2021台湾映画上映&トークイベント「台湾映画の"いま"〜新鋭と精鋭の挑戦」第7回『家へ帰ろう〜国会大脱出(原題:逃出立法院)』オンライン開催! 新人監督のセンスとテンポ、ユーモアに観客は大満足!
オンラインによる台湾映画上映&トークイベント、新作と未公開作品で台湾映画の「精鋭と新鋭の挑戦」を伝えていく本年度最後は、ゾンビに襲われる国会を背景に、荒唐無稽ながら政治と社会問題の核心を突く『家へ帰ろう〜国会大脱出(原題:逃出立法院)』を上映しました。
プロレス技を駆使したゾンビとの闘いのテンポの良さ、監督のシュールなセンスが爆発、メインキャスト達の奇演好演もハンパなく、超絶おもしろい映画に仕上がっていると思います。
ただ、これまでの台湾映画とは全く違う、新鋭監督の斬新な切り口と映像で見せる、とても個性的な映画なので、好き嫌いが分かれるとは思います。
ところが、アンケート結果では、想像したよりも苦手だという方は少なかったです。
「評判どおりの面白さ、B級映画好きにはたまらない」「今までの台湾映画にない感じでびっくりしたが、台詞の端々にコロナ禍で通じる深いものもあり、とても興味深く、楽しめた」「ゾンビは苦手ですが、この映画はテンポがよくて楽しかった。社会的な問題も扱っていて、面白かった」「主要メンバーの演技が素晴らしくスピード感のある展開にドキドキの連続」「荒唐無稽な設定ながら、最後まで引き込まれるように楽しんだ」「テンポの速さが圧巻、血が噴き出すシーンが大量にあるというのにプロレス技を含むアクションが盛りだくさんで、グロさを上回る格好良さ」「映画の色彩や構図がとても印象的で、ストーリーやセリフもウィットに富み、俳優の演技も魅力的」「ゾンビ映画は苦手だが、役者たちの演技に圧倒された。メーガン・ライの格好良さ!素敵」「ゾンビ映画は苦手だが、コメディ要素が強かったので大丈夫でよかった」
そして、本編の解説は今回も鑑賞後の理解に役立ったようでした。
「映画のこと、役者のことがよくわかって知りたいことを知れ、細かな情報までが満載なうえに、監督やプロデューサーにいつも取材していて本当におもしろい」「いつも詳細で分かりやすい解説」「プレミアを立法院で開催というのにびっくり。キャストの丁寧な紹介や制作秘話も有難い」「王逸帆監督の紹介を聞いて、ぜひ他の作品も観てみたいと思った」「初心者にもわかりやすい解説」「このトークがあるだけでどれほど作品が面白くなるか!」「今回もキャスティングの裏話などが聞け、とても楽しめた」
そして、台北電影奨の受賞結果については、
「臨場感あふれる解説で楽しめた」「受賞者のコメントを日本語で伝えてもらい、とてもありがたい」「賞レースでの詳細な説明が参考になった」
など、内容は知っていても、トークで聞くことでより楽しめたという声も多くいただきました。
本作は、昨年、4月の金馬奇幻影展(ファンタスティック映画祭)で上映予定でしたが、コロナの影響で中止。台北電影節の特別招待作品として上映され、8月に台湾で一般公開されました。
ただ、この時は映画館も前後左右を空けた座席でしたから、興行的にはかなり厳しい状況だったようです。
それでも、金馬奨と台湾映画評論家協会賞でアクション賞を受賞。高慧君(フランチェスカ・ガオ)が金馬奨の助演女優賞にノミネートされました。
この映画は、映画『紅衣小女孩』シリーズやドラマ『麻醉風暴』、Netflixで配信中の『次の被害者(原題:誰是被害者)』などヒット作を次々送り出している瀚草影視(Greener Grass Production)という会社の制作です。
2019年にエグゼクティブプロデューサーと脚本家が台湾でゾンビ映画を撮れないか…という話からスタートしました。
ただ、ゾンビ映画はアジアでも色々な作品が作られていますし、韓国では『新感染』シリーズが大ヒットしていましたから、単なるゾンビ映画では成立しないと思ったそうです。
