2020台湾映画上映&トークイベント「台湾映画の"いま"〜進化する多様性」第7回『『よい子の殺人犯(原題:最乖巧的殺人犯)』 』オンライン開催!黄河(ホアン・ハー)の演技に絶讃の声!
2000年以降の台湾映画の新しい流れがどのように台湾映画の"いま"に繋がってきたのか、そして"いま"何が起きているのかをお届けする台湾文化センターとアジアンパラダイス共催のイベントシリーズ、今年は新型コロナウイルス感染症の影響を鑑み、オンラインでの開催に変更しています。
この上映イベントは2000年以降の台湾映画の新しい流れがどのように台湾映画の"いま"に繋がってきたのか、そして"いま"何が起きているのかをお届けし、5年目を迎えました。今年は全て新作と未公開作品で台湾映画の「進化する多様性」を伝えていきたいと思っています。
ラブ・ファンタジー、シリアスな社会派、アクション・サスペンス、ドキュメンタリー、短編、青春映画、コメディなど、ここでしか見られない話題作と注目作を集めました。
第7回は、日台のアニメ文化を背景に、アニメオタクの主人公の恋と孤独、貧困家庭や引きこもりなどの社会問題も盛り込んだ『よい子の殺人犯(原題:最乖巧的殺人犯)』を上映しました。
人との関わりが希薄になっているところが増えている現代において、家族のあり方を見直す本作は、多くの観客の心を揺さぶり、台湾でも高評価を得ている主役の黄河(ホアン・ハー)の演技も多くの方から絶讃していただきました。
「80分でここまで心を揺さぶるストーリーテリングと演出も見事」「救いがない話なのに、後味が悪くないという、台湾映画のよさ(?)を感じさせる作品でした。映像も陰影があってかっこよかった」「黃河がオタクという役柄に完全に入り込んで素晴らしかったのと、脚本各登場人物の絶妙な関係とジレンマを80分ほどの時間で巧妙に、そして見事に書ききっていると感じた。一番気に入ったのが最後の結末で、人によって色んな感じ方があり、あえてはっきりとした一つの捉え方で終わらせていないことが、観客に色んなことを考えさせるのだろうと思った」「台湾の今が伝わってくる緊張感いっぱいの作品でした。登場人物への愛が感じられる監督の目線、俳優の演技などどれも印象的」「主演の黄河はたくさん出演作品を観ているが良い意味でイメージが違っていてびっくり」「前作『トレイシー』で初めて知った俳優・黄河の演技力に驚いた」
黄河は昨年の東京国際映画祭で上映された『トレイシー』で認知度が高まり、今年もまた『悪の絵』が上映されることもあり、ちょうどチケット発売日と重なった今日、購入したという方が多かったようです。
また、アフタートークでは本作の解説と台湾の脚本家事情についてお話ししましたが、作品の理解に役立ったという声を今回も多くいただきました。
「制作の背景を詳しく知ることができてよかった。監督や主演俳優のコメントもついていて豪華」「映画の背景や監督、脚本家、出演者の話を聞くことができたのが良かった。分かりやすい解説で語り口も良い」「監督のメッセージは予想していたが、まさか黄河のメッセージがあるとは思わなかったのでびっくり!とっても嬉しかった」「ストーリーの背景を聞くことができたのと、普段知ることのできない脚本家の話も大変興味深かった」「最近の作品は観ている人に考えさせる作品が多く、江口さんの解説のおかげで理解が深まる」「いつも新しい気付きを沢山いただけるトークタイム」
莊景燊(ジャン・ジンシェン)監督に加えて黄河からのムービーメッセージも、たいへん喜んでいただけました。
昨年この上映会でご紹介した莊景燊(ジャン・ジンシェン)監督の前作『High Flash〜引火点(原題:引爆點)』がおもしろかったので、この作品も期待して台湾の公開初日に見に行きました。
引きこもりのオタク青年の恋と、崩壊される家庭。殺人犯というワードがタイトルに入っているので、これがいつどんな形で誰が実行されるのか、というハラハラドキドキ感も相まって物語の展開に息を抜くことができませんでした。
そしてその結末をどう受け止めるか、頭の中を色々な感情と思考が渦巻きました。
