台湾映画の新しい潮流を感じよう!〜上映会&トークショー〜第7回『台北の朝、僕は恋をする(原題:一頁台北)』、キュートな映画に観客ほっこり!
本作は、『パリ・テキサス』や『ベルリン、天使の唄』『ブエナビスタ・ソシアルクラブ』などのヴィム・ヴェンダース製作総指揮で2010年のベルリン国際映画祭において最優秀アジア映画賞を受賞した作品です。
なぜヴィム・ヴェンダースが、というと、陳駿霖監督は2007年に卒業制作の『美』がベルリン国際映画祭の短編映画コンペで受賞し、もう一人のプロデューサーイ・イナがヴィム・ヴェンダースにこの短編を見せたところ新しい才能に力を貸そうということになりました。
監督の陳駿霖(アーヴィン・チェン)は1978年にアメリカのボストンで生まれ、サンフランシスコで育ちました。大学時代に楊德昌(エドワード・ヤン)監督の『ヤンヤン夏の思いで』に衝撃を受けて、知り合いを通じて楊德昌に会うことができ映画学校に行こうと思うと話したところ映画は学校で学ぶものではないと言われたそうです。
そして映画学校に行くのをやめたら楊德昌から現場で働いてみないかと誘いを受けアシスタントを務めることになります。ところが間もなく楊德昌は病気になりこの世を去ってしまいました。
そういう経緯から、この映画の最後に「エドワード・ヤンに捧ぐ」というメッセージが添えられています。
監督はその後2012年に『明天記得愛上我(Will You Still Love Me Tomorrow?)』というハートウォーミングなコメディを発表して、日本ではアジアフォーカス福岡国際映画祭で上映されました。
本作は、アメリカ育ちの監督が見た台北とそこに生きる人々を描き、全編夜のシーンで綴られています。これは、監督が夜の台北はとても独特で美しく、ラブストーリーの最高の舞台になると思ったからだそうです。
これまでに例のない夜だけの映画ということで、色々反対意見もあったり、昼夜逆の生活を強いられたスタッフや出演者の苦労もあったそうですが、オリジナリティにあふれる映画として成功しました。
出演者をご紹介をします。
カイを演じた姚淳耀(ジヤック・ヤオ)は、映画やテレビ、舞台で活動する俳優で、陳駿霖監督が認められるきっかけになった短編映画『美』にも主演しています。最近は司会者としての才能も発揮して、去年金鐘獎で旅番組の司会者賞を受賞しました。
監督は、この役のキャラクターにピッタリの自然体ということで起用したそうです。
スージー役の郭采潔(アンバー・クォ)は、歌手としてデビューし人気がありましたが、2008年にドラマ『無敵珊寶妹』で邱澤(ロイ・チウ)の相手役として抜擢され、本作がスクリーンデビュー作です。この年の台北電影節で新人賞を受賞、2012年では映画『LOVE』で助演女優賞を獲得して台湾を代表する若手女優の1人として大活躍しています。
外見はキュートだけど内面は寂しいスージー、大勢のスターやモデルの中から彼女しかいないと思ったと、監督が言っていました。
刑事を演じた張孝全(チャン・シャオチュアン)は、2006年の『花蓮の夏(原題:盛夏光年)』で頭角を表し、2012年の『GF*BF(原題:女朋友。男朋友)』では台北電影節で主演男優賞台湾に輝き、最近では香港映画でも活躍する台湾を代表する俳優です。
本作では珍しくカツラを付けていますが、これは"いかにもカツラ"というの非現実的なところが狙いだと、監督が言っていました。80年代の香港映画に出てくる刑事のイメージで、なんともおかしな味を見事に出していましたね。
柯宇綸(クー・ユールン)は、子役出身で、侯孝賢(ホウ・シャオシェン)監督の『戀戀風塵』、楊德昌監督の『牯嶺街少年殺人事件』『カップルズ』ほか、有名監督の作品に多々出演。若手の名バイプレーヤーとして台湾映画に欠かせない存在です。不動産屋で働きながらも、かつて黒社会で名を馳せた社長で叔父の血を引く小悪党ぶりを見せ、本作の滑稽さの象徴として見事な働きぶりを見せています。
さて、本作で主人公2人が出会う書店は、ご存じの方も多いと思いますが、台北で24時間営業している誠品書店の敦南店で撮影されています。
監督が台北に来てこの書店で座り読みをしている若い人の姿にカルチャーショックを受け、またここが出会いの場になっていることを発見してこの設定になったのだそうです。
【誠品書店 敦南店】台北市大安区敦化南路一段245号B2~2F(MRT「忠孝敦化」駅出口6より徒歩約5分)
そして、もうひとつの舞台の夜市は「師大夜市」です。師範大学のすぐそばにあり、台湾大学からも近いので学生が多く、家族連れやお年寄りまで毎日賑わっています。
映画の中でもカイとスージーが列に並ぶ「許記」は有名店で、ここの生煎包(焼いた小さい肉まん)はとっても美味しくいつでも長蛇の列です。
【師大夜市】台北市大安区龍泉街、師大路周辺(MRT「台電大楼」3番出口より徒歩)
また、カイとスージーが刑事に追われて紛れ込む公園でのダンスの軍団。台北に行かれた方はたぶんよく目にする光景だと思います。ロケ場所は大安森林公園ですが、市内のあちこちの公園でおばさんを中心としたダンスが盛んです。だいたいは誰もがすぐに踊れる簡単な振り付けで、皆さん楽しんでいますね。
この映画では、特別にプロが振り付けしたダンスなので、ちょっと複雑な振りになっています。
