台湾映画上映&トークイベント〜台湾映画の"いま" 第四回『星空』に感動の渦!
『星空』は、2009年に絵本作家の幾米(ジミー)から「星空」発売時に林書宇(トム・リン)が映画化の相談を持ちかけられ、原作を気に入り原子映象で制作を決定し脚本執筆に取りかかりました。
これまで幾米の原作は杜琪峰(ジョニー・トー)監督の『ターン・レフト、ターン・ライト』、王家衛(ウォン・カーワイ)プロデュースの『地下鉄』など香港でしか映画化されていません。
幾米は特に思い入れのある『星空』は台湾映画にしたいとこだわり、『九月に降る風』で才能を認めていた林書宇監督に絵本を送り打診しました。
そして林書宇監督は新しい作品として『九月に降る風』とは違うタイプの物語を見つけたいと思っていたそうで、この13才の少女の目線で語られる物語に感動し幾米のオファーを受けました。
林書宇監督はすぐに制作会社の原子映象に話を持ちかけ脚本執筆に入りました。主役の少女に徐嬌(シュー・チャオ)を起用したいと思い、中国と強いパイプを持っている当時原子映象のプロデューサーでもあった陳國富(チェン・グォフー)監督に相談したところ脚本を気に入り、では、これを自身が関わる中国の制作会社「華誼兄弟」が中国と台湾の有能な監督を支援し10本の映画を作るプロジェクトH計劃に提案してみようということになりました。
もともと低予算の予定でしたが、H計劃の1本になれば予算も大幅に増え、ファンタジー部分を描く費用が確保できるということ、そして林書宇監督が杞憂する"中国の検閲と規制"も問題にはならない作品であることから、計画が進みました。
従来の4倍の製作費を獲得して大作となった『星空』は、特に力を入れることが可能になったファンタジー部分は各映画賞で視覚効果部門の受賞やノミネートを果たしました。
そして、阿里山の奮起湖というところに劇中主人公2人が尋ねていくおじいさんの山小屋を作りました。
重要な場所のためロケハンで台湾全土を回ったスタッフでしたが、最後に林書宇監督自身が見つけたのが、観光名所としても人気の阿里山登山鉄道の「奮起湖」。候補地は海抜1405メートルで沼地のため、歩行も困難なところに建築資材を運んで丸太小屋を作るのは至難の業でしたが、スタッフ達の頑張りで見事完成しました。
この山小屋は撮影後嘉義縣政府が駅から行きやすい場所に移して、一般客に開放されました。現在もまだ残っているようなので、行ってみたいですね。
主人公の徐嬌は、ご存じのように周星馳(チャウ・シンチー)の『ミラクル七号』で男の子の役を演じて話題になりました。
林書宇監督はこの少女役は演技経験のない実際の中学生のオーディションでは難しいと判断し、思いついたのが徐嬌だと言っていました。彼女はさすがの存在感と演技力で、この映画を成功に導いた大きな要因となりました。
当時は台湾の中学校に留学という形で学校に通いながら、撮影していたそうです。
日本公開の時には、お忍びでわざわざ新宿の映画館に友達と見に来たと本人がSNSにアップしていました。本当にありがたいです。
いまはとても美しく成長して、女優として活躍しています。
主役の徐嬌のキャスティングは順調で、少年の方はオーディションで1000人くらいの中から林暉閔(リン・フイミン)が選ばれました。
監督は外見がこの少年のイメージ通りで他の候補者と違って安定感があり、雰囲気が落ち着いていた事と、彼の目に注目したそうです。
強い目力の奥に弱く崩れ落ちそうなものがあり、そこに惹かれたと言っていました。
そして、最終候補の数人と徐嬌に実際に演技をしてもらい、監督は徐嬌に意見を聞いたところ、林暉閔が良いと言うので決定したそうです。監督は2人の化学反応が楽しみだったと言っていました。
この演技で台北電影獎の新人賞を受賞し、現在はイケメン大学生です。先生役だった石頭(ストーン)の五月天(Mayday)と同じ事務所にずうっと所属していますので、卒業したら俳優活動を再開するのかも知れません。
