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2020/05/27

台湾の名優 吳朋奉(ウー・ポンフォン)を偲んで

0526wu1台湾の名優 吳朋奉(ウー・ポンフォン)が、5月25日に急逝されました。
この訃報は台湾の芸能界に衝撃をもたらし、日本の台湾エンタメ好きたちにも波及。
台湾の報道によると、訪れた姪御さんがベランダで倒れている姿を発見し搬送されたものの、残念ながらそのまま旅立ってしまったそうです。
死因は脳卒中と伝えられ、台湾では賴清德副総統も文化部長(日本の文科大臣に相当)も「台湾芸能界の損失だ」と惜しんでいます。

私は残念ながら個別インタビューをしていないのですが、あまりに残念なので追悼の意を込めて吳朋奉について書いておこうと思いました。

台湾では名バイプレーヤーと言われていますが、吳朋奉は主役もこなしています。
実は、数年前「台湾の主役も張る名バイプレーヤー」というシリーズ・インタビューを当時担当していた雑誌のコラムで始め、その二回目に吳朋奉を予定していたのですが、雑誌の休刊で叶いませんでした。
これまで200人以上の台湾芸能人をインタビューしているのに、間に合わなかったことが悔やまれてなりません。

吳朋奉は1964年台北に近い三重市で生まれ、1988年に劇團「零場121.25」で舞台俳優としてキャリアをスタート。1993年にスクリーン・デビュー、1998年からドラマに出演しています。
様々な役どころで存在感を表し、1999年に魏徳聖(ウェイ・ダーシェン)監督の第一作『七月天』で初めて金馬奨の助演男優賞にノミネートされました。
そして2010年、王育麟(ワン・ユーリン)監督の『父後七日(邦題:父の初七日)』の道士役で金馬奨の助演男優賞に輝き、代表作と言われています。

0526wu2その後も日本で公開されたり映画祭で上映された『賽德克·巴萊(邦題:セデック・バレ)』、『龍飛鳳舞(邦題:天龍一座がゆく)』、『總舖師(邦題:祝宴!シェフ)』、『阿莉芙(邦題:アリフ・ザ・プリン(セ)ス)』などで、名前は知らなくても顔を見ればああ、あの人!とわかる方も多いと思います。
金馬奨の他に、ドラマ『木棉的印記』で金鐘獎の主演男優賞、電視電影(テレビ映画)『歸途』で台北電影賞の主演男優賞を獲得し、台湾では「三金影帝」と言われる演技巧者です。

一青妙原作の日本映画『ママ、ご飯まだ?』にも出演しました。この時は宣伝担当者にお願いして吳朋奉の場面写真と白羽弥仁監督のコメントをいただき、記事を掲載しました。
http://www.asianparadise.net/2016/12/211-e4bb.html

最近は茄子蛋(EggPlantEgg)のMV3曲に出演し、「浪子回頭」での最後のひと言"看你緣投"は吳朋奉が監督に提案して加えたもので、名セリフと言われ、音楽ファンを魅了しました。

0526fuho1数々の名演の中でも、忘れられない作品と役どころを3つご紹介したいと思います。どれも王育麟監督作品です。
まずは、代表作『父後七日(邦題:父の初七日)』。
劉梓潔(エッセイ・リウ)が林榮三文学賞を受賞した自身の散文「父後七日」を脚色したもので、父の死から葬儀までの喧騒の7日間を描いた優しさとユーモア溢れる物語です。劇中、ほとんど台湾語で展開されるローカル色あふれるこの映画、当初は小規模で公開されたにも関わらず、口コミがジワジワと浸透し評判となり、大きな感動と共感を呼んで異例のロングラン上映、この年の興行成績第4位という大ヒットになりました。

0526fuho2突然の父の訃報に慌てる娘と息子に、叔父でもある道士が指示して伝統的な道教式の葬儀が執り行われるのですが、吳朋奉が演じた道士は常に人の死と向き合う仕事だからこその自然と人間の本質が見えます。
本人曰く"実は詩人"という設定がおもしろく、彼の詩に表されるユーモアと真理になるほど、と思わされます。真面目なのかいい加減なのかわからないけれど、真理を突いて納得させられるというキャラクターを体現したのは、吳朋奉ならではでしょう。
これが評価されて金馬奨で助演男優賞を獲得した時、うれしそうに「台湾映画がんばれ!」と叫んでいたのが印象的です。

☆『父後七日(邦題:父の初七日)』は日本での権利が切れるため、9月の「台湾巨匠傑作選」が最後の上映になります。

※これまでの参考記事
http://www.asianparadise.net/2012/01/post-ea29.html
http://www.asianparadise.net/2016/08/1-23d0.html

