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2019/11/30

台湾映画上映&トークイベント〜台湾映画の"いま" 〜オリジナリティと未来へ向けて『血観音(原題:血觀音』超満員!

1021dm 11月30日に行いました台湾映画上映&トークイベント〜台湾映画の"いま" 〜オリジナリティと未来へ向けて第8回は、楊雅喆(ヤン・ヤージャ)監督の三代の女系家族を中心に、政治とビジネスを取り巻く複雑な人間関係と愛憎を描いた『血観音(原題:血觀音』。
昨年大阪アジアン映画祭で上映されましたが、いまだ配給がつかず劇場未公開のため待ち望んでいた方も多かったようで、超満員のお客様で今年の最後を締めくくりました。
アンケートでは、複雑な人間関係でわかりにくかったけれど、作品のおもしろさにグイグイ引きこまれたという感想が多く見られました。少しでもわかりやすいように作った人物相関図がたいへん好評で、作品の理解する上でお役に立てたようでした。
また、監督のミニインタビュー映像、金馬奨レポートもお楽しみいただけたようで、何よりです。

113003 本作は、楊雅喆監督の3作目になります。
デビュー作は2008年のやんちゃな少年たちのハートウォーミング・ストーリー『Orz Boyz!(原題:囧男孩)』、この年の台湾映画では桁は違うものの『海角七号』に次ぐ興行成績第二位でした。台北電影獎で監督賞、金馬獎で助演女優賞を受賞しました。
2014年に『GF*BF(原題:女朋友、男朋友)』を発表、1980年代から27年にわたる男女3人のラブストーリーで、急激な変化をとげる社会背景の中、友情、愛情、親子の愛を描いた素晴らしい作品です。興行成績は7位、台北電影奨で主演男優賞と助演男優賞、金馬賞では主演女優賞獲得しました。
全三作で受賞とヒットの両方を手にするすごい監督です。

113002 楊雅喆監督は、前作『GF*BF』のインタビューの時に、政治の世界で贈収賄に骨董や美術品が使われているので、それを描きたいと話して下さいましたが、このような映画に仕上がったことに本当に驚きました。
物語の舞台は1987年、台湾は戒厳令が解除され一気に土地の開発が進み経済も発展する時代です。
最初に書いた脚本は実際の汚職事件をベースにした推理ものだったそうですが、プロデューサーがこれにダメ出しし、もっと女性を描くように、母と娘の関係を融合させるように指示したということです。
監督は女性の気持ちを理解するために『ラスト、コーション』の原作者でもある女性作家、張愛鈴(アイリーン・チャン)の全小説を読み、政治家は人をコントロールするのがうまい、母親が娘にあれこれ指図するのは一種のマインドコントロール、愛そのものが束縛であることをベースにして何度も書き直し、ようやくプロデューサーからOKをもらいました。
「彼女は恐い」と笑いながら監督が言っていましたが、このプロデューサーは『GF*BF』や戴立忍(ダイ・リーレン)監督の『あなたなしでは生きていけない(原題:不能沒有你)』、林書宇(トム・リン)監督の『星空』、『百日告別』ほか秀作を次々送り出してきた優秀な方です。

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この複雑な人間関係と、それぞれのドラマを書き込んでいったのですから、3年かかるのも納得です。

さて、自分の理解度を確認するために相関図を作ってみました。

113006 この映画の要となる棠夫人を演じた惠英紅(カラ・ワイ)は香港のアクションを中心に活躍するスターですが、2017年の『Mrs.K』を最後にアクションを卒業、演技派女優として数々の受賞歴があります。
今回は政治とビジネスの間をつなぐ骨董商で、善と悪の裏表の顔を見せる女系家族の長という難役です。家を守るためには様々な悪事を企み娘まで犠牲にするという徹底ぶり。
映画の中では描かれていませんが、もともと香港のダンサーで、将軍の妻に迎えられたという設定だそうです。上昇志向あふれる女性が家族愛で娘達をコントロールし、一端手に入れた地位を守るためには手段を選ばないというのも納得できます。
娘の棠寧を香港で富豪の家に置き去りにして提供するというのも、並みの母親にはできないこと。おそらく、彼女自身もこれと同じような経験をしてきたのではないかと想像できます。
「ミト計画」という土地転がしに関わり当初の予定地の誘致に失敗も、しっかりと決定した土地も買い占めているという周到さ。これを知られた警察には娘を使ってその写真で脅して口封じ。
娘を使って贈賄したものの、開発予定地が変わったため建設省の役人を自殺に見せかけた殺害教唆、尻尾を握られている林一家の殺害教唆、ビルマへ逃げる娘と林一家殺害事件の実行犯の殺害教唆。
また、愛人である与党の秘書長を党首にしようと、政敵である王院長の土地転がしをマスコミにリークして失脚させます。

