2021年の台湾映画を振り返る〜メガヒット3作、時代を反映した秀作も!
昨年に引き続き新型コロナウィルスの感染防止に成功し、映画製作と公開が日常に近くなっている台湾では、台北電影節は3ヶ月延期となったものの、金馬影展&金馬奨も通常通り有人で開催されました。
興行収入で1億超えのメガヒットは『當男人戀愛時(君が最後の初恋)』、『月老』、『角頭-浪流連(角頭 - 彷徨人)』の3作。
今年も受賞と興行成績がきちんとリンクしていて、金馬獎で大勝した『瀑布』、張震(チャン・チェン)が初の主演男優賞を獲得した『緝魂(THE SOUL:繋がれる魂)』、アウト・オブ・コンペの2賞を加えると5部門受賞の『美國女孩(アメリカン・ガール)』ほか、良い映画に人が来る、優れた映画だからみんなが見に行く、という理想的な構図となっています。
そして、台湾での公開が終わるとすぐにNetflixで全世界配信されるという例が増え、台湾以外では劇場公開されないという痛し痒しの現状が加速。
マーケットの小さい台湾では、いくら国内でヒットしても産業としての発展に大きな効果を得られないため、高額で買うNetflixへの依存はしかたないと言えます。
ただ、これが今後の台湾と世界の映画界にとってどんな未来をもたらすのか、いささか不安ではあります。
また、今年は文化部が台湾映画に関する重要な歴史文物を保存するほか、映画産業の発展を担う人材の育成を行うことを目的とした国家電影及視聴文化中心(台湾映画・メディア文化センター)が新北市に完成。
海外向け英語動画配信プラットフォーム「Taiwan+」(台湾プラス)がオンライン映画祭を実施したり、昔の台湾語映画をデジタルリマスターして、日本でも特集上映と国際シンポジウムを行うなど、政府主導のプロジェクトが活発に行われました。
では、興行成績ベスト10と、注目作品をご紹介していきます。
★興行成績ベスト10
1.『當男人戀愛時(君が最後の初恋)』 韓国映画『傷だらけのふたり』(2014)のリメイクで、借金を背負った女性と、借金の取り立てを行う心優しいチンピラとのラブストーリー。
2018年の『悲しみよりもっと悲しい物語(原題:比悲傷更悲傷的故事)』に続き、韓国映画のリメイクが首位を獲得。台湾の皆さんは韓国作品がお好きというのもありますが、台湾の俳優たちの好演も高いポイントでしょう。
邱澤(ロイ・チウ)はこれで2度目の台北電影奨の主演男優賞受賞を成し遂げ、殷振豪(イン・チェンハオ)監督は、金馬奨で新人監督賞にノミネートされました。
そして、邱澤とヒロインの許瑋甯(アン・シュー)が電撃結婚するというおめでたいニュースも。
Netflixで配信中。
2.『月老』 台湾の人気作家九把刀(ギデンズ)の原作で、監督第三作。
突然の死で月老(縁結びの神)になった青年が、ミッションのため冥界とこの世を行き来するというストーリーで、年末の台湾でいまなお快進撃を続けています。
金馬奨では11部門ノミネートされ、視覚効果賞と音響効果賞を受賞、柯震東(クー・チェンドン)、王淨(ワン・ジン)、宋芸樺(ビビアン・スン)など勢いのある若手に加え、助演男優賞にノミネートされた馬志翔(マー・ジーシアン)の怪演も話題になっています。
※参考記事
http://www.asianparadise.net/2021/06/post-4841cd.html
http://www.asianparadise.net/2021/09/post-1f8d05.html
3.『角頭-浪流連(角頭 - 彷徨人)』 春節に公開され、早くも2週間で一億突破したシリーズ3作め。
台湾では珍しい極道映画ですが、本作は第二弾で鄭人碩(チェン・レンシュオ)が演じた人物のスピン・オフとも言える作品で、謝欣穎(シエ・シンイン)扮する女性のメインキャラクターが登場するという新鮮味が加わりました。
金馬奨では、鄭人碩が主演男優賞に、秋に急逝した龍劭華(ロン・シャオホア)が助演男優賞にノミネートされました。
Netflixで配信中。
※参考記事
http://www.asianparadise.net/2020/12/post-ea2281.html
http://www.asianparadise.net/2021/02/post-2aebde.html
4.『聽見歌 再唱』 台湾の原住民の子ども達の合唱団「原聲童聲合唱團」と、その指揮をとった馬彼得(Bukut Tasvaluan)校長の実話からヒントを得て、長年ドキュメンタリーを撮ってきた楊智麟(ヤン・ツーリン)監督の初の劇映画。
熱血教師と原住民の子ども達の心温まるストーリーと歌声が多くの感動を呼び、2021年度興行成績4位のヒット作となりました。
馬志翔(マー・ジーシアン)の熱血教師ぶり、音楽教師を演じるEllaはこれまでと違うキャラクターが新鮮で、台北電影奨の脚本賞と、主演男優賞に馬志翔がノミネート。金馬奨ではオリジナル音楽賞ノミネートされました。
※参考記事
http://www.asianparadise.net/2021/04/post-7c198c.html
5.『緝魂(THE SOUL:繋がれる魂)』 『紅衣小女孩』『目撃者 闇の中の瞳』などで台湾映画界の中核を担うポジションになった程偉豪(チェン・ウェイハオ)の複雑な人物関係で紡がれるサスペンスで、今年5位の興行成績を記録しました。
末期がんの検察官を演じた張震(チャン・チェン)が12キロ減量して臨んだ演技は鬼気迫るものがあり、金馬奨で初の主演男優賞を獲得しました。台湾映画には久しぶりにガッツリ出演した張鈞甯(チャン・チュンニン)も好演でしたが、ノミネートに到らなかったのは残念。
Netflixで配信中。
