第53回金馬獎頒獎典禮〜プレスセンター受賞者編
まずは新人賞の孔維一(コン・ウェイイー)10才、作品賞を獲った中国映画『八月』の主役です。金馬奨史上最年少の新人賞受賞となりました。
前の席にいたカメラマンは『失控謊言』の陳庭妮(アニー・チェン)を期待していたようですが、私は『皮繩上的魂』の金巴(ジン・バ)希望でした。(^O^)
プレスセンターに現れた孔維一は、お母さんに付き添われ訳わからない風で実は金馬奨がどういうものなのかも知らずに台湾に来た為、全く実感がなかったようです。もともと監督と彼のお父さんが友達だったことから出演したとのことで、撮影中は毎日1〜2時間しか寝る時間がなかったのがつらかったと言っていました。(中国の労働基準法って…?)
助演女優賞は香港映画『一念無明』の金燕玲(エレイン・ジン)。心の病で伏せっていて感情の爆発と落ち込みの激しい役でです。感情を爆発させる演技は比較的簡単ですが、それを鎮めた表現は逆に難しく、それが秀逸だという審査員の評価でした。
金燕玲「思いもよらない受賞で本当にラッキーです。これまで金馬奨に6回ノミネートされていますが、実際に受賞した2回は想定外でした。昔『牯嶺街少年殺人事件』や『ヤンヤン夏の思い出』でノミネートを希望していましたが、それは叶いませんでした。今回は楊德昌(エドワード・ヤン)監督トリビュートの年に金馬奨に参加でき、トロフィーまでいただきとてもうれしく思います。
この映画は低予算の為私の撮影期間は1日だけでしたがシーン数は多く、ほかの映画だったら2〜3日はかかるであろうとても濃い内容でした。ありがとうございました」
そして助演男優賞で 『六弄咖啡館』の林柏宏(リン・ボーホン)の名前が発表された時は、プレスセンターの取材陣は「えええ〜?!」というすごい声が上がりました。
秦沛(ポール・チョン)、曾志偉(エリック・ツァン)、林雪(ラム・シュ)というベテランの強者たちに加え評判の高い納豆(ナードゥ)という面々を差し置いての受賞に、私もビックリしました。
しかし審査員は、既成のイメージを脱し本作に強い力を与える演技を見せたとことを高く評価し、特に林柏宏の存在すら知らなかった中国の俳優で監督の陳建斌(チェン・ジエンビン)が「優秀な役者が持つ貴重な素質である“柔軟性”“ユーモア”“爆発力”の全てを備えている」と絶賛しました。
林柏宏「素晴らしい先輩俳優の皆さんと共にノミネートされただけでとても光栄な事だと思っていて、受賞できるなどと全く思っていませんでした。トロフィーを受け取った後、舞台袖にいた監督やスタッフたちの顔を見たらその場で泣き崩れてしまいました。
今回はこれまでどの監督も僕に要求しなかった、悪ふざけが大好きでやんちゃなな役を与えてくれた呉子雲監督と廖明毅監督に感謝しています。こんなに一つの役柄を楽しんだ事もありませんでしたし、董子健(ドン・ズージエン)と顏卓靈(チェリー・ガン)と共演して多くのことを学びました。皆さんありがとうございました」
許冠文(マイケル・ホイ)が有力視される中、主演男優賞に輝いたのは『不成問題的問題(ミスター・ノー・プロブレム)』の范偉(ファン・ウェイ)でした。
東京国際映画祭では最優秀芸術貢献賞を獲得した梅芳(メイ・フォン)監督のモノクロ作品で、范偉は本人曰く"悪い人ではないが、よくよく考えてみると恐ろしい人物"を演じました。
審査員は老舎の小説をここまで生き生きと表現した事に驚き、人の“誠実さ”というものを繊細に演じ極端に恐ろしいものに表現したことに唸らされたということでした。
范偉「本作はとても薄味の映画です。監督と演技は淡々としたものにしようと共通認識を持っていたのですが、それは評価されにくいと思っていました。ですから審査員の方々がこのように辛抱強く、じっくりと我々の淡々とした演技の裏に潜む技を発見して下さった事に特に感謝したいです」
今回の授賞式で一番驚き、感動的だったのは主演女優賞のダブル受賞でした。まず周冬雨(チョウ・ドンユー)の名前が呼ばれ場内が沸き上がりましたが、少しおいて「もう一人、馬思純(マー・スーチュン)」と発表された時は本人はもちろん会場とプレスセンターにいた全員が歓声を上げました。
