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2017/12/02

台湾映画の新しい潮流を感じよう2017〜上映&トークショー、超満員の『擬音』で締めくくり!

1019niyin1昨年に続き台湾文化センターとアジアンパラダイス共催で開催してきた「台湾映画の新しい潮流を感じよう2017〜上映&トークショー」、今日の『擬音』が今年の締めくくりでした。
本作は王婉柔(ワン・ワンロー)監督が台湾映画の音響効果の第一人者である胡定一(フー・ディンイー)を記録した優れたドキュメンタリーで、未公開作品である事、そして東京国際映画祭で上映されたもののチケットが買えなかった方もたくさんいたことから、貴重な機会だと皆さんから喜んでいただけました。

まず最初に、今回の上映の実現には王婉柔監督の多大なご協力があった経緯について少しご説明しました。
今年の5月に台湾で監督にインタビューした時に、日本語字幕さえ付けられれば上映できるのにDVD発売の時に日本語字幕をつけたりしませんか…とお聞きしたところ、数日後に監督が「私が字幕を付けるから、翻訳者を紹介して」と言われ、友人がこの作業に協力することになりました。
字幕製作というのは、普通専門の字幕製作会社が担当しますが、監督は何でもおできになる方なので、ご自身で全て字幕製作をして下さいました。

1019niyin2さて、映画ができるまでには様々な工程があり、色々な分野のスペシャリストが関わっています。音響効果は、映画の中の人物の動作、場面転換、感情の起伏など様々なものを表すのに欠かせません。この音作りのことを英語で「フォーリー」と言い、映画に出てきた胡定一のような方をフォーリー・アーチストと呼びます。
もちろん映画だけではなく、テレビやラジオ、舞台にもフォーリー・アーチストがいます。
私は以前ラジオ局で番組を作っていましたが、私のつとめていたラジオ局にも、効果音を作り続けて何十年というフォーリー・アーチストがいました。効果音をオーダーしに行く時、そのワンダーランドのような作業部屋に入るのがとても楽しみでした。女性の足音ひとつにしても、何歳くらいの人とかどういう状況かがわかるように台本や資料を渡します。胡定一のようにハイヒールや色々な靴を履いて年齢や状況にあわせた歩き方の音を作ってくれました。

こういう一見地味な仕事なのでなかなか映画製作の中でも注目されない部分ですが、『擬音』の監督は「この様なテーマの映画は見る人がいないかも知れないし、売れないかも知れないが、そんなことは重要ではない」と胡定一を説得し、3年をかけて彼の仕事を記録しました。
最初は本にまとめようと思っていた監督ですが、彼の仕事ぶりを見るうちに映像として記録したいという気持ちがわいてきたそうです。
でも当初はなかなか胡定一が承諾してくれなかったと言っていました。でも、監督の粘り勝ちで、ついに胡定一の承諾をとり、仕事の邪魔をしないようにカメラを回し続けたそうです。

0525wang2この粘り強い監督、背が高くて小顔でチャーミング、モデルみたいな方ですがとても知的で、そのうえ気さくなお人柄です。
1982年生れで、台湾の國立清華大學を卒業後にイギリスのExeter Universityで脚本を学び、2009年から映画のプロデュースや助監督、編集などを始め、様々な映画製作に関わってきました。

そんな素敵な監督と、フォーリー・アーチストの胡定一からムービーメッセージが届きました。

1202event1王婉柔監督
「日本の皆さんこんにちは。
『擬音』が日本で上映されて、とてもうれしく思います。
この映画を日本でも受け入れてもらい気に入って下されば、と思います。
胡定一(フー・ディンイー)さんのプロ魂はとても貴重だということと
ずうっと音を作り続けていくことは素晴らしいと思います。
皆さんがこの映画を楽しんで、この“音”についてのテーマを知って下さればうれしいです。」

1202event2胡定一さん
「日本の皆さんこんにちは。
『擬音』を楽しんでいただきとてもうれしいです。
この映画では、我々裏方の撮影の前からその後まで描かれています。
皆さんが映画製作の中での音響効果が何かということを知ってもらえればと思います。
音響効果の仕事は皆さんが想像しているのとは違います。パソコンからアーカイブの音を取り出すのではありません。
多くの時間をかけて音響効果師が想像力と創作力を駆使して、やっといい音ができあがります。
この映画を気に入っていただき、たくさんの人がこの仕事に従事しているということを知ってもらえればうれしいです。」

1019niyin3この映画の製作過程も色々な困難があったそうですが、撮影中にちょっとした雑音でも出すと、フォーリー・アーチストの仕事に影響してしまうので、そこには細心の注意を払ったと言っていました。
また、映像に合わせて音を作っていく仕事だけに、制作途中をドキュメンタリー映画の為に見せることを承諾してくれる映画会社はなかなかいなくて、唯一協力してくれたのが、李崗(リー・ガン)監督。『想飛』(2014年)の音作りの現場が本作の中で紹介されています。張睿家(レイ・チャン)と許瑋甯(アン・シュー)が夜道を歩くシーンでの足音ほか、色々な音作りがとても興味深いシーンの一つです。

