)に向かう途中にマギーのレストランがあるので、それらしき所で降りようということにしていたのですが、そのバスはビュンビュン飛ばし、山道の急カーブをものすごいスピードで走り抜けていきます。当然その振動は半端なものではなく、うっかりしていると舌をかみそうなほど。話す声も演歌歌手のようなビブラートがかかり、ジェットコースターもどきのこのローカル・バスの運転手を見てみると急カーブで片手ハンドル!!
をいをい。しかも大きなカーブでは体ごと傾けてる。烈火戦車のバイクじゃないんだからさぁ。
同乗者はというと、慣れたものらしく皆平然としているんだ、これが。
ああ、右側にマギーのレストランが…過ぎて行く。
こんな人気のない所だからバス停には待っている人もおらず、得意げに飛ばす運ちゃんの独壇場。もうこれは途中で降りるどころではなく、終点まで無事に着くことを祈るしかない。香港の新聞でもランタオ島でバス横転!という記事をみかけないので、けっこうこれはこれで日常なのかも…と観念する。
すると勇敢にも立ち上がって停車ブザーを押す人が。丁度眼下には刑務所の敷地が海沿いに広がっている。『炎の走査線』のような豪華なメンバーはいるわけもないが、受刑者たちの姿は見えず。ここで降りた3人組はきっと面会に行ったに違いない。どこぞの組員だったのかも~。ゾゾッ。
そんなこんなで30分もしないうちに大澳(タイオー)に着いてしまった。
静かな静かな漁村大澳(タイオー)は、まるで時が止まってしまったよう。
先日の大火で沢山の水上家屋が焼けてしまったというが、それも自然の摂理と受け入れている風で、ここが九龍と同じ香港とは思えない。見かけるのは老人と子供ばかり。若い人はみな村を出て行ってしまうのでしょう。
バスターミナルから右手の路地へ回り込むと「ここがどこだかわかる?」
涙が出そうになった。
そこはまさに、鳥の箱をかついで楽しそうに語りながらアンディとマギーが歩くあの道なのです。
「いい?私がいいと言ったら振り向いてね。」と達人。そして振り返ると、次の歩く二人の視点のショット。
さすがに達人、立ち位置すべて把握している。
両側には海産物の土産物屋が並び、ここが素朴な観光地であることを実感しました。
そしてどこの家も開け放した玄関から正面に仏壇、壁際にソファやベッドがいきなり見えるという独特の間取り。入り口にはもれなくおばあさんが何をするでもなくただ座っている。しかし、人が住まなくなって廃屋となった家もそのままで、朽ちて行くまま、自然に任せている風。
聞こえるのは麻雀の牌をかき混ぜる音、犬の鳴き声。そんな中で唯一「秋桜」のカバー曲が流れる店があった。80年代の終わりから90年代初めにかけてブームだった日本語カバー曲、そんな山口百恵をここで聞くとは…。
しかも向かい側には「明星電髪」とガラス戸に書かれた古い美容院。今でも営業しているのだろうか。
そして!玄関の前に車椅子やストレッチャーの代わり?荷台着き三輪車が置かれた小さな古い診療所が。
もしや?と思いカメラに収め、帰ってからDVDで確認したら、やはりマギーが血だらけのアンディを担ぎ込んだ、あの診療所でした。
ガラス戸に書かれた「西醫部嘉祥」という文字もそのまま。映画では夜中にたたき起こすというシーンなので、シャッターが閉まっていてマギーがガラガラと開けてガラス戸を叩いていますね。写真をよく見ると、折りたたまれたシャッターが左右に見えます。
やはり大澳(タイオー)の時は止まったままなのかも知れない。
映画で見るよりも、もっともっと小さくて狭い大澳(タイオー)の村、ちょっと前までは向こう岸へは渡し舟を使っていたそうです。
今は橋ができて行き来が楽になったといいますが、こんな小さな橋が最近ようやく架かったというのに驚いてしまいます。
こんな静かでのどかな村に頻繁に観光客やロケ隊が来るというのに、依然としてそのたたずまいを変えず、別の時を刻み続ける大澳(タイオー)の不思議な底力をつくづく感じました。
そうして大澳(タイオー)を後にしてアジア一大きい大仏が鎮座まします寶蓮寺を詣でた後、来るときに降りられなかったマギーのレストランのある貝澳(プイオー)へ向かいます。
大澳(タイオー)が時を止めているせいか、周辺にはいかにもという渡暇屋(民宿)が軒を並べています。
中還や梅窩(ムイオー)のフェリー乗り場にもこの渡暇屋の案内所がありましたが、シーズンには海水浴客がドドッと訪れるそうです。そうそう、信和中心にも案内所が何軒かありますね。
でも、その渡暇屋は『甜言密語』の口のきけない古天楽のやっているような素朴さはなく、『夏日的麼麼茶』の任賢齋(リッチー・レン)のほどおしゃれじゃない、なんとも半端な印象を受けました。
映画の中でマギーが勤めるレストラン&ホテルには夜のバスで到着しますが、私たちが着いたのは午後まだ陽の高い頃。
あれから13年、建物は解体が始まりかつてテーブルが並べられていたテラスに、粗大ゴミとなった冷蔵庫や瓦礫が積まれていました。
とても悲しいけど、赤いレンガや「マギーはいる?」とアンディが聞いた入り口などはまだ十分に面影を残しています。
でも、互いの気持ちをどう言ったらいいかためらいつつ煙草に火をつけるあのカウンターは、もうありません。
間もなくここは跡形もなくなってしまうでしょう。こんな姿になっても、まだ間に合って幸せだと思いました。
そしてその斜め前には別れのバス・ロータリーがあります。
二度と会えない予感を抱きつつ、「薬はいいいから、無事に戻ってきて」とポケベルに伝言を送るマギーの切なさがよみがえります。
ただ、確かにここだと思うのですが、映画では左側の大きな木がないのです。数年でこんなに成長したしたか?
試しにカメラを広角にしてのぞいてみたら、まさしく映画と同じショットなのですが…。
そうこうしているうちに、丁度バスが…。痣と絆創膏のアンディが乗っているかのように、私たちはそのバスを見送りました。
頭の中でまわっている曲は、はもちろん「痴心錯付」です。
そして再び梅窩(ムイオー)に戻り、さきほど見ただけの電話ボックスに入ってみました。
目を閉じてウットリしたのはもちろんです。
その様子をカメラに収めてくれた達人が「はい、またひとりバカの写真の出来上がり」
そう、その達人は6年前に一人ロケ地探訪をして、やはり一人電話ボックスに入ってウットリして通りがかりの人に怪訝な顔をされたことがあったのでした。
島の人にとっては単なる電話ボックスが、アンディファン、そして『いますぐ抱きしめたい』が好きな人にとっては、タイムマシンですからね。
帰りのホーバークラフトでは爆睡でしたが、感動のランタオ島ロケ地巡り、興味のある方はマギーのレストランがあるうちにぜひ訪れてみて下さい。
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