« 中国のパニック・アクション超大作『ボルケーノ・パーク(原題:天火)』11月20日(金)より全国ロードショー! | トップページ | 東京国際映画祭、台湾映画『足を探して(原題:腿)』と桂綸鎂(グイ・ルンメイ) »

2020/11/14

東京国際映画祭『悪の絵(原題:惡之畫)』

1114evil 東京国際映画祭のワールド・フォーカス部門でで上映された『悪の絵(原題:惡之畫)は、今年の台北電影節でワールドプレミアとなったヒューマン・サスペンスです。
監督は、これが初の長編映画となる陳永錤(チェン・ヨンチー)。
藝術家が受刑者に絵画を教え、そこで殺人犯の驚くべき才能に出会うところから始まり、受刑者絵画展の開催に伴い被害者たちの怒り、加害者家族の苦悩などが表面化し、表現の自由と人権について大きな問題提起がなされる作品です。
東京国際映画祭ではTIFFトークサロンで監督のリモートQ&Aが行われましたが、そこで語られなかった監督や俳優のプロフィルや補足をお伝えしたいと思います。

0114evil1 監督の陳永錤は広告の製作会社でキャリアをスタートさせ、これまで多くの短編映画で数々の受賞を果たしています。
本作の企画は2016年の金馬影展の投資会議に入選し、映画化へと進みました。
今年の台北電影節では國際新導演競賽(国際新人監督コンペ)にも入選し、監督は"作品に罪はあるか"…犯罪とモラルで物議を醸す多くのアーティストを国内外で見て、その人達の思考と芸術論を検証してみたかったから、と本作を撮ったきっかけを語っています。
カンバスをイメージさせる4:3の画角で、加害者、被害者、そしてその家族が見る絵、さらにそれを観客に見せる絵として重層的に構築した監督の絵作りは、かなり衝撃でした。

0114evil2 主演の画家を演じた東明相(ドン・ミンシャン)は、2006年に台湾を自転車で一周する聴覚障害を持つ青年を描いた『練習曲』でデビューし、この映画は自転車での台湾一周ブームのきっかけとなりました。
そして日本でもシネマート六本木の「台湾シネマ・コレクション2008」で上映され、DVDも発売されました。
この時の来日インタビューは、以下をご参照下さい。
http://www.asianparadise.net/2008/08/post_ac7b.html

0114evil3 東明相は『練習曲』の設定通り聴覚障害がありますが、美術デザイナーやモデルを経て俳優デビュー、この後も2008年の『愛的發聲練習』、2014年の『EXIT(原題:迴光奏鳴曲)』に出演し、昨年は『悲憫次神的兒女』で舞台デビュー。
画家としては2014から毎年個展を開いています。
本作では芸術家としての深層心理の表現に加えて、この物語の狂言回し的な役割も果たす難役ですが、芸術家ならではの純粋さとエゴ、苦悩がヒリヒリとした痛みを伴い伝わって来ました。
TIFFトークサロンで『悪の絵』での東明相の独特のしゃべり方について質問がありましたが、監督の回答で聴覚障害を持つということについては訳されず、司会者もフォローをしなかったのは、個人のデリケートな問題だからスルーしたのか、もしくは彼のプロフィルを知らなかったからなのか、その辺はわかりません。

0114evil4 プロも驚く絵の才能を持つ殺人犯役の黄河(ホアン・ハー)もまた絵を書く俳優ですが、監督は彼の画風はこの映画とは違うので採用しなかったものの、台湾版ポスターの題字を担当していると言っていました。
黄河はデビューしたドラマでいきなり金鐘賞の主演男優賞を獲得し、2016年には映画『紅衣小女孩』で台北電影獎の主演男優賞、以後2018年に東京国際映画祭でも上映された香港映画『トレイシー(原題:翠絲)』のゲイの青年、2019年の『よい子の殺人犯(原題:最乖巧的殺人犯)』(台湾文化センターと共催のイベントでオンライン上映)のアニメオタクなど幅広い演技が高く評価されています。