ちょうどその頃政治的にも色々な問題や事件が起きていたので、国会を舞台にゾンビから逃れる作品にしてはどうか、ということでこの物語のベースができました。
こういう方向性が決まった時に、ちょうどプロデューサーたちが金馬奨でノミネートされていた王逸帆(ワン・イーファン)監督の短編を見てとても興味を持ち、彼に一緒に脚本作りから始めませんか、と声をかけたそうです。
この時プロデューサーたちが見たのは『洞兩洞六(02-06)』という短編で、監督が國立臺北藝術大學電影創作學科在学中に、軍隊の中のカリカチュアライズされた人間関係を、オリジナリティとユーモアで綴った野心的な作品です。
台北電影奨の短編映画賞を受賞、金馬奨にもノミネートされ、私も当時台湾で見たのですが、その映像と色彩、シュールさにKOされ、これはただ者ではない新人監督だと確信しました。
では、まず王逸帆監督についてご紹介しましょう。
王逸帆監督は、國立臺北藝術大學電影創作学科在学中から撮影や脚本で頭角を表し、大学の恩師である李啟源(リー・チーユエン)監督の『盗命師』では、撮影チームとして活躍していました。
さきほどご紹介した短編映画『洞兩洞六(02-06)』の次は、昨年の大阪アジアン映画祭で上映された短編『伏魔殿』。
台湾の街角にたたずむ小さな寺院を舞台に、ユニークなキャラクターたちが破滅と救いをめざして疾走する作品で、6日間で撮ったという卒業制作です。
本作のプロジェクトに参加した監督は、プロデューサーたちや脚本家と一緒に意見を戦わせながら1年がかりで脚本を完成しました。
そうしてプロデューサーたちは資金集めに奔走します。何せこれまでにないタイプの映画ですから、なかなか投資者が見つからず苦労したそうですが、そこはヒット作をいくつも作っている会社、なんとか資金を集め制作にこぎ着けたと、プロデューサーが言っていました。
それにしても、国会が舞台で総統はじめ議員たちが次々ゾンビ化していき、最後は建物まるごと爆破されるという内容ですから、台湾政府的に問題はなかったのか気になり、プロデューサーに聞いてみましたが、全く心配はなかったということでした。
それどころか、プレミアと記者会見はなんと台北市の本物の立法院(国会議事堂)で行われ、与野党の立法委員(国会議員)5人も出席したそうです。
さすが台湾、文化への懐の深さに敬意を表します。
さて、キャスティングですが、これについては監督とプロデューサーたちが話し合って決めたそうです。
まず最初は、主役の一人で警備員から議員にさせられる禾浩辰(ハー・ハオチェン)。この役はアクションが多く、プロレス技も使うことから、運動神経が良く経験がある人、ということで探したところ、禾浩辰は国立台南大学の体育学科出身でバスケチームのキャプテンもやっており、アクションの経験もあることから決まりました。
これまでの役柄から、ややもすればマイナスイメージを与えてしまう“いい人キャラ”を、今回は逆手に取った役作りで勝負し、成功しました。
禾浩辰は、2014年にBruceの芸名で九把刀(ギデンズ)原作・脚本の映画『等一個人咖啡』で主役デビュー。
日本でもDVDや配信で見られる『台北メトロシリーズ』や、『悲しみよりもっと悲しい物語(原題:比悲傷更悲傷的故事)』、Netflixで配信中の『未来モール(原題:預支未來)』はじめ映画・ドラマで活躍しています。
2018年から芸名を改め、今年は映画3本、来年はドラマ2本が放送予定となっています。
近いところでは『靈語(Kidnapped Soul)』というホラー映画が、10月22日から台湾で公開になっています。
もう一人の主役、傀儡として警備員を議員に仕立てるという行動的なヒロインの人選についても、かなり難航したようです。