2009年の第46回に張家輝(ニック・チョン)と黃渤(ホアン・ボー)が何回も投票を繰り返したものの決着がつかずに主演男優賞をダブル受賞にしたことはありましたが、今回は理性と感性がぶつかり合う演技が素晴らしく、2人の役は光と影=一心同体という理由で審査委員長の許鞍華(アン・ホイ)が提案し三分の二の同意を得て決定したものだそうです。
周冬雨「人生で初めての経験で、どのように気持ちを表していいのかわかりませんが、とにかく光栄です。本音を言えばこの映画はヒットしないのではないかと思っていたのです。でも今日このような良い評価をいただき、一生懸命仕事をすれば"天の時は地の利に如かず。地の利は人の和に如かず"(天のもたらす幸運は地勢の有利さには及ばず、 地勢の有利さは人心の一致には及ばない)"と私に教えてくれました」
馬思純「もしこの映画で受賞出来る人がいたらそれは冬雨だと思っていました、彼女の演技は素晴らしいと思いましたから。ですから彼女が呼ばれた時、ホッと一息つけた、という気持ちでいました。人生はいつでも驚きに満ちていますね、とても嬉しいです」
プレスセンターではトロフィーにではなくふたりにKissをリクエストし、うれしそうにそれに応えていた周冬雨と馬思純が可愛かったです。
『七月與安生』は前評判も高く、実際に見て本当に素晴らしい作品だと思いました。陳可辛(ピーター・チャン)プロデュース、若く才能あふれる曾國祥(デレク・ツァン)監督という布陣の中、彼女達の演技はほんとうに見事でした。
最優秀監督賞は、『我不是潘金蓮』の馮小剛(フォン・シャオガン)。この映画は構図も美術も物語も、実験的で特別な作品です。
馮小剛「私はかなり長い間映画を撮り続けていますが、その結果、経験は蓄積されるもののそれが逆に新しい作品を撮る時の障害になったり制限をかける可能性があります。ですから今回は処女作を撮影するような気持ちで撮りたいと思いました。
このやり方は多くの友人に反対されましたし正しいのかどうかわかりませんでしたが、金馬奨が今日私に答えをくれました。私がこだわった手法は正しかったと。金馬奨に感謝しています」
そして作品賞は新人監督の張大磊(チャン・ダーレイ)による『八月』、ダークホースでした。東京国際映画祭で上映されたので、ご覧になった方もいらっしゃると思いますが、『不成問題的問題(ミスター・ノー・プロブレム)』と同じくモノクロで撮られた1990年代初頭の内モンゴルを舞台にした、少年の目がとらえた静かに、しかし大きく動いていく社会を描いた作品です。そして、この少年は監督自身で、映画に出てくる映画の撮影所で働く父親も、一緒に登壇した実の父で今回この映画に出資しています。
張大磊監督「本当に思いもよりませんでした。審査員の方々や台湾の観客の方々が私の感情に寄り添っていたのだと思います。この映画は本当にスタッフ全員が力を合わせて完成させた映画です」
張建華(監督の父)「私は内モンゴルの映画撮影所の編集技師でした。映画撮影所の拡張に伴い古いスタジオを取り壊す事になったのです。映画の中に出て来たところです。そして息子がこの状況を見て、映画を撮らずにおく事はできない、もし今撮らなければ全てがなくなってしまうと言いました。そこで私はまず自分達のお金を投入し取り壊す前に撮影所を撮ることができたのです。息子がこの映画により当時の様子を残してくれたのはとても幸せな事だと思っています」
最後に、金馬奨の審査システムはとても透明だということをお伝えしておきます。
まずエントリー作品から第一次選考をする審査員がジャンルごとにおり、次にノミネート作を決める全く違う11名がいます。
最後は新たな審査員6名+第二段階の審査員の中から4名が加わった10名で本選が行われます。この全審査員のプロフィルは公式サイトで紹介されていますので、興味がある方はご覧下さい。
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