【大安森林公園】台北市新生南路二段1号(MRT「大安森林公園」駅からすぐ)
2人が歩く歩道橋は忠孝西路の台北駅と善導寺の間にあります。
ここは、戴立忍(ダイ・リーレン)監督の『あなたなしでは生きていけない(原題:不能没有你)』でも使われました。子供の養育権を得られずその解決のために奔走するも行政をたらい回しにされた父親が、歩道橋の柵の外側で娘を抱きかかえて理不尽な法と社会に抗議するシーンです。
【忠孝西路中山路天橋】忠孝西路一段と中山北路一段の交差点(MRT「台北」駅、「善導寺」駅から徒歩約5分)
カイとスージーが拉致された友達を取り戻しに行く場所が、台北市の公館から新北市永和區に架かる永福橋のたもとです。
この橋は、淡水河の支流の一つ新店溪にかかる長い橋で、公館駅から歩いて10分くらいで着きます。
この橋の上は、『百日告別』で石頭が同僚の女性を送り、明け方にやるせない気持ちで走るシーンのロケ地です。
【永福橋】台北中正区(MRT「公館」駅から徒歩約10分)
『台北の朝、僕は恋をする』で出てくる「師大夜市」のすぐそばに、10月28日から待望の日本公開が決まった『星空』で主人公の少年少女が訪れるジグソーパズルの店があります。ジミーの作品のパズルもひとつのコーナーになっていて、ポストカードになる40ピースのミニパズルから数千ピースの大きいものまで揃っています。好きな絵をパズルにしてくれるサービスもります。
林書宇(トム・リン)監督の『星空』は、10月28日から新宿K'sシネマほか全国順次公開です。
【雷諾瓦拼圖文化坊 師大店】台北市泰順街44巷27号
『KANO 1931 海の向こうの甲子園』のロケ地は嘉義を中心に台湾中南部がほとんどですが、台北でも1箇所だけ撮影をしました。近藤兵太郎監督が恩師の佐藤監督と会うシーンで使われたのが「山治居酒屋」です。
西華飯店の向かいの路地にあります。二人が座るテーブルの奥から他の客の話し声が聞こえてくるので、もっと沢山席があるように感じていたのですが、これが映画マジック。実際にはカウンター5席とテーブル席が1つ、小上がりの狭い部屋のみでした。コース料理のみで私は一番安いコースにしましたが、5000円くらいだったと思います。
【山治居酒屋】台北市松山区民生東路三段130巷18弄5号
月曜日~土曜日 12:00~14:00、18:00~22:00 日曜日 休業
松山空港に近い富錦街は、美しい街路樹のトンネルとおしゃれカフェやショップで人気です。『藍色夏恋』で桂綸鎂(グイ・ルンメイ)と陳柏霖(チェン・ボーリン)の通学路の一部として、『台北カフェストーリー』では林辰唏(リン・チェンシー)が、どちらも自転車で走っています。ちなみにこのあたりはクリエイターやデザイナーのオフィスが多い場所です。
【富錦街の美しい街路樹のトンネル】台北市松山区民生東路五段69巷2弄
最後は、12月16日から日本公開が決まった『52Hzのラヴソング』のロケ地です。
まだご覧になっていない方が多いと思いますが、パン屋の青年と花屋の女の子が出会うシーンです。
この映画も台北の街のあちこちで撮影されましたが、詳しいご紹介は映画公開後にします。
魏徳聖(ウェイ・ダーシェン)監督による17曲のオリジナル曲で綴られるハッピーなラブストーリー、メインキャストの4人は小玉、小球、舒米恩、米非、みんなミュージシャンです。ほかにベテラン歌手の趙詠華、「セデック・バレ」の林慶台だってラブソングを歌っています。
12月16日から渋谷のユーロスペースほか全国順次公開です。
台北市松山區三民路102巷付近
このように『台北の朝、僕は恋をする』ほか誰もが行かれるロケ地、台北に行った時に立ち寄ってみてください。
恒例の抽選会では、10月27日から台湾で公開される『阿莉芙』のクリアファイル(王育麟監督&舞炯恩のサイン入り)、映画「報告老師!怪怪怪怪物!」のフェイスパック、雑誌「な〜るほど・ザ・台湾」を計9名の方にプレゼントしました。
次回は10月7日に『共犯』の上映と進化する台湾サスペンス映画についてのトークですが、すでに申し込み受付は終了しています。
次々回は12月3日に映画のサウンドマンを描いたドキュメンタリー『擬音』(台湾で5月に公開、日本未公開)の上映と金馬奨取材レポートです。10月中旬にご案内記事を掲載しますので、台湾文化センターのHPとアジアンパラダイスをチェックして下さい。
★リンクは有り難いのですが、写真や記事の転載は固くお断りします。
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コメント
昨日イベントに参加させていただきました。以前にも観ている映画ですが、何度観ても台湾の空気を感じることのできる素敵な映画です。
江口さんのお話もカツラの話など更に興味深く映画を観ることのできるお話でとても楽しかったです。
台湾にハマってまだ5年ですが、江口さんのお話の中に出てきた映画やドラマはほとんど見ていてロケ地巡りをしている私
にはとても参考になりました。
52Hz〜のポストの場所はまだupされないかと思い帰りの電車の中でググって探してしまいました。
クジ運のない私が当たったり、いい意味で予想をはるかに上回るとても素敵で楽しく、為にもなるイベントでした。
江口さんをはじめご尽力いただきました皆様、ありがとうございました。
投稿: 高須 | 2017/09/10 01:08