こういう役には頼雅妍(メーガン・ライ)はぴったりですが、アクションの経験がない、という問題がありました。
それでも、禾浩辰とは同じ事務所で共演も多いので息はぴったりなので、アクションは撮影前に訓練するということで決定。
ドラマ『アニキに恋して(原題:愛上哥們)』などマニッシュな役を演じて高評価を受けましたが、本作でもその男前っぷり爆発でかっこいいですね。
頼雅妍と言えば、『流星花園〜花より男子』から始まる台湾のアイドルドラマ誕生の頃から活躍していて、日本での知名度も抜群です。
2007年には国土交通省が外国人観光客の誘致拡大の一環として行なった「ビジット・ジャパン・キャンペーン」の台湾親善大使に任命され、振り袖姿で国交大臣から証書を受け取りました。
『アニキに恋して(原題:愛上哥們)』で再ブレイクした時、所属事務所群星瑞智(スターリッツ)のファンイベントを取材に行ったことがあります。ファンとのゲームの勝者へのプレゼントが好きなスターと「ツーショット写真」「愛の告白」「ハグ」でしたが、これでファンの女の子が指名しれたのはほとんどが賴雅妍でした。柯震東(クー・チェンドン)もいたのに、このメーガン人気には驚きました。
デビューから20年以上、ずうっと第一線で活躍し続ける頼雅妍。私も何度か取材しましたが、本当に気さくで心づかいの細やかな素敵な女性です。取材場所が大勢の人で騒がしかった時は、彼女から外の方が静かだからと促され、立ったままインタビューしたこともあります。
いま日本で見られる作品は、主演映画『リベンジコード 盗まれた正義(原題:聖人大盜)』がDVDリリース&配信開始中。
メインキャストを務めている香港映画『花椒の味(原題:花椒之味)』は、11月5日(金)より 新宿武蔵野館ほか全国順次公開になります。
ヒロインのお父さん役は元軍人で、ゾンビ対決で大活躍する役柄ですが、これは全員一致で庹宗華(トゥオ・ゾンホア)に決まったそうです。
韓国の大ヒットゾンビ映画『新感染 ファイナル・エクスプレス』でのマ・ドンソク的な立ち向かい方に、しびれました。
1970年代から映画やドラマで様々な役をこなし、軍隊を舞台にした主演作『報告班長』という人気シリーズ映画は7作まで作られ、金鐘賞の主演男優賞も獲得している本当に巧い俳優さんです。そして、実は歌手でもあります。
いま放送が待たれているドラマが7本もあるという売れっ子です。
国会の厳しい人事部職員には、同じ制作会社の『紅衣小女孩』シリーズ2作に出演していて、その実力からすぐに決めたという高慧君(フランチェスカ・カオ)。
末期がんで世を捨てたようなところがある女性が、ゾンビ対決で自分の居場所を見つけるという難役を見事にこなし、庹宗華との中年ラブも味わい深いく見せてくれました。
歌手としてデビューし、香港の歌神張學友(ジヤッキー・チュン)とのデュエット曲もあります。
映画やドラマの出演作も多く、金鐘賞で主演女優賞と助演女優賞を受賞。
間もなく開催の東京国際映画祭で上映される、『アメリカンガール(原題:美國女孩)』に出演しています。
そしてもう一人、新米の警備員を演じた大鶴(ダーハー)という愛称の林鶴軒(リン・ハーシュアン)は、監督やプロデューサーたちが彼のこれまでの出演作を見て、全身からおもしろさを出しているところから起用したそうです。
本人が必死だからこそ笑えるシーンを、抜群のセンスで見せる彼の演技、なかなかです。
2013年に舞台でデビューし、2018年の『怪奇温泉旅館(原題:切小金家的旅館)』で注目され、これからが楽しみな俳優です。
ちなみに、彼が演じた役は、監督の短編『洞兩洞六(02-06)』で早く兵役から離れたいというキャラクターの延長なのだそうで、なかなか凝った仕掛けが用意されているのでした。
さて、この映画のアクションにはプロレス技が使われているということを先ほどからお伝えしていますが、ここは本作の大きな特徴であり、ウリでもあります。