この映画は、監督の身近にあった実話がヒントになったそうです。
監督の遠い親戚に、この映画の主人公阿南と同じような、社会や外部とコミュニケーションを取るのが苦手な人がいました。漫画やアニメが好きの彼はずうっと家の中で自分の好きなことをしていたそうで、一番好きだったのがピカチュウ。
その彼が心臓のトラブルで急死。それを、一緒に住んでいた家族が気づかず、発見したのが1〜2日後ということで、それを聞いた監督と奥様、脚本家の王莉雯(ワン・リーウェン)はとても驚きました。そばにいる家族が、なぜすぐ彼の異変に気づかなかったのか。その時に家族間の距離、そしてその問題を考えるようになりったということです。
この映画はそのことから発想を得て、それ以外に監督と脚本家の奥様がこれまで目にしたり耳にしたことからストーリーやキャラクターを設定していった、家族の物語です。
前作の『High Flash〜引火点(原題:引爆點)』』は、環境汚染や政財界の汚職といった問題にフォーカスを当てた作品ですが、今回は個人の生活に視点を置いています。これについて監督は、社会の最小単位である家庭内の問題は、潜在的に国家が抱える問題、社会がはらんでいる問題だと思う、と言います。
「映画の制作者は常に今我々が生きている世界や社会に何か伝えたいことがある。今回は、この家庭での問題を観客に伝えて、考えてもらいたいと思った」というのが、製作の発端だそうです。
監督についてご紹介します。
日本でも公開された体操少年達のドキュメンタリー映画『翻滾吧!男孩(ジャンプ!ボーイズ)』のプロデュースを皮切りに、脚本家で妻の王莉雯(ワン・リーウェン)と共に創作活動を続け、2008年に監督作の短編映画『愛瑪的晚宴』が国内外で受賞、公共電視のドラマの監督として金鐘獎ノミネートの常連となります。
2010年に王育麟(ワン・ユーリン)監督の『父後七日(父の初七日)』に王莉雯が主演した時は、助監督としてサポートしました。
2013年『High Flash〜引火点(原題:引爆點)』の最初のタイトルの脚本『阿海』が、金馬影展の創作プロジェクト賞、CNN獎、MONEFF獎、阿榮獎を受賞。
これに、エグゼクティブプロデューサーの張艾嘉(シルヴィア・チャン)ほかの意見も取り入れ、2017年の優良電影劇本(優秀脚本)賞を獲得しました。
そして2019年8月に、長編第二作『よい子の殺人犯(原題:最乖巧的殺人犯)』を公開。金馬奨の美術奨とデザイン奨にノミネートされました。
この映画の阿南のような問題に直面したら、彼のようになるのではなく、何か良い解決方法を考えて欲しい。鬱屈した感情を持つ阿南のような人間がいることに気づくと同時に、自分の力でうまく解決していく ことを考えて欲しい、そうなるべきだと監督は考えています。
阿南は、自分の鬱屈した感情を、愛するボビッターというキャラクターがいることでその気持ちの発露ができている。もしこういう好きなキャラクターもなかったら、何をしでかすかわからないとても恐ろしい人になってしまうだろう。生活を通して考えたことを観客に伝え、 観客の方々がまたそれを展開してくれればというのが、監督の思いです。
この映画に出てくる主人公が大好きなアニメは、日本の作品という設定になっています。
監督は、当初『ポケットモンスター』シリーズに登場する人気キャラクター ピカチュウを使いたいと思い、最初の脚本のタイトルは『強大的皮卡丘(最強のピカチュウ)』でした。
しかし、残念ながらピカチュウの版権が取れなかったため、自分たちで作るしかないということで『最強のボビッター』というアニメーションを製作しました。
アニメ『最強のボビッター』は、独自の日本で人気のアニメという設定ですから、もちろん台詞は日本語です。
日本人が聞くと吹き替えにはちょっと「?」という部分もありましたが、大目に見ましょう。
ピカチュウにかわる『ボビッター』というキャラクターを作り、撮影の1年前、劇中で小道具で使うこともあって、水筒やスマホケースなどのマーチャンダイジング商品を先に作ったそうです。