なかなかこの役を引き受けてくれる女優が見つからずに監督たちは苦労したそうですが、香港まで会いに行きすぐにOKしてくれたそうです。
年老いたシーンもすべて自身で演じたほか、劇中で『上海灘』の主題歌を歌うシーンもあり、自費でかなり時間をかけてレッスンしたそうです。

113007 棠夫人の娘寧は、吳可熙(ウー・カーシー)。趙德胤(チャオ・ダーイン)監督の『再見瓦城(マンダレーへの道)』で知られていますが、趙德胤作品のほとんどのヒロインをつとめ、短編で主演女優賞を獲得しています。最新作『灼人的秘密』は彼女が書いた脚本が受賞し、東京フィルメックスで『ニーナ・ウー』というタイトルで上映されました。
本作では奔放な役どころで過激なベッドシーンに挑戦していますが、演技のために脚本家やスタッフたちとAVを見て、動きや表情について研究し話しあったと明かしていました。
自分を道具として使う母に反発しつつも思慕の念は強く、世間的には妹とされている娘棠真に対する愛情が伝わらない哀しみをすばらしい表現で見せています。

113008 棠夫人の次女とされていますが、実は寧の娘で棠夫人の孫を演じた文淇(ウェン・チー)は、台湾人ですが両親の仕事の関係でほとんど中国で活動している天才少女。本作撮影時は14才だというのにこの演技、台北電影奨と金馬奨で助演女優賞を受賞しました。
監督は「恐るべき14才。かつての安達祐実のように見た目は可愛くて清純だけど、早熟な少女を見事に演じている」と絶賛していました。
従順そうでいてかなりしっかりと主張を持った女の子が、様々な経験を積んでいく過程を驚くべき演技力で見せてくれます。

113009 その棠真の成長後を演じたのが柯佳嬿(アリス・クー)、出番は少ないものの最強の女性になった様子はクールな外見を生かし、物語を締めくくる大役を見事にこなしました。
心に傷を負った少女が最後のキーとなるシーン、棠夫人の意思を却下して、生きながらえることによる凄まじい罰を与える…想像を絶する恐ろしいこの女性を演じるにあたり脚本を深く読み込んで臨んだというだけあって、色々な思いを隠しつつ見せる微妙な表情は秀逸でした。

113011 一家惨殺事件で殺される高雄縣議會議員の妻役は、日本人で台湾で活躍する大久保麻梨子が演じました。
2013年の金鐘賞で助演女優賞を受賞し、活躍中です。
今回は、見かけは静かでしとやかな日本人妻ですが、実は多くの秘密を持つ人物を演じました。その秘密とは、棠夫人と夫が関わる不正融資の資金を日本の自分の口座を経由してマネーロンダリングをしていること。裏返すと棠夫人の急所を掴んでいる訳です。
中国語がわからない振りをしていますが実は堪能で、土地開発計画の揺らぎを察知し、上司である劉高雄縣縣長の夫人に翡翠を贈るという機転をきかせたりするなかなかの女性。このことから棠夫人に裏切りを知られ、殺されてしまいます。
さらに、娘と使用人のMarcoの交際を認めず常に監視しているのは、Marcoに自分や土地開発計画に関与する夫人達に性的奉仕をさせているという、かなり黒い人物の表裏をきちんと演じていました。