と言うのも、監督が大のプロレス好きで、最初からプロレスの要素を入れたいと、アクション監督をプロレスに熟知した黃泰維(テリー・ホアン)と李紹朋(リー・シャオパン)にオファーしました。
そのひとり黃泰維(テリー・ホアン)は、自ら監督・主演で短編のプロレス映画『閃焰假面』を作っており、 桃園電影節で受賞もしています。
今回は監督が次回作の準備の為時間がとれず、プロデューサーのひとりである柯俋森(クー・イーセン)さんにお話しを伺ったのですが、資金調達のほかに制作についてたいへんだったところを聞きました。
この撮影は真夏に行われ、しかも舞台のほとんどである立法院=国会議事堂は台湾で一番暑い高雄の、今は使われていない議会の建物。なんと、電気も水道もない状態だったそうです。
そこで俳優たちは血まみれになって撮影をしなければならなかったと言いますから、想像を絶する修羅場ですね。
そして、この映画は海外の多くの映画祭に参加し、どこも反応は上々。こういう台湾映画は見たことがないという声が多く、監督がクエンティン・タランティーノが好きなことから、・タランティーノのスタイルを彷彿とさせるという感想もかなりあったそうです。
日本では大阪アジアン映画祭と今回上映しましたが、この後『ゾンビ・プレジデント』という邦題で10月29日より「シッチェス映画祭」ファンタスティック・セレクション2021作品として、ヒューマントラストシネマ渋谷、シネ・リーブル梅田で上映されます。
詳しいスケジュールは公式祭祀をご覧いただき、ぜひ劇場でもご覧下さい。
公式サイト: https://www.shochiku.co.jp/sitgesfanta/
ここからは、10月9日に行われた台北電影獎の発表授賞式についてお伝えしました。
内容は、こちらに記事を掲載していますので、ご覧下さい。
http://www.asianparadise.net/2021/10/post-89085c.html
こんな豪華な顔ぶれが揃ったのに、台湾へ取材に行くことができず、本当に残念です。
来年こそは、以前のように現地でこの授賞式の興奮と賑わいを味わいたいと思います。
最後に最新情報をお伝えしました。
台湾では10月29日から鍾孟宏(チョン・モンホン)監督の新作『瀑布』が公開になります。
そして、来週から開催される東京フィルメックスでも11/1 と11/6に有楽町朝日ホールで上映されるので、ご覧になれる方もいらっしゃると思います。
コロナ渦の台北を舞台に、自宅隔離をきっかけにして大きな荒波に晒される母と娘の関係を描いた作品で、この母と娘を演じる賈靜雯(アリッサ・チア)と王淨(ワン・ジン)が、金馬奨の主演女優賞にノミネートされています。
そして、去年の『ひとつの太陽』に続き、今年もアカデミー賞の外国語映画賞の台湾代表作品としてエントリーされることになりました。
このアフタートークは、映像として10月31日までアーカイブ配信しています。
https://v.classtream.jp/tw-movie/#/player?akey=7fce5495d494264214757af41d6e6406
また、今回お話しを伺った柯俋森(クー・イーセン)プロデューサーのインタビュー音声は、10月25日(月)からPodcastで配信予定です。
どうぞ、お楽しみに!
これにて今年の上映は終わりましたが、これからも皆さまに素敵な台湾映画をご紹介していくことができれば、と思います。
本日、そして今年ご参加いただいた全ての皆さま、ありがとうございました。
★リンクは有り難いのですが、写真や記事の転載は固くお断りします。
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