私も公開初日に見に行った時に、監督からサントラCDとうちわをいただきました。
そして、2015年の秋頃にまずキャラクターを決めて、アニメの脚本を書き、本編の脚本も書くなど8ヶ月くらいで準備したそうです。
ただ、ちょうどその時『引爆點』の資金調達で忙しくなり、かなり大規模な作品なので監督も脚本家の奥様もそちらで手一杯になった為、『最強のボビッター』は若い廖柏茗(リャオ・ボーミン)に書いてもらおうということになりました。
廖柏茗は面白く、キレのある台詞を書く人で、この優秀な脚本家に依頼することになりました。
そうしたら、『引爆點』より先に『最強のボビッター』に資金が集まりました。
そこで先に『最強のボビッター』の撮影を始め、初期の編集も終えたところで『引爆點』の撮影に入り、『最強のボビッター』はそのまま一時中断になりました。
そうこうしているうちに、廖柏茗が肺がんになってしまいました。まだ30歳で煙草も吸わないしお酒も飲まないのに…。それで初めて映画に参加した彼に申し訳ないし、急いで完成させようと追加資金を集めてポスプロ作業をしていたのですが、本当に残念ながら完成する前に彼が亡くなってしまいました。
彼の御両親には、この映画が金馬奨で認められるようにしますと申し上げたので、美術奨とデザイン奨にノミネートされ、御両親もとても喜んで下さったので、これで申し訳けが立ったのでは、と監督は思ったそうです。
さて、主人公の黄河(ホアン・ハー)、オタク青年がハマりすぎと多くの人が絶讃しました。
実は2019年の金馬奨ノミネート発表時に6番目ということで惜しくも候補には入らなかったのですが、繊細な青年が追い込まれて爆発する演技は多くの人が高く評価しています。
シンガポール生まれで、國立台灣藝術大學卒業後、2006年に『藍色夏恋』の易智言(イー・ツーイエン)監督にスカウトされて ドラマ『危險心靈』に主演し、金鐘奨の主演男優賞を受賞しました。
ドラマ『君に続く道』、『桃花タイフーン』、映画『ジュリエット』、『變羊記』、『原來你還在』、『南風』、『コードネームは孫中山』などに出演し、2016年に映画『紅衣小女孩』で台北電影奨の主演男優賞を獲得しました。
この年はアイドルドラマ「俏摩女搶頭婚」にも主演したのですが、役作りよりも"アイドルドラマの主役の条件"を満たすことに一番苦労したと言っていました。
そして2018年の香港映画『トレーシー(原題:翠絲)』でのゲイの青年役では、その成長ぶりには目を見張るものがありました。初の香港映画出演ということで、最初は言葉や習慣の違いにやや不安だったそうですが、とても良い経験になったそうです。
そして2019年『よい子の殺人犯』では、複雑な心情のアニメオタク役で驚くべき演技力を見せてくれました。
監督は脚本を書いていた時に、すでに黄河のイメージがあったと言います。
見かけは静かですが、興味有る話題になるととても熱く語るという一面があり、とても面白い俳優だと思っていたそうで、最初から彼のイメージで脚本を書いたと言っていました。
黄河は演じるに当たって、監督と色々話し合い役を掘り下げ、ビジュアルにもかなりこだわりを持って役作りをしたそうです。
「アニメオタクだという一般的な固定観念ではなく、阿南という人間を多方面から考えました。人間は誰でもその人の全てを知っているわけではありません。色々な一面を持っているということを念頭にいれてアプローチすることが大事だと思いました」
ということです。
また、黄河自身アニメやゲームが好きなので、これが演じる上で役立ったようです。小道具や家にいるときの服なども自身の経験を生かしたところもあったとか。
あくなきチャレンジと研鑽でキャリアを積み上げ、脚本家としても活動、クリエイターとしての将来も期待されています。
その黄河が憧れるイチゴを演じたのは、王真琳(ワン・チェンリン)。
2015年のホラー映画『屍憶』でスクリーンデビュー、2017年は映画2作、『水下寂寞之歌』 、『孤味』、2018年も映画『粽邪』、『好手好腳』ほかに出演。