0526dragon1続いては、2012年の『龍飛鳳舞(邦題:天龍一座がゆく)』。
台灣で生まれ育ったオリジナル伝統芸能「歌仔戲(グアヒ)」の劇団一家の物語で、私にとって“出会えて良かった映画”のひとつです。
家族や親戚で構成されている劇団の中で、夫婦愛や浮気、嫉妬やいがみ合いなど色々な人間模様が笑いと涙で展開され、きちんと整理された構成の中でそのひとつひとつが"綾"となり、群像劇という美しい織物を編んでいます。
看板スターを演じる主役の郭春美(グォ・チュンメイ)は、実際に「春美歌仔戲劇團」の団長として活躍している人なので、舞台での男装の演技はもちろん、ひとりの女性に戻った時も魅力的。その他、個性豊かな俳優陣が織りなす色合いが見事。

0526dragon2この中で吳朋奉は元座長の息子、主人公の兄役で、妻に逃げられ飲んだくれる日々。母親に尻を叩かれ稽古の指導をするのですが、これがなかなか厳しい。そして新しい恋人がからんでの三角関係など見せ所はたっぷりあり、本作でもぐうたらと真剣さという男の二面性をリアリティとユーモアのバランスも良く見せてくれます。
舞台復帰した時のりりしい立ち役には、惚れ惚れしました。

☆『龍飛鳳舞(邦題:天龍一座がゆく)』は、9月の「台湾巨匠傑作選」で上映されます。

※これまでの参考記事
http://www.asianparadise.net/2012/02/post-ca12.html
http://www.asianparadise.net/2017/08/6100-5814.html

0526alifu1そして2017年の『阿莉芙(邦題:アリフ・ザ・プリン(セ)ス)』です。
原住民のゲイの青年と彼を取り巻く仲間、家族の人間模様を描いた笑って泣けるヒューマンドラマ。
手術で完全な女性になることを目標に台北でヘアスタイリストとして女装して働くパイワン族の青年阿莉芙(Alifu)を中心に、レズビアンのルームメイト、ドラッグ・クィーン・ショーパブのママほか王育麟の真骨頂である群像劇の中に、性差を超えた人間のアイデンティティーを笑いと涙で描き出しています。

0526alifu2この中で吳朋奉が演じたのは、ドラッグ・クィーン・ショーパブの経営者シェリーから一途に思われる配管工という役。彼はシェリーが若い頃から憎からず思っていたのですが、ゲイと知ってなかなか一線を越えられず常にシェリーのそばで見守ったり助けたりという曖昧な関係にとどまっています。最後の望みも叶えてやれずにシェリーを見送り、葬儀の席で偲び語るシーンは涙なくしては見られません。下品な言葉で笑わせながらも号泣させる吳朋奉の名演、忘れられません。

0526fuho3そんな吳朋奉が、送られる方になってしまうとは…。
王育麟監督は、FBで日本語でポストしています。
「どうしてこうなるの? 私たちはプレイし続け, 映画を作り続けなければならないのですね. オーマイガー!」
日本が大好きだった吳朋奉に向けての日本語のメッセージだったのでしょうか…。
そして中国語では「謝謝朋奉,但是你一點都不通知就走,我很不爽啊!」
(ありがとう朋奉、でも君は何も言わずに逝ってしまった。ひどいよ!)
さらに「永遠懷念你,你的粗口和演技。」
(永遠に君を想い続ける。君の悪態と演技を。)
そして私のポストへのコメントには英語で「So sad」と。

多くの作品で素晴らしい演技を見せてくれた吳朋奉ですが、私が心に残っているのは主に先に挙げた王育麟監督作品での演技です。
王育麟監督が、吳朋奉の魅力を全て引き出してくれたのかも知れません。
おそらく次も吳朋奉と一緒に映画を撮ろうと思っていたのではないでしょうか。

そして、鄭有傑(チェン・ヨウジエ)監督も台北電影節でワールドプレミアとなる新作『親愛的房客』のFBで、長文の追悼文をポストしていました。
「郭小隊長」という役だそうですが、どんな演技をされているのか…早く見たいです。
この他、2021年放送のドラマ『傀儡花(仮題)』での演技も楽しみです。

吳朋奉の葬儀は、6月7日に板橋殯儀館で行われるそうです。

素晴らしい作品、名演をありがとうございました!

(敬称は略させていただきました)

★リンクは有り難いのですが、写真や記事の転載は固くお断りします。

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