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2019/12/31

2019年の台湾映画を振り返る!

1120detention3 今年の台湾映画は、前半これという作品がなくどうなることかと思いましたが、後半になって話題作が次々公開されました。
中でも突出していたのが、人気ゲームを映画化した『返校』。興行収入 2.59億台湾ドルを叩き出し、金馬獎でも5つのトロフィーを獲得して一人勝ち。
単にヒットと受賞というだけでなく、白色テロと正面から向き合った題材は10代の若者たちが台湾の歴史を再認識する絶好の機会となり、台湾映画史的にも特筆すべき事象だと言えます。

本作は、戒厳令下の高校で禁書の読書会が迫害の標的となった事件を描いた内容で、ゲームではホラー色を強く打ち出していますが、映画はホラーではなくファンタジー・サスペンスとして製作されました。
中国大陸では当然公開しませんが、香港ではもちろんヒットしています。
この映画のヒロインを演じた王淨(ワン・ジンン)は小説家としても活躍する才女で、映画やドラマで次々主演してきましたが、本作では金馬奨の主演女優賞にベテラン勢の中で唯一の若手ノミネート者となりました。

1231sun 金馬奨で作品賞はじめ主要部門を総ナメにした鍾孟宏(チョン・モンホン)監督の『陽光普照(ひとつの太陽)』は、東京国際映画祭でも上映された、ある一家の次男が犯罪に関わり収監されたことから始まる家族の崩壊と再生を描いたヒューマンドラマです。
これまでのブラックユーモアが特徴の鍾孟宏監督作品とは一線を画し、多くの賞を獲得してもなぜか興行成績に結びつかないという不思議な現象から逃れ、鍾孟宏監督にとって初の興収ベスト10入り作品になりました。
こちら、早くも1月24日からNetflixで配信開始予定です。

1231synapses そして、刑事事件で収監されていた張作驥(チャン・ツォーチ)監督が刑期を終えて復活したことも、今年のトピックです。
収監中も、刑務所の協力のもと同じ受刑者と共に獄中で短編映画を製作するなど精力的に創作は続けていましたが、新作『那個我最親愛的陌生人』で完全復帰。
この映画は認知症の夫を抱える女性と家族を中心にした人間模様が描かれ、金馬影展のオープニングを飾りました。受賞はなりませんでしたが、金馬奨で4部門にノミネートもされました。
同じ性暴力事件で起訴され裁判中の鈕承澤(ニウ・ チェンザー)監督は、11月の6回目の審議で高額な和解金を示し減刑を願っていると台湾の新聞が報じています。

1231run ドキュメンタリー映画も盛んな台湾では、アスリートで作家の陳彥博(チェン・イエンボー)が世界7大洲と8大極地のマラソンに挑んだ姿を記録した『出發』が興収トップ10入りし、台東に暮らす人々とボランティアたちにフォーカスした『如常』も13位につけています。
現在公開中の、台湾の観光キャラクターにもなっているツキノワグマの生態を追った『黒熊來了』が好調な滑り出しを見せており、日本で公開中の楊力州(ヤン・リージョウ)監督の『紅盒子(邦題:台湾 街角の人形劇)』も健闘しました。

1231kuantu 注目された若手・新人監督の筆頭は『返校』の徐漢強(ジョン・シュー)ですが、『狂徒』の洪子烜(ホン・ズーシュン)も注目されました。吳慷仁(ウー・カンレン)と話題のドラマ『我們與惡的距離(邦題:悪との距離)』でブレイクした林哲熹(リン・ジャーシー)をダブル主役にしたアクション映画は、これまでの台湾にないタイプの作品です。
サスペンスブームの台湾で、サイコ・サスペンスに挑んだ『緝魔』でデビューした盧豐淵(マーク・ルー)、興行成績では12位でした。

0708tff6 そして、俳優の藍正龍(ラン・ジェンロン)が『傻傻愛你,傻傻愛我』で満を持しての監督デビュー。自らの原案を徐譽庭(シュー・ユーティン)に脚本を託し、ダウン症の青年の初恋を通して、ハンディのある子供の家族や社会との関わり、愛と勇気を描いたハートウォーミングな映画を作りました。

0812walkingdead 昨年の『誰先愛上他的(邦題:先に愛した人)』で映画スターとして急成長した邱澤(ロイ・チウ)主演作が、2本公開されました。
『第九分局』は霊と対峙して事件の謎を解いていくMIBのような作品で、「鬼月」の門が閉じる8月29日から公開開始、初日から好調な滑り出しで5684萬台湾ドルという成績を上げて今年の2位。
すでにNetflixで配信が始まり、日本でも試聴できます。
もう1本は、映画作りを夢見るふたりの青年が事件に巻き込まれるブラック・コメディ『江湖無難事』。高炳權(ガオ・ピンチュアン)監督の笑いのセンスが光る作品で、邱澤の見せ方も『第九分局』のかっこいい刑事より、こちらの台客プロデューサー役の方が魅力的だと、個人的には思います。

0812magnificent 昨年『引爆點』で注目された莊景燊(ジャン・ジンシェン)監督の新作『最乖巧的殺人犯』も、印象深い作品でした。
貧困家庭や孤独、引きこもりなどにフォーカスをあてた社会問題を取り上げた作品で、主人公のアニメオタクを演じた黃河(ホアン・ハー)は惜しくも金馬奨の主演男優賞ノミネートを逃しましたが、繊細な青年が追い込まれて爆発する演技は多くの人が高く評価しています。
小規模公開だったため興行成績ランキングとは縁がありませんが、金馬獎の美術奨とデザイン奨にノミネートされました。

1124lian そして、今年の台湾映画界で最も注目と話題になったのは、中華圏で一番歴史と権威ある金馬奨でしょう。
昨年の授賞式での政治的発言問題に端を発し、すでに公表されていた審査委員長杜琪峰(ジョニー・トー)の降板、中国映画界の不参加表明で何かと取り沙汰されましたが、結果は既報のようにシンガポールやマレーシアなど東南アジアの優れた作品の参加でこれまでと変わらない盛り上がりで幕を閉じました。
その裏には、運営スタッフのたいへんな努力があったことは想像に難くありません。そして、主席である李安(アン・リー)の類い希なる人格とと見識、神対応で難局を乗り切りました。

今年もアジアンパラダイスを訪れていただき、ありがとうございました。
皆さま、どうぞ良いお年をお迎え下さい。

★リンクは有り難いのですが、写真や記事の転載は固くお断りします。

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