2019年の『最乖巧的殺人犯』で初ヒロイン、テレビ映画『綠蝴蝶』でもヒロインに抜擢されました。
同年のBLドラマシリーズ『HIStory3那一天~あの日』は日本で配信されイケメン俳優が人気ですが、その中で"可愛い"と日本の女性ファンの評価も高いようです。
このイチゴという女の子は阿南を弄んでいるように見えますが、彼女自身もまた人には言えない鬱々としたものや傷を抱え、ボビッターへの執着はその発散の手段にもなっているようです。
阿南に本当に関心があるのか、彼の気持ちをただ利用しているだけなのか、微妙なところを巧みに演じています。
そして阿南を巻き込む彼女のイタズラというにはやや度を超えている行動に、イチゴの秘密が垣間見えます。
また、阿南がイチゴに付き合わされ、そこで隠れていた自分を発見するシーンは、パンドラの箱を開けてしまったようにも思え、見る者に軽い衝撃を与えます。
この王真琳も、東京国際映画祭で上映される『悪の絵』に出演していますが、2度目の共演となる黄河とは、6月の台北でのワールドプレミアで一緒に登壇。
その時に、殺人犯役のとはクランクイン前に挨拶しただけで、役の関係性の為それ以降は無視していたと笑っていました。
最近の王真琳は、脚本や監督、プロデューサーに興味を持ち勉強しているということで、クリエーター指向があるようです。
阿南の家に突然女連れで帰って来た叔父は、悪者の立ち位置に見えますが、かつて家族の中で自分を認めてもらえず、大きな心の傷から酒や賭博に逃げ、虚勢を張る、社会からはぐれた弱者と言えるでしょう。
自分が秩序を乱しているのに正しいと思い込み主張する、これは台湾における家長の概念の表れでもあると、脚本家の王莉雯は言っています。
阿南の母親は自分の息子を気遣う方法がわからないまま、とにかく暮らしていけるように必死で働いています。
伝統的な家族の価値観に縛られ、非情に無力です。
阿南の家族は、一緒に住んでいてもお互いが何を考えているかわからず、みんな心の距離を埋める方法がわからず、ただただ日々流されていきます。
家族のあり方について、とても考えさせられますね。
私がこの映画で一番印象深かったのは、主人公が線路のあるところでたたずむ姿です。
走りすぎる電車の映像の後しばらくブラックアウト。そのトンネルを抜けていき、車窓に映る阿南の穏やかな笑顔。
そのトンネルは、主人公の闇を象徴していると思われ、最後の阿南の表情にはホッとします。
ここで私たちは考えさせられます。阿南の行動は現実だったのか?この最後の笑顔は?
色々な可能性を含んだこの終わり方を、黄河もとても気に入っているそうです。
皆さんは、どのように受け止められたのでしょうか…。
さて、監督はいま新作ドラマ「神之鄉」のポスプロ中です。
当初はリモートで出演していただく予定でしたが、台湾は新型コロナ感染症対策に成功してはいるものの、やはりその影響で、クランクインが大幅に遅れた為、出演が叶わなくなりました。
残念ですが、しかたないですね。
「神之鄉」は、台湾の人気漫画のドラマ化です。主人公の大学生が、7年ぶりに桃園の大溪に帰省して、そこで彼を待っていた忘れていた幼い頃の思い出と、心の繋がりを少しずつ取り戻していく、という物語。来年放送予定だそうです。
では、ここからは台湾の脚本家事情についてお話しします。
まずは、この『よい子の殺人犯』の脚本家、王莉雯(ワン・リーウェン)のことから始めましょう。
國立臺北藝術大學の映画学科で主に脚本を学び、テレビの規格や旅行書のライターなどを経験し、その後プロの脚本家になりました。テレビアワード金鐘獎でミニドラマ部門の脚本賞に3回ノミネートされ、映画『ジャンプ !阿信(原題:翻滾吧!阿信)』では金馬奨にノミネート。
この『ジャンプ!阿信(原題:翻滾吧!阿信)』と『よい子の殺人犯』は、文化部優良脚本賞の特別賞を受賞、2018年の『High Flash〜引火点(原題:引爆點)』は同賞のグランプリを獲得しています。
そして、2010年の『父の初七日(原題:父後七日)』では主演女優として活躍。この他にも短編映画や舞台にも1作ずつ出演しています。