0114evil5 陳永錤監督は、2012年の短編『凱西五號』で主役を演じた彼が今回この役にふさわしいと起用したそうですが、最近の成長ぶりから見ても納得のキャスティングです。
監督があえて描かなかった無差別殺人の顛末をさておきするには十分な、"ただ絵を描きたい死刑囚"に凝縮した演技、彼の芸術的な感性がどう作用しているのかわかりませんが、また大きなステップアップになったことは間違いないでしょう。
黄河については、アジアンパラダイスで何度もインタビューをしていますし、多くの記事を掲載しています。ぜひアジアンパラダイスのサイト内検索をご利用の上、ご覧いただければと思います。

0114evil6 さて、被害者である松葉杖の女性を演じた王真琳(ワン・チェンリン)は、『よい子の殺人犯』で黄河が演じるアニメオタクを翻弄する役で"ただ者ではない感"満載でしたが、本作でも監督の意図する芸術と作者の人格の問題を表現するキャラクターとしての重責をきちんと果たしていました。
王真琳は2015年のホラー映画『屍憶』でスクリーンデビュー、2017年は映画『水下寂寞之歌』 、『孤味』、2018年も映画『粽邪』、『好手好腳』ほかに出演。
2019年はテレビ映画『綠蝴蝶』に主演、BLドラマシリーズ『HIStory3那一天~あの日』にも出ています。
ちなみに、2017年の『孤味』は今回同じく東京国際映画祭で上映された同名映画のオリジナル短編で、王真琳はメインキャストで出演しています。

0114evil7 画商役の劉品言(エスター・リウ)は、小学生の頃から芸能活動を始め、14才で曾之喬(ジョアンヌ・ツァン)とSweetyというユニットを組み音楽と演技で活躍。多くのドラマや映画に出演するほか、司会者もこなしていましたが、2007年に芸能活動を休止してパリに留学、デザインを学び、2009年に復帰しました。
そして2011年にマネジメント会社を立ち上げ、新人発掘・育成にも力を注ぎます。
本作では、東明相演じる画家の才能に惚れ込み、彼の衝動的な性暴力未遂を逆手にとって芸術とビジネスの両輪を巧くコントロールする有能画商役は、お見事。

最後に、トリビア的なポイントを2つご紹介しておきます。
この映画に出てくる殺人犯の書いた絵は、1980年生まれの台湾の画家蔡宜儒(ツァイ・イールー)に依頼したもので、彼は本作の台湾での一般公開前の9月に映画とコラボした個展も開催しました。

0114evil8 そして、映画の中で画家が訪れる殺人犯の子供時代の秘密基地は、老街で有名な新北市の三峽にある永達煤礦(炭坑)遺跡です。
ちょっと行ってみたいと思いググってみましたが、かなり不便な所で、登山道を上っていかなければならないようなので、簡単ではなさそうですね。

この映画、人によって好き嫌いが分かれる作品でもあると思いますが、今回東京国際映画祭で上映されたことは、現地へ行かれない今、とても貴重でした。

東京国際映画祭の紹介ページ
https://2020.tiff-jp.net/ja/lineup/film/3304WFC19

TIFFトークサロン(陳永錤監督Q&A映像)
https://www.youtube.com/watch?v=ICabYndBsm0

アジアンパラダイスの記事
2020/06/27
2020台北電影節『惡之畫』ワールドプレミア
http://www.asianparadise.net/2020/06/post-681d0c.html

★リンクは有り難いのですが、写真や記事の転載は固くお断りします。

|

« 中国のパニック・アクション超大作『ボルケーノ・パーク(原題:天火)』11月20日(金)より全国ロードショー! | トップページ | 東京国際映画祭、台湾映画『足を探して(原題:腿)』と桂綸鎂(グイ・ルンメイ) »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« 中国のパニック・アクション超大作『ボルケーノ・パーク(原題:天火)』11月20日(金)より全国ロードショー! | トップページ | 東京国際映画祭、台湾映画『足を探して(原題:腿)』と桂綸鎂(グイ・ルンメイ) »