113012 女優が圧倒する映画なので、出てくる男優陣はあえてテレビでお馴染みの顔を揃えたということですが、中に異色の人が出演しています。
その人は映画製作の現場に欠かせないスタッフとして30年というベテランで、金馬奨で年度台灣傑出電影工作者に選ばれた王偉六(ワン・ウェイリウ)です。「僕と似ているでしょ」と笑っていました。
監督は、「今回男優は脇役が多いので、観客に覚えてもらおうと思い個性的な人を選びました。さすがに本物の黒社会の人に出てもらうわけにはいかないから、それっぽい人たちを選んだ」と言っていました。
刑事役の傅子純(フー・ズーシュン)は台湾語のゴールデンタイムのドラマで活躍する俳優ですが、あまり経験のないベッドシーンではかなり気を遣ったり苦労したと記者会見の時に語っていました。

113013 さて、監督の次回作はムービーメッセージでも話していた公共テレビ製作のドラマ『歩道橋の魔術師』です。
これは日本でも翻訳出版された台湾の小説「歩道橋の魔術師(原題:天橋上的魔術師)」のドラマ化で、1979年の台北を舞台に、西門町と台北駅の間、中華路と呼ばれる幹線道路に沿って壁のように立ち並ぶ「中華商場」の歩道橋で子供たちに不思議なマジックを披露する魔術師をめぐる連作短篇集です。
このことについてもお話しして下さっているので、ご覧下さい。

 

『歩道橋の魔術師』については、アジアンパラダイスで記事や楊雅喆監督インタビューを掲載していますので、ぜひチェックしてみて下さい。

2018/04/23
『歩道橋の魔術師(原題:天橋上的魔術師)』台湾でドラマ化に向けて写真・動画の募集を開始!
http://asian.cocolog-nifty.com/paradise/2018/04/post-8c79.html

2019/07/31
楊雅喆(ヤン・ヤージャ)監督インタビュー2019 in 台北!
http://asian.cocolog-nifty.com/paradise/2019/07/post-4017a4.html

2019/08/05
Podcast 楊雅喆(ヤン・ヤージャ)監督インタビュー2019 in 台北!
http://asianparadise.sblo.jp/article/186375170.html

1125gfa1 この後は、先日取材してきました金馬奨のレポートですが、すでにアップしてありますので、リンク先の記事をご覧下さい。

2019/11/26
第五十六回金馬獎レポート〜受賞式&プレスセンター編
http://asian.cocolog-nifty.com/paradise/2019/11/post-f2b1b2.html

2019/11/24
第五十六回金馬獎レポート〜レッドカーペット編
http://asian.cocolog-nifty.com/paradise/2019/11/post-25c8f2.html

最新情報は霹靂布袋戲の雲林日帰りスタジオ見学ツアーと、今日から渋谷ユーロスペースで始まった『台湾、街かどの人形劇』をご紹介しました。
こちらも以下の記事をご参照下さい。

2019/11/18
台湾文化センターのイベントから誕生した霹靂布袋戲の雲林日帰りスタジオ見学ツアー、2020年も開催決定!
http://asian.cocolog-nifty.com/paradise/2019/11/post-6a93f8.html

2019/11/09
台湾映画『台湾、街かどの人形劇(原題:紅盒子)』楊力州(ヤン・リージョウ)監督来日!
http://asian.cocolog-nifty.com/paradise/2019/11/post-793dc2.html

2019/07/26
楊力州(ヤン・リージョウ)監督のドキュメンタリー映画『紅盒子』が『台湾、街かどの人形劇』の邦題で11月日本公開決定!
http://asian.cocolog-nifty.com/paradise/2019/07/post-8379d0.html

1130event2 そして恒例のプレゼント抽選会では、楊雅喆監督のサイン入り『血観音(原題:血觀音』フライヤー(ワールドバージョン)、金馬奨のパンフレット(非売品)、金馬影展のパンフレットを、計15名の方にさし上げました。

今年も8回にわたりお送りしてきました台湾映画上映&トークイベント〜台湾映画の"いま" 〜、ご参加いただいた皆さま、アジアンパラダイスの記事でお楽しみいただいた皆さま、ありがとうございました。
来年も実施できるよう、努力していきたいと思います。

★リンクは有り難いのですが、写真や記事の転載は固くお断りします。

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