また、ご主人である莊景燊(ジャン・ジンシェン)監督作品では、エグゼクティブプロデューサーもつとめています。
しかし、王莉雯のような第一戦で活躍する専門の脚本家は、実は多くありません。
なぜならば、台湾の映画は、ほとんど監督自身が脚本を書くからです。
大御所では、侯孝賢(ホウ・シャオシェン)作品の朱天文(チュー・ティエンウェン)がいますが、小説家でありエッセイストでもあります。そしても監督デビューというニュースも聞こえてきました。
『よい子の殺人犯』の脚本を依頼された廖柏茗について、もう少しお話ししておきます。
国立台湾大で植物学を学び、プロの脚本家を目指しまし、2019年に公開されたミステリー映画『緝魔(Deep Evil)』と本作の2作を残しました。『よい子の殺人犯』は、2015年に文化部電影優良劇本特別賞を受賞しています。
監督は廖柏茗の才能を高く買っていて、もし彼が参加してくれなかったら、この脚本は完成しなかっただろうと言っています。
彼の死後、伝統的な葬儀ではなく、友人や同僚など親しい人たちでのお別れ会が行われたそうです。
台湾の公式データベースで脚本家を調べると、384人中脚本を専門とする人は90人、23%しかいないのです。
残りの77%は監督なのです。
自分の撮りたいものは、自分で書く、ということなのでしょう。
画像のように、台北電影奨で脚本賞の受賞歴を見ても、ほとんどが監督で、共同脚本として専門の脚本家がわずかにいるだけです。
ちなみに、2015年の『軍中樂園』の共同脚本の曾莉婷(ツェン・リーティン)は、鈕承澤(ニウ・ チェンザー)監督の全ての作品で共同脚本をつとめています。
そういう中では、『よい子の殺人犯』の莊景燊監督は、珍しいタイプですね。
まぁ、常に名脚本家と一緒に創作をしているので、自分で書く必要はないということなのでしょうか。
以前王育麟(ワン・ユーリン)監督に『アリフ・ザプリン(セ)ス(原題:阿莉芙)』のお話しを聞いた時に、LGBTに造形の深い脚本家に参加してもらったと言っていましたが、そういうチームでの執筆というケースもあります。
では脚本家を目指す若手は表舞台に出て行けるチャンスはないのか…と思いますが、ひとつはテレビドラマがあります。で金鐘奨でも受賞するのは監督が多いのですが、ドラマは連続者で長いため、ほとんど複数でチームを組むことが多く、ここに若手が登用されるチャンスがあります。
しかし、以前ドラマの名脚本家徐譽庭 (シュー・ユーティン)にインタビューした時、ドラマで注目されるのは監督や演出家で、脚本家ではないため、その事を世間に解ってもらい、変えていかなければならないという話を聞きました。
そして、徐譽庭はその為に様々なチャレンジをして今のポジションを確立したのです。もちろん彼女ならではの実力があってこその改革でしたが、その後映画『先に愛した人(原題:誰先愛上他的)』で監督デビューを果たし、高評価を得ました。
徐譽庭の改革は後輩達に良い道筋をつけ、次第に脚本家の重要性が認知されていきました。
そして、もう一つは、台湾政府が主宰する脚本のアワード「優良電影劇本」です。
新しい脚本家の発掘を目的に1976年に創設され、資格は台湾の身分証明書を持つ人ならば誰でも応募できるという事で、一般にも門戸を開いています。
毎年秋に行われ、審査員は映画人の他、文学界、メディアから12名という構成で、受賞者には賞金と、製作会社とのマッチング会議も用意されています。
歴代の受賞作を見てみると、ここでもやはり有名監督の作品が並んでいますね。
ただ、去年日本でも公開された『バオバオ フツウの家族(原題:親愛的卵男日記』は、台湾大学大学院に在学中だった鄧依涵(デン・イーハン)の脚本『我親愛的遺腹子』を、プロデューサーが目を留めて映画化に到りました。
このように、プロデューサーは才能のある若い監督だけでなく、良い脚本、若い脚本家も探しています。