成長した小美は、桂綸鎂(グイ・ルンメイ)が友情出演という形で演じました。
監督は、以前から知っていていつか一緒に仕事したいと機会を待っていたそうで、役名の小美は、字が違いますが桂綸鎂のニックネーム小鎂と同じ発音なので良いかも…と思ったそうです。
それと、桂綸鎂はフランスに留学していたことがあるので、舞台のパリにぴったりだということもあったと言っていました。
原作では、成長した小美はパリではなくニューヨークの美術館に行くのですが、なぜパリにしたのか…。
監督曰く、小美のお母さんの仕事の背景からパリにしたということです。
小美の父は俳優としての活動は少ないですが歌手、司会者としても有名な庾澄慶(ハーレム・ユー)。母の方は歌手、女優として活躍する劉若英(レネ・リウ)です。女優としての受賞も多く、最近は監督デビューもして、話題になっています。
お祖父さんを演じているのは曾江(ケネス・ツァン)、香港の実力派俳優で、優しさと存在感でこの映画を支えています。
小傑の母はモデルで女優の蔡淑臻(ジャネル・ツァイ)、本作では珍しいお母さん役で脇を固めてくれました。
そして、小傑の先生役で、五月天(Mayday)のギタリスト石錦航(Maydayのストーン)が出演しています。演技にも定評があり、監督はこの後『百日告別』で主役に起用しています。この映画の主題歌の作曲も石錦航です。
『星空』のロケ地は、台北とパリ、そして阿里山の「奮起湖」に山小屋を作り、ふたりが歩くトンネルもこの周辺です。そして幻想的なボートに乗っている湖は、宜蘭の太陽埤で撮影されました。
また、 ふたりの乗ったファンタジー汽車が降りる駅は阿里山森林鉄路の竹崎車站、雨宿りをする教会は、外観は阿里山鉄道の二萬坪車駅のそばに作ったセットで、内部は雲林縣にあるカトリック教会「天上母后堂」です。
台湾に行かれた事のある方は一度は行ったことがあると思う台北駅でも撮影されました。
映画の初めの方で小美がお爺さんのところへ行こうとする時、ベンチに座った目からこぼれた涙が雪の結晶になるシーンが印象的ですね。
いまは撮影当時とは様子が変わっていますが、目を閉じて駅の喧噪を音だけで聞いていると雰囲気は感じられると思います。
2人が通う学校の校舎内と外観とで、2つの学校が使われました。
カラフルでユニークな懷生國中(中学)の内装が映画のイメージにピッタリだったので監督が選んだのですが、この学校には大きな正門がないので正門と外観は成功高級中學(高校)を使いました。
二人がなくしたゴッホの「星空」の1ピースだけ買おうとしますが、断られてしまうシーンを撮影したのは、雷諾瓦拼圖文化坊というジグソーパズル専門店です。
師大夜市のすぐ脇にあり、ジミーの作品のパズルもひとつのコーナーになっていて、ポストカードになる40ピースのミニパズルから数千ピースの大きいものまで揃っています。好きな絵をパズルにしてくれるサービスもあります。
2人が歩いていると紙の動物たちが付いてくる、とてもファンタジックなシーンで使われたのが、有名な観光スポット淡水の漁人碼頭にある情人橋です。
台湾での公開当時、この橋のそばにあるホテルで記者会見が行われ、この橋のたもとで監督と出演者の写真撮影を行いました。
今回は『星空』の台北ロケ地から南に下りながら名作の撮影場所をご紹介していきました。
最初は台北から1時間くらいの新竹、ここは林書宇(トム・リン)監督の故郷で、青春映画『九月に降る風』はここで撮影されました。
大きな木の下にある7人の男子生徒のたまり場は、竹東の駅に近い道沿いにあります。この写真は2015年ですが、だいぶ様子が変わっていました。
まわりの古い家屋が壊されていましたが、赤レンガの壁の一部が残っていたのと、この木がそのままだったことは幸いです。
映画の主な撮影をした高校は、國立竹東高級中學です。
道路から見上げるような高台に建つ立派な校舎で、正門から校舎までは50〜60段もある階段を登らなければなりません。敷地内や校舎内も階段が多く、虫も多いので女子生徒はスカートは穿かないのだそうです。映画では、衣裳としてのスカートを作って着用してもらったと監督が言っていました。
鳳小岳(リディアン・ヴォーン)が演じる阿彦の家は、日新體育用品店という本物のスポーツ品店を借りて撮影されました。新竹駅近くにあります。撮影の時にショウケースのガラスを割ってしまったそうですが、ちゃんと弁償したと言っていました。
ここでの撮影の後、店の協力に感謝の意を込めてスタッフ全員にみんなここで少なくとも1つ買い物するように指示し、監督自身は阪神タイガースのキャップを買ったそうです。
少年達がよく行く野球場は、新竹市内の市立中正棒球場を使いました。えっ、こんなところに!と驚くほど街中の繁華街にあります。
外観は塗り替えられて当時とは違いますが、中はほとんど変わっていません。ただ安全の為に現在は内野全体にネットが張られています。
観光スポットの新竹都城隍廟のすぐそばで、誰でも入ることができます。
その新竹都城隍廟では、阿彦が他校の女子生徒をナンパするシーンのロケ地です。張捷(チャン・ジエ)扮する小湯が座っていたテーブルもそのままでした。
ここは名物のビーフンやつみれスープ(貢丸湯)の店が並んでいて、グルメスポットでもあります。ちなみに監督はつみれスープが大好きだそうです。
続いては彰化、『あの頃、君を追いかけた』のロケ地です。
ここも九把刀(ギデンズ)監督の出身地で、ご自身の経験や思い出とともに故郷を舞台にしています。
ここは主人公たちが通っていた精誠高中で、九把刀の母校でもあります。
みんなが朝礼をしていた校庭や国旗掲揚台、主人公たちが掃除をしていた木の下のベンチは、校庭のトラックのすぐ横にありました。
主人公たちがたむろする「阿璋肉圓」。もうここはロケ地のメッカで屋根の看板はフィルムデザインの場面写真、店の前には悪ガキたちの等身大立て看板ありと映画一色です。
もともと人気店なので、いつも地元客で賑わっています。
肉圓(バーワン)は、サツマイモ粉や片栗粉などのでんぷんで作られた皮で、豚肉・しいたけ・筍などで作った餡を包み、油で揚げたり蒸したもの。
次は陳妍希(ミシェル・チェン)と彎彎(ワンワン)が放課後に行くという設定の「八寶冰」。ここにも映画のポスターや雑誌の記事の切り抜きなどが貼ってあり、聞くとオーナーご夫妻は実際に映画にも出演していたそうです。
このあたりは永楽街商圏という繁華街で、彰化市内で最も賑やかなエリアだそうです。ファッション、アクセサリーはじめ小吃などお店がいっぱい。
柯震東が賭けに負けて丸坊主にしに行ったのが、「美光理髮廳」。
撮影の時は理髪台が3つあったそうですが、2016年に行った時は2つになっていました。中を見せてもらいたかったのでお店の方にお願いしたのですが、話してくれた男性は映画には出演しなかったそうで、そういえば映画の中では柯震東にクロスをかけるのは女性でした。
そして彰化のシンボル八卦山大佛。
柯震東(クー・チェンドン)と陳妍希が校庭のベンチで夜中に大仏に行くとキョンシーが出るという噂について話すシーンで、大仏の前をキョンシーがぴょんぴょん行進します。
他愛のない噂話ですが、キョンシーがヤクルトのカラボトルを踏んで転び、次々とコケていく図が笑えます。
さぁ、次は台南です。
伝統的な宴席料理を作る出張料理人總舗師(ツォンポーサイ)を描いた『祝宴!シェフ』が台南で撮影されました。
夏于喬(キミ・シア)の実家で、お母さんの林美秀(リン・メイショウ)が歌って踊る食堂に使った建物が、媽祖樓天后宮の横にあります。公開当時には多くの人が訪れたようで、貼られたロケ地マップがまだ残っていました。
今度は高雄。
高雄は、映画撮影地として市がとても力を入れているところです。中でも多大な協力をした
『ハーバー・クライシス<湾岸危機>Black & White Episode 1』では、警察署「南區分局」のセットをそのまま残して1年間の期間限定で観光スポットとして活用していました。
場所は、高雄港の真愛碼頭で、外にはパトカーやヘリコプター、署内のセットには小道具や資料が展示されていて、とても楽しいアミューズメントでした。
高雄港沿岸には倉庫群をリノベーションした駁二芸術特区というアートスペースがあります。ここに、南區分局と一緒にバー(臨海酒吧)も開放されていました。
この駁二芸術特区は随時様々な展示がされていて、『賽德克、巴萊(セデックバレ)』公開時には軍用機が置かれていたり、五月天のコンサート展などエンタメ好きにとっても楽しいスポットです。
そして、台湾の最南端墾丁と言えば『海角七号 君想う国境の南』。
ロケ地巡りも大人気で、当時はロケ地巡りの観光バスも出ていました。
今でもロケ地マップのサイトはそのままですので、これから行方は参考にして下さい。
ここは、映画の最初の方で、モデルを引き連れた友子がバスの運転手と通れる、通れないとやりあった西門です。
恒春古城を取り巻く、東西南北4つの城門のうちの一つです。
范逸臣(ファン・イーチェン)が演じる阿嘉の家は、文字通り「阿嘉の家」として撮影時のまま保存されています。二階の部屋には曲を作っていた机やベッド、ギターが置いてあったり壁に場面写真が貼ってあったり、未配達の郵便物もありました。
一階では、阿嘉と友子の衣裳を着て記念写真が撮れるようにもなっています。
墾丁を代表するリゾートホテル夏都沙灘酒店(シャトーホテル)は、広い敷地内に7棟の建物と2.8キロに及ぶ美しいビーチがあります。
映画ではコンサートを開く会議をしたり、バンドの練習場所だったり、色々な登場人物がここでエピソードを展開します。
阿嘉が「行くな!」と言って友子を抱きしめるシーンで使われたのは、白沙の砂浜です。映画では、ホテルの裏手のコンサート会場になるビーチですが、実際にはシャトーホテルからかなり離れたところにあります。
名前の通り白い砂がとてもきれいなところです。
練習をサボって阿嘉がひとりで海を眺めている場所が、萬里桐です。
木の下に座っている阿嘉の後ろ姿が、映画のビジュアルでも印象深いですね。ここを訪れる人は、必ず同じポーズで記念写真を撮っていきます。
この他、たくさんの撮影ポイントが点在しているので、タクシーをチャーターして回るのがベストです。
最新情報1
台湾では、来週から台北電影節が始まります。今年は期待作満載で楽しみです。
長編劇映画部門には『阿莉芙』『血觀音』『烏鴉燒』『誰先愛上他的』『范保德』『角頭2:王者再起』『海人魚』『紅衣小女孩2』『十年台灣』『小美』がノミネート。その他特別上映作品も魅力的なラインナップです。
受賞式は7月14日、次回のイベントではそのレポートをしますので、どうぞお楽しみに!
最新情報2
日本では、8月2日に今日ご覧いただいた『星空』と同じ林書宇監督の『百日告別』、そして魏徳聖(ウェイ・ダーシェン)監督の『52Hzのラヴソング』のDVDが発売されます。どれにも劇場用パンフレットのミニサイズが特典として封入されています。
先月ご紹介した『淡水河の奇跡』同様、7月28日と29日に代々木公園で行われる台湾フェスタ2018で、2日間限りの特別価格3000円で先行発売されます。
この後恒例の抽選会では、高雄の電影資料館オリジナルグッズ(マスキングテープ、ペンケース)と情報誌「たびオン」、台湾エンタメパラダイスvol.20を、計10名の方にプレゼントしました。
次回は大阪アジアン映画祭でも高評価を得た張震(チャン・チェン)主演の『停車』を上映、トークは作品解説と台北電影節レポートです。
近々ご案内を告知しますので、台湾文化センターとアジアンパラダイスをチェックして、ぜひお申し込み下さい。
★リンクは有り難いのですが、写真や記事の転載は固くお断りします。
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