2016年の台湾映画を振り返る
最近は若い層をターゲットに夏休み映画に強力な作品が出てきますが、サスペンス映画『樓下的房客』が1.4億をあげて今年の2位です。九把刀(ジョウバーダオ)の原作・脚本で、『あの頃、君を追いかけた』に続いて柴智屏(アンジー・チャイ)がプロデュース、当時一緒にプロデューサーをつとめた崔震東(アダム・ツァイ)が初メガホンをとりました。任達華(サイモン・ヤム)、李康生(リー・カンシェン)といった個性的なキャストも話題になりましたが、ここまで数字を伸ばしたのはサスペンスよりもエロスの要素だったようです。
同じく夏休み映画で期待されていた青春映画『六弄咖啡館」は、人気作家の藤井樹が自身の原作を本名の吳子雲(ウー・ズーユン)名義で監督デビュー、中国の董子健(ドン・ズージェン)、香港の顏卓靈(チェリー・ガン)、台湾の林柏宏(リン・ボーホン)という両岸三地の新世代俳優のトップが共演しました。
今年の台湾映画の3位ですが、タイミング悪く中国の戴立忍(ダイ・リーレン)バッシングと重なった為、海外展開にブレーキがかかってしまったのは残念です。ちなみに、このバッシングは全くの"言いがかり"です。
数ヶ月後に林柏宏が金馬奨で助演男優賞に輝き、彼の演技を最も高く評価した審査員は中国の名優陳建斌(チェン・ジエンビン)でした。
台北電影節では、原住民の子ども達と家族、生活を描いた『只要我長大』が100万元大賞と長編劇映画賞、陳潔瑤(チェン・ジエヤオ)監督が監督賞、子役達10人が新人賞、編集賞の5冠に輝きました。
しかし、金馬奨では中国映画が圧倒的に強く、メインの賞は先述の林柏宏の助演男優賞しか獲得できませんでした。
作品賞や監督賞はじめ多くの部門にノミネートされていた下半期の期待作『一路順風』と『再見瓦城』は、残念な結果になってしまいました。
秋の金馬影展オープニングを飾った鍾孟宏(チョン・モンホン)監督の『一路順風』は、許冠文(マイケル・ホイ)を香港から来たタクシーの運転手に設定、麻薬を運ぶ客(納豆)を乗せて南下するうちに事件に巻き込まれていくロードムービーです。
鍾孟宏監督独特のブラックユーモアとバイオレンスで見せていく本作はさすがの出来映えで、戴立忍(ダイ・リーレン)、吳中天(マット・ウー)、庹宗華(トゥ・ゾンホア)、梁赫群(ビンセント・リャン)、陳以文(チェン・イーウェン)、黃健瑋(ホアン・ジエンウェイ)ら演技派男優達の共演も胸躍る映画でした。
同じく台北金馬影展でクロージング作品となった趙德胤(チャオ・ダーイン)監督の『再見瓦城』は、ミャンマーからタイに渡った不法労働者の男女を描いたラブストーリーで、柯震東(クー・チェンドン)の復帰作となったことでも話題になりました。
監督はヒロインの吳可熙(ウー・カーシー)と柯震東に皿洗いや農作業、タイの工場で従業員と同じ生活と仕事を体験させるなど一年半もかけた準備で、リアリティを追求しました。
そして、沈滞ムードの中でもさすがのクオリティと斬新さで唸らせてくれたのは、ドキュメンタリーでした。
楊力州(ヤン・リージョウ)監督が金馬奨50年を記念して製作した台湾映画と俳優史の『我們的那時此刻』、趙德胤(チャオ・ダーイン)監督が実兄の生き様を撮った『翡翠之城』、李念修(リー・ニェンシウ)監督による国共内戦など波乱の人生を生き抜いた男の回想記『河北台北』。
日本統治時代の台湾文学者達を描いた黃亞歷(ホアン・ヤーリー)監督の『日曜日式散步者』はこれまでの常識を破るような新しい手法の映像作品で、金馬獎で最優秀ドキュメンタリー賞に輝き、台灣國際紀錄片影展の台湾作品コンペでグランプリ、台北電影節で脚本賞と音声デザイン賞を受賞し、世界各国の映画祭で話題を呼びました。
3日間に渡り、2016年の中華圏の映画を振り返ってご紹介しました。
今年もご愛読ありがとうございました。
来年も、アジアンパラダイスをどうぞよろしくお願いします。
皆さま、良いお年をお迎え下さい。そして素敵な映画に出会えますように!
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