「優良電影劇本」はコンペだけでなく、学生とプロ向けに分けた講座やワークショップなどの関連イベントも行っており、今年の講座は7月に楊雅喆(ヤン・ヤージャ)、何昕明(ホー・シンミン)、『よい子の殺人犯』の王莉雯が講師を務めました。
台湾映画界の若手発掘育成は、ここでも行われているのです。
そして、ここで選ばれた脚本は、公式サイトで公開され、誰でも閲覧できるというすてきなシステムなので、私は監督や俳優インタビューの前には必ず読んで勉強しておきます。
その他、俳優が脚本を書くという例もあります。
去年のこの上映イベントでお届けした『念念』は、台湾で活躍する日本人俳優蔭山征彦さんの脚本を、張艾嘉が目に留め映画が製作されました。台湾文化センターのイベントがきっかけで『あなたを、想う」という邦題で日本公開されました。
また、去年東京フィルメックスで上映された『ニーナ・ウー(原題:灼人秘密)』は、主演女優の呉可熙(ウー・カーシー)が趙德胤(ミディ・ジー)監督と共同で脚本を書き、優秀映画脚本賞で受賞しています。
では、台湾の最新情報をお伝えします。
台北電影節でワールドプレミアされた鄭有傑(チェン・ヨウジエ)監督の『親愛的房客』が、10月23日から公開になりました。
日本でもファンの多い実力派の莫子儀(モー・ズーイ)が、"国民のおばあちゃん"と言われる陳淑芳(チェン・シューファン)とその孫と繰り広げる物語です。
これまでの暖かい作風から、ミステリアスで暗いストーリーラインの中で愛の極限を描くというチャレンジをした5年ぶりの新作は、台北電影奨で莫子儀(モー・ズーイ)が主演男優賞に輝き、金馬奨で作品賞、監督賞、主演男優賞、助演女優賞、オリジナル脚本賞、オリジナル音楽賞の6部門にノミネートされています。
最愛の同性パートナーが亡くなった主人公が、その家族の世話をすることで、彼を思い続けていました。しかしパートナーのお婆さんが亡くなった後、彼は周囲の疑いの目に襲われます。警察の捜査が入り、次々と彼に不利な証拠が出てくる…。というストーリーです。
日本と縁の深い監督は、日本のファンの為に日本語字幕版予告編を作って公開しました。アジアンパラダイスからも見られますので、ご覧になって下さい。
この物語に深く共感した楊雅喆(ヤン・ヤージャ)監督がエグゼクティブ・プロデューサーをつとめる本作、たぶんこの秋の映画祭で日本でも見られるだろうと予想していたのですが、期待が外れました。
次の機会を待ちたいと思います。
※『親愛的房客』に関するこれまでの記事
2020/06/17
『親愛的房客』予告編に日本語字幕版登場!
http://www.asianparadise.net/2020/06/post-aecc2c.html
2020/07/05
2020台北電影節『親愛的房客』ワールドプレミア!
http://www.asianparadise.net/2020/07/post-b7606c.html
このトークはアーカイブとして11月末まで残し、公開することにしました。
映画をご覧になっていない方にとってはあまり有用ではないかも知れませんが、後半の台湾の脚本家事情については、お楽しみいただけると思います。
https://v.classtream.jp/tw-movie/#/player?akey=c204db7cdd422d6f327bea6a1f1d9fd5
次回はすでにお知らせしていますように、11月28日(土)14時から。
映画青年と黒社会が巻き起こすブラックコメディ『ギャングだってオスカー狙いますが、何か?(原題:江湖無難事)』です。
詳細は11月中旬にお知らせします。
主催:台北駐日経済文化代表処台湾文化センター/アジアンパラダイス
協力: 安澤映畫有限公司
★リンクは有り難いのですが、写真や記事の転載は固くお断りします。
| 固定リンク
« 台湾映画 何蔚庭(ハー・ウェイティン)監督の新作『青春弒戀』林柏宏(リン・ボーホン)林哲熹(リン・ジャーシー)ほか豪華キャスト発表! | トップページ | 2020高雄電影節國際短片コンペで『White Eye』『主管再見』『沖田先生的記憶劇場』がグランプリ! »
コメント