2020年の香港映画を振り返る〜雑感
旧正月映画の谷垣健治監督作品『肥龍過江』は、日本でも『燃えよデブゴン/TOKYO MISSION』という邦題で、明後日の元旦から日本公開になります。
甄子丹(ドニー・イェン)演じるポッチャリ刑事“デブゴン”が、新宿歌舞伎町、築地市場、そして東京タワーなどを舞台に展開するアクション・エンターテインメントで、共演は毛舜筠(テレサ・モウ)、王晶( バリー・ウォン)、周麗淇(ニキ・チャウ)、周俊偉(ローレンス・チョウ) ほか春節映画ならではの豪華キャスト。
また、日本から参加している竹中直人が甄子丹とどんなコンビネーションになるのか、楽しみです。
公式サイト:https://debugon-tokyo.jp
金像奨や香港電影評論學會大獎で評価された『幻愛』は、『十年』の一編『焼身自殺者』を担当した周冠威(キウィ・チョウ)監督のラブストーリーで、ヒロインの蔡思韵(セシリア・チョイ)は電影評論學會大獎の女優賞を受賞、金像奨の主演女優賞にもノミネートされ、金馬奨で脚色賞を獲得しました。
日本の映画祭で上映されなかったので見る機会がなく、とても残念です。
蔡思韵は台湾に留学中に李啟源(リー・チーユエン)監督に師事し、在学中に『盗命師』のメインキャストに抜擢されました。
1月11日に横浜シネマリンでの「台湾巨匠傑作選」で『盗命師』を上映しますので、興味ある方はぜひご覧になって下さい。
横浜シネマリン:https://cinemarine.co.jp
香港電影評論學會大獎の作品賞を受賞、太保(タイバオ)が金像奨ほかいくつも主演男優賞を受賞した『叔·叔』は、人生の後半で出会った2人の男性の愛情物語。
孫もいる年代のラブストーリーはなかなかありませんが、太保と袁富華(ベン・ユエン)の名演に心を掴まれます。袁富華は2018年の『翠絲(トレーシー)』でも京劇俳優のトランスジェンダー役で金馬奨の助演男優賞に輝いていますから、この二人の巧さは向かうところ敵なし、という感じです。
これも日本の映画祭で上映されなかったのは、タイミングの問題だったのか…残念。
香港政府が新人監督を支援するプロジェクト「首部劇情電影計劃」から数々の優れた作品が生まれていますが、その入選作『私のプリンス・エドワード(原題:金都)』は、黃綺琳(ノリス・ウォン)が金像奨で数々ノミネートされ新人監督賞を、香港電影評論學會大獎では脚本賞を受賞しました。
太子(プリンス・エドワード)に実存するショッピングビル金都を舞台に、偽装結婚をモチーフにした鄧麗欣(ステフィー・タン)演じる女性の揺れ動く心模様を描いています。
大阪アジアン映画祭でも上映されました。
参照記事:http://www.asianparadise.net/2020/03/post-ec43c7.html
「首部劇情電影計劃」で認められた監督では、李卓斌(リー・チョクバン)が昨年の『G殺』に続いて早くも第二作『墮落花』を発表。大阪アジアン映画祭二年連続登場し、香港でも5月に公開されました。
覚醒剤ビジネスと麻薬捜査官がスリリングな展開を見せる、バイオレンスとエロス。1人の女性の“復讐”の道程を描いたクライム・サスペンスです。
『G殺』と同じように、ついていくのがたいへんな才能の李卓斌スタイル。次はどんなカードを切ってくるのか、楽しみです。
「首部劇情電影計劃」からもう一作、『散った後(原題:散後)』が大阪アジアン映画祭で上映されました。監督は、80年代に舞台俳優としてスタートし、ドラマやデジタルメディアのスタッフ、映像・舞台製作のキャリアを積んだ陳哲民(チャン・チッマン)。
学生運動に身を投じていた男女5人が大学を卒業し、それぞれの道へ進んだ後に再会を果たすまでを現在と当時を交互に描いた作品です。
監督は第一作ではあるものの、豊かな人生経験を元に作られているため、全体が落ち着いた流れになっていると感じました。
1月の香港インディペンデント映画祭で上映されましたが、一般公開はされていないようです。
参照記事:http://www.asianparadise.net/2020/03/post-0085e0.html
今年の東京国際映画祭では香港映画の上映がありませんでしたが、去年上映された『ファストフード店の住人たち(原題:麥路人)』が、香港で9月に公開されました。
主役の郭富城(アーロン・クォック)と楊千嬅(ミリアム・ヨン)が来日して舞台挨拶とQ&Aを行ったのも、すでに懐かしい想い出です。
社会から置き去りにされた人々、それぞれが抱える事情に向き合う姿を描き、金像奨で張達明(チャン・ダッミン)が助演男優賞を獲得しました。
参照記事:http://www.asianparadise.net/2019/10/post-ec6efe.html
そして、香港での公開はまだですが、東京フィルメックスで『七人楽隊』が特別招待作品として上映されました。
杜琪峰(ジョニー・トー)の呼びかけにより、香港映画界を代表する7人の映画監督たちがそれぞれの視点から香港の人々の生活を描いたオムニバス映画で、観客賞を受賞。
はからずも、林嶺東(リンゴ・ラム)監督の遺作になってしまいました。
7人の監督それぞれの個性で楽しませてくれ、"香港映画健在"を示したこのプロジェクトには、大きな拍手を贈りました。
12月から感染予防対策のため映画館は営業されていないため、この映画はいつ公開になるのでしょうか…。
表現の自由が脅かされる中、映画における香港アイデンティティの存続を、心から祈ります。
★リンクは有り難いのですが、写真や記事の転載は固くお断りします。
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