1202huただ、時代の流れと共にこの音作りの世界も段々変わっていき、その映画ごとに丁寧な音を作るのではなく、デジタル化した色々な効果音のアーカイブを使うことも増えてきています。色々なことがデジタル処理でできるようになっていき、胡定一のようなフォーリー・アーチストを継承する人は減ってきています。
映画の中に出てきた助手の女の子がいましたが、彼女はその後フォーリーだけでなく他の仕事もやらされて体調を崩し、この業界から去ったそうです。
でも、胡定一の息子さんのように、続けている人もいます。
監督は、少なくなるだろうけれど、フォーリー・アーチストは絶対になくなることはないと思うと言っていました。

そして胡定一は映画会社を退職し第一線を退きましたが、2017年金馬奨で年度傑出映画人賞を受賞しました。

1202event3続いて、11月25日に行われた2017年金馬奨レポートです。
今年は台湾映画が奮闘して、最優秀作品賞に楊雅喆(ヤン・ヤージャ)監督の『血觀音』が輝きました。この作品では、惠英紅(カラ・ワイ)が主演女優賞に、14才の天才少女文淇(ウェン・チー)が助演女優賞に選ばれ、アウト・オブ・コンペティションの観客賞も受賞しました。
80年代末期、政財界を繋ぐ重要な役割を果たす女性だけの一家を中心に、見かけは華やかな政財界のセレブ家族たちの闇を描いた映画です。

1202event4また、最多ノミネートだった『大佛普拉斯』は、新人監督賞、撮影賞、脚色賞、最優秀オリジナル音楽賞、最優秀オリジナル楽曲賞の5冠を獲得しました。
2014年に同映画祭で上映された独特のブラックユーモアと台湾の生命力がみなぎる短編『大佛』を長編にしたもので、当時の審査員だった鍾孟宏(チョン・モンホン)監督が気に入り長編化されました。自らプロデューサーを買って出た鍾孟宏監督は、中島長雄名義で撮影も担当、撮影賞も獲得しています。
内容は、仏像を作る工場の警備員が、社長のドライブレコーダーを盗み見ることから展開するブラックユーモアです。

1202event5助演男優賞は『阿莉芙』の陳竹昇(チェン・ジューシェン)、台北で美容師として働く原住民のゲイの青年が主人公で、彼の生き方や彼を取り巻く仲間や家族の人間模様を描いた笑って泣けるヒューマンドラマの中で、性転換したドラッグクイーン・ショーパブを経営するママの役を見事に演じました。
『大佛普拉斯』では社会の最下層で生きる男を演じていますが、この二つの役の演技のギャップには驚くばかりです。もともと舞台劇からスタートした人で、今年はこの二作で大役を演じ大きく飛躍しました。

1202event6新人賞には東京フィルメックスでも上映された『強尼.凱克(ジョニーは行方不明)』の瑞瑪席丹(ルイマー・ジータン)が受賞。珍しい名前ですが、レバノンと台湾のハーフだそうです。
このほか、東京国際映画祭で上映された『報告老師!怪怪怪怪物!』は、音響効果賞を獲得し、台湾映画が大奮闘した結果になりました。

1202event7主演男優賞は、こちらも東京国際映画祭で上映されました『老獸(老いた野獣)』の涂們(トゥー・メン)。事業に手を出しては失敗し、ギャンブルを繰り返す懲りない日々を続ける荒くれダメ親父を演じて、大きな賞はこれが初となりました。
監督賞は、東京フィルメックスでも上映された『嘉年華(天使は白をまとう)』の文晏(ウェン・チャン)。海辺のリゾート地で起きた少女に対する性的暴行事件を発端に、女性たちを取り巻く様々な問題を描き、評価されました。

1202event8そして、受賞式終了後にプレスセンターにおいて金馬獎主席を4年の任期を終えた張艾嘉(シルヴィア・チャン)が、来年から李安(アン・リー)監督にバトンを渡すという発表がありました。
映画製作に忙しい李安監督ですが、張艾嘉からのオファーを受け一ヶ月ほど熟考して引き受けることを決めたそうです。

さらに、受賞者やノミネート者の他にも、プレゼンターとしてレッドカーペットを彩った多くのスターや監督たちの写真をお見せしました。
レッドカーペットの詳細については、こちらの記事をご覧下さい。
http://asian.cocolog-nifty.com/paradise/2017/11/54-c332.html

1202event9最後に、恒例の抽選会で『擬音』の王婉柔監督サイン入りフライヤー、金馬奨パンフレット、金馬影展覧カタログ、最新台湾映画のフライヤーセット、な〜るほどザ・台湾を計13名の方にプレゼントしました。

★リンクは有り難いのですが、写真や記事の転載は固くお断りします。

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