6.『我沒有談的那場戀愛(つかみ損ねた恋に)』 『先に愛した人(原題:誰先愛上他的)』の徐譽庭(シュー・ユーティン)&許智彥(シュー・チーイエン)監督コンビによる、30代こじらせ女子を軸に展開するラブストーリー。
徐譽庭が脚本を担当しているだけに巧みな構成で、終盤に"やられた!"と気持ちの良い謎解きが待っています。
18キロ増量してCM監督役に臨んだ吳慷仁(ウー・カンレン)の役者魂、初演技ながら見事に主人公の重責を果たした歌手の艾怡良(イプ・アイ)の表現力など、メインキャストたちの好演で、何度も見たくなるすてきな恋愛映画。
これまで徐譽庭作品に出演した人気女優たちの声の出演もお楽しみ。
Netflixで配信中。
※参考記事
http://www.asianparadise.net/2021/02/post-c25f2b.html
7.『瀑布』 前作『陽光普照(ひとつの太陽)』から作風を変えた、鍾孟宏(チョン・モンホン)監督のヒューマン・ストーリー。
コロナ渦の台湾での母と娘、家族を描き、金馬奨で作品賞、脚本賞、オリジナル音楽賞、そして娘役の王淨(ワン・ジン)と共にノミネートされていた賈靜雯(アリッサ・チア)が主演女優賞を初受賞しました。
ブラックユーモア満載の鍾孟宏ワールドは、撮影の中島長雄(実態は監督自身)と共に過去のものとなり、多くの賞を獲得してもなぜか興行成績に結びつかないという不思議な現象からも逃れ、本作の興行成績は7位。
東京フィルメックスで上映され、予想通り年明けからNetflixでの配信が決まったと台湾のメディアが報じています。
8.『叱咤風雲(スリングショット)』 周杰倫(ジェイ・チョウ)がエグゼクティブプロデューサーをつとめ、范逸臣(ファン・イーチェン)、曹佑寧(ツァオ・ヨウニン)、柯有倫(アラン・コー)らによりカーレースの世界を描いた作品。
ヒロインは周杰倫夫人の昆凌(ハンナ)。
金馬奨ではアクション賞を獲得し、興行成績8位と健闘しました。
1/7(金)〜2/24(木)「未体験ゾーンの映画2022」にて公開
※参考記事
http://www.asianparadise.net/2019/10/post-c521cd.html
http://www.asianparadise.net/2021/01/post-c946b8.html
http://www.asianparadise.net/2021/01/post-dcc3f7.html
9.『美國女孩(アメリカン・ガール)』 林書宇(トム・リン)監督がエグゼクティブ・プロデューサーをつとめた、新人監督阮鳳儀(ルアン・フォンイー)の体験を基にした家族の物語。
2003年のSARSが流行した台湾を舞台に、アメリカから帰国した母と娘、家族が織りなすヒューマンドラマで、反抗する娘、母親は病気に、という設定は『瀑布』と似ていますが、それぞれに生活環境やキャラクターが非常に繊細に描かれ、全く違う作品として金馬奨で拮抗したという印象です。
こちらは金馬奨で新人監督賞、方郁婷(ケイトリン・ファン)が新人賞、アウト・オブ・コンペの観客賞と国際評論家賞を受賞しました。
※参考記事
http://www.asianparadise.net/2021/11/post-e73d35.html
10.『複身犯』 ドラマ『麻酔風暴』の金鐘獎受賞監督蕭力修(シャオ・リージョウ)が久々に手がける劇場用映画で、車の爆発事故を発端に、捜査のために別の人間の身体を借りて意識だけが蘇生させられる人物から様々な人間模様が展開するミステリー。
台北電影奨で主演男優賞はじめ3部門ノミネートされ、受賞はなりませんでしたが、楊祐寧(ヤン・ヨウニン)のこれまでにない力演は高評価を得ました。
共演は張榕容(チャン・ロンロン)、林哲熹(リン・ジャーシー)、王淨(ワン・ジン)など豪華キャストで、興行成績10位にランク・イン。
※参考記事
http://www.asianparadise.net/2020/12/post-8de5b8.html
☆注目作
『廢棄之城』 プロデューサーの李烈(リー・リエ)と易智言(イー・ツーイエン)監督が初めて手がけ、完成まで10年かけたアニメーション。
レジ袋をはじめゴミを擬人化し、環境保護を訴えると共に、少年の成長を描いた物語。
声の出演は、黄河(ホアン・ハー)、桂綸鎂(グイ・ルンメイ)、張孝全(チャン・シャオチュアン)という易智言が育てた俳優たちで、李烈も参加しています。
金馬奨では昨年度に、長編アニメーション賞を受賞しました。
『詭扯』 2014年の韓国映画『시실리2km(To Catch A Virgin Ghost)』をリメイクしたコメディ。
名作ドラマ『16個夏天』を手がけた許富翔(シュー・フーシャン)監督の、初の長編劇映画です。
台湾映画には久しぶりの陳柏霖(チェン・ボーリン)主演で、プチョン国際ファンタスティック映画祭では審査員特別賞を受賞しました。
金馬奨では劉冠廷(リウ・グァンティン)が台北電影奨に続き、助演男優賞を獲得。
ちなみに、監督夫人の陳意涵(チェン・イーハン)も出演しています。
若い世代を中心にヒットし、快進撃の『月老』に押し出されてランク外となりました。
※参考記事
http://www.asianparadise.net/2021/10/post-3a83a4.html
今年一年、アジアンパラダイスをご愛読いただき、ありがとうございました。
来年も、素敵な映画に出会えますように…。
皆さま、健康で新しい年を迎えられますよう、お祈りしています。
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