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2022/06/18

2022台湾映画上映&トークイベント「台湾映画の"いま"〜革新と継承〜」第3回『俺の中の奴ら(原題:複身犯)』オンライン開催! 楊祐寧(ヤン・ヨウニン)の演技に絶讃の嵐!

Photo_20220618130801 2000年以降の台湾映画の新しい流れがどのように台湾映画の"いま"に繋がってきたのか、そして"いま"何が起きているのかをお届けする台湾文化センターとアジアンパラダイス共催のイベントシリーズ、第3回は車の爆発事故を発端に、様々な人間模様が展開するクライムサスペンス『俺の中の奴ら(原題:複身犯)』を上映しました。

この映画は、2015年に大ヒットした医療ドラマ『麻醉風暴』の蕭力修(シャオ・リージョウ)監督が手がけた作品で、2021年2月26日に台湾で公開され、この年の興行収入11位という好成績でした。
凝った構成のサスペンスで、台北電影奨で主演男優賞はじめ3部門ノミネート。受賞はなりませんでしたが、楊祐寧(ヤン・ヨウニン)のこれまでにない迫力の演技は高評価を得ました。

今回は凝った構成のサスペンスですので、アフタートークを見たあとに再度本編をご覧いただけるように視聴時間を延長しました。
これが多くの皆さんに喜ばれ、見直す方も多くいらしたようです。
そして、展開のおもしろさを楽しむと同時に、監督が伝えたかった人間の善と悪についての思いに色々考え、台湾のサスペンス映画の進化を味わっていただけました。

アンケートの回答より抜粋。
「次々と息をのむ展開、かつ途中でどれが誰かわからなくなり、でも最後は感動!視覚的な表現がすごく強烈で感覚や思考をコントロールされていそう」「脳内の映像もカッコよく、大きなスクリーンで見てみたかった作品だなぁと思った。そして、何よりこんな複雑な役を演じ切ったヤン・ヨウニン、凄い!!!」「ハリウッド映画を思わせるような早いテンポで、とても面白い」「斬新な映像で普遍的なテーマが語られ、新鮮」「人格の切り替わりなどをしっかりと演技で見せ、ストーリーとして成立させていた」「必要以上にCGに頼ることなく、シンプルなセットで物語の世界観を上手く作り出す優れた演出、サスペンスとして最後の最後まで見る者を惹きつける脚本、俳優陣の素晴らしい演技という完成度の高い優れた作品」「サスペンスはあまり観ないが、これは面白く、最後は子を思う親の感情に泣けた」「主役の演じ分けがどのキャラクターも違和感なく素晴らしかった」「設定がおもしろく、それを巧く表現している」「奥行きと幅のある映像、視覚効果のすばらしさに驚いた」

また、今回はこれまで以上にわかりやすい解説を目指したアフタートークは、皆さんそれぞれの答え合わせの助けとなったようでした。
そして、台湾のサスペンス映画事情や最新情報も好評でした。
「謎解きをしっかりしていただき、本当にスッキリした」「かゆいところに手が届く丁寧な解説」「わかりやすい説明と裏話等、楽しく新鮮」「監督の思いがわかり、最後のシーンの意味も気になるのでPodcastのインタビューが楽しみ」「映画の背景を聞けて作品に対する知識が深まった」「たっぷり充実した作品補完で、迷子にならずにすんだ」「ロケ地の紹介もうれしい」「複雑な構成を噛み砕いての説明で、整理ができた!」「キャスティングの裏情報、監督の思いなどを聞くと映画の印象が深くなる」「撮影秘話など、いつも楽しみ」「監督や出演俳優の詳細な情報を得ることができる大変すばらしいトーク」
「台湾サスペンス映画の流れや、近年作品が多い背景など、解説がとても勉強になった」「Netflixで見られる作品の紹介などがあり、とても参考になった」「中々手に入りにくい台湾映画情報をわかりやすく小ネタも含め、大変ありがたい」

では、ここからアフタートークの採録になります。

06181 この映画のオリジナル脚本は、洪子詠(ホン・ズーヨン)が2016年に台湾最大の脚本アワード「優良劇本」でグランプリを獲得した『《193路(往月球)』です。
これを気に入ったプロデューサーの林秉聿(リン・ビンユー)が蕭力修監督に話を持ちかけ、映画化することになりました。
オリジナルの脚本はかなりアート寄りでしたが、これをクライムの要素が入った刑事もの、そしてエンターテインメントとして製作する為に、オリジナルの脚本家洪子詠を交えて3人で色々話し合ったそうです。
 
06182 『麻醉風暴』で医療の世界や文化から生死について描いた蕭力修監督は、オリジナル脚本から継承して人の意識をテーマにしたいと思ったそうです。
本作は人の意識を他人に移植するというのがポイントなので、なