アジアンパラダイス

ステージ上には、出演者やスタッフたちが並び、プレスセンターでは監督の死後本作に関するサポートをしてきたFIRSTという映画祭実行委員会のプログラムディレクターがマイクの前に立ちました。
金馬影展では「金馬學院」というワークショップを行っており、今年で10回目を迎えたのですが、胡波監督は2014年にこれに参加しており、本作も学長である侯孝賢（ホウ・シャオシェン）監督に見てもらっていたそうです。
監督が4時間という長尺でもこの完成品にこだわった映画だけに、撮影賞にノミネートされていた監督の友人范超（ファン・チャオ）はじめ、参加したスタッフ・キャストたちの涙の受賞は、とても感動的でした。

今回最も選出に時間がかかった主演男優賞は、中国映画『我不是藥神』の徐崢（シュー・ジェン）が獲得しました。
プレスセンターでの審査員の講評の時に、3回の投票を行った結果だと説明がありました。2回目は徐崢と段奕宏（ドゥアン・イーホン）、邱澤（ロイ・チウ）の3人が残って投票が行われ、徐崢と段奕宏による決選投票で徐崢に決定したそうです。
「我々のチームは愛にあふれています。みんな若いけど映画に対する情熱は人一倍あります。私の頭の光の輪は彼らが私にくれたものです」と、冗談も交えてお礼を述べていました。

主演女優賞は、中国の強豪の中でなんと一回ですんなり台湾の謝盈萱（シエ・インシュエン）に決まったということでした。舞台出身で映画で初めてのノミネートということで、かなり緊張していたようです。
「初めて踏んだ國父記念館のステージが舞台出演でなく金馬奨の受賞だなんて…。人生には色々思いがけないことが起きます。本当に思いもよりませんでした。監督、相手役の邱澤、そしてこの映画に関わった全て人にお礼を申し上げます」と声を詰まらせていました。

助演男優賞に輝いたのは、香港の袁富華（ベン・ユエン）。この方も舞台出身で、『翠絲（トレイシー）』での演技が評価されました。
「私は24歳でこの世界に入り、6年後に一生この仕事を続けようと思いました。色々な事がありましたが、30年続けてきてあの時の決意が間違っていなかったことがこれで証明されました。皆さん、本当にありがとうございます」と、母語の広東語でスピーチしました。息子のような若い李駿碩（ジュン・リー）監督も、目を真っ赤にして袁富華に拍手を贈っていました。

助演女優賞は、台湾映画『幸福城市』の丁寧（ディン・ニン）でした。
「俳優がここに立つには、多くの人のサポートが必要です」と作品に関わった人や家族・友人の名前を挙げて感謝した後「この賞を同性愛の友人達に捧げます。この世界を変えるには大きな力が必要です。愛は最大の力です！」と力強くしめました。
そしてプレスセンターにはアメリカ人のご主人がエスコートしてきて、カメラマン達のリクエストに応えて熱いキスシーンも披露しました。

ノミネート者全員が台湾という新人賞には、『只有大海知道（海だけが知っている）』で最年少の鍾家駿（ジョン・ジアジュン）が選ばれました。
「ありがとうございます。僕は演技が大好きです。演技の機会をくれた監督、ありがとうございます。僕を助けてくれたスタッフの皆さん、ありがとうございます。審査員の皆さんに感謝します」としっかりしたスピーチをしましたが、少年らしくボロ泣きで、プレゼンターの謝金燕（シェ・ジンイエン）が涙をぬぐう心暖まる一幕もありました。
客席から見守る崔永徽（ツイ・ヨンフイ）監督も号泣していました。

金馬奨には初参加で『影』により監督賞を受賞した張藝謀（チャン・イーモウ）は、「思いも寄らなかった。40年映画を撮ってきて、初めて金馬奨の監督賞をもらいました。これからの中国映画を担う若い強力な監督の中、私のような年取った監督が受賞しました」と笑いながら言っていましたが、プレスセンターでも「若い優秀な監督達に期待しています。これからもっと素晴らしい作品を作って欲しい」と、新世代監督達にエールを送っていました。

この張藝謀監督がプレゼンターとして新人監督賞を贈ったのが、将来を託した若手監督の１人『我不是藥神』の文牧野（ウェン・ムーイエ）です。「とてもラッキーです。多くの先輩達に助けられ、この賞をいただくことができました。これからも、先輩達に負けないように更に良い作品を作っていきたいと思います」と、スピーチしました。
プレスセンターでは、プロデューサーの寧浩（ニン・ハオ）監督や主役の徐崢ら強力な先輩たちについて「私が監督に集中できるようにしてくれて、本当に感謝しています」と語っていました。

そして、香港や中国でアクション監督として活躍している谷垣健治は、今回『捉妖記 2』と『邪不壓正』の2作品でノミネートされており、レッドカーペットは単独で担当した『捉妖記 2』のチームとウォーキングしましたが、受賞対象となったのは何鈞（ホー・ジュン）、嚴華（イエン・ホア）と共同の『邪不壓正』の方でした。
谷垣さんがメインだったのかどうかわかりませんが、代表としてひとりで参加、洪金寶（サモ・ハン）からトロフィーを受け取りました。
「僕の中国語はあまりうまくありませんが、とてもうれしいです。ありがとうございました！」と簡潔なスピーチでしたが、身体全体で喜びを表していたのが印象的でした。

長編アニメーション賞は、これまでにも数々の受賞をしている『幸福路上』です。
主役の声を担当した桂綸鎂（グイ・ルンメイ）が、うれしそうに宋欣穎（ツォン・シンイン）にトロフィーを渡していました。
「最初はプロデューサーにも製作を反対されて、一人で頑張りました。でも、桂綸鎂はじめ多くの方々がこの映画作りを支えてくれました。本当にありがとうございました。現在の台湾は楽観できない状況です。それぞれ人生は山あり谷ありです。この映画を通して皆さんを応援できればと思います。台湾人に幸福な道を！」と、とても素敵なスピーチでした。

そして、ドキュメンタリー映画賞は『我們的青春，在台灣』が獲得しました。傅榆（フー・ユー）監督はプロデューサーと共にトロフィーを受け取り、泣きながらのスピーチでした。
「青春は美しい時期です。でも色々な間違いも犯しやすい時でもあります。国と国もそうです。私は台湾が独立した国家と認められる日を期待しています。私は台湾人です」
という作品と連動してのスピーチでしたが、最後の部分が“政治的発言”として今回の騒動の発端となりました。

この後、主演女優賞のプレゼンターをつとめた涂們（トゥー・メン）が「中国台湾の金馬奨」と言い、主演男優賞を受賞した徐崢が「中国映画が更に発展するように」と発言。
最後の審査員の講評でプレスセンターに来た主席の李安（アン・リー）は、台湾の記者から涂們の発言についての質問に対し、こう答えていました。
「台湾は自由です。金馬奨はオープンなアワードです。どんな愛も語れるし、言ってはいけないこともありません。そして、参加してくれた全ての方が大切なゲストです。金馬奨は芸術を芸術として政治的な干渉は受けません。芸術は純粋であることを皆さんに尊重していただきたい。金馬奨は90%のノミネート者が参加しているという中華圏では数少ないアワードです。皆さん、映画人を尊重して下さい」

金馬奨は55年の歴史と実績がある映画賞で、特に審査の公平性は世界に誇れるアワードです。
今回の騒動によって、今後の金馬奨に影響を及ぼすことがないよう、心から祈ります。

※これまでの第55屆金馬獎に関する記事

2018/11/19
第55屆金馬獎レッドカーペット！
http://asian.cocolog-nifty.com/paradise/2018/11/55-6342.html

2018/11/17
第五十五回金馬獎、作品賞は『大象席地而坐（象は静かに座っている）』！ 主演男優＆女優賞は徐崢（シュー・ジェン）と謝盈萱（シエ・インシュエン）！
http://asian.cocolog-nifty.com/paradise/2018/11/post-f42c.html

2018/11/16
金馬奨アウト・オブ・コンペ、国際批評家賞は『迫り来る嵐（原題：暴雪將至）』、観客賞は『象は静かに座っている（原題：大象席地而坐）』！
http://asian.cocolog-nifty.com/paradise/2018/11/post-3427.html

2018/10/01
第五十五回金馬獎ノミネート発表！
http://asian.cocolog-nifty.com/paradise/2018/10/post-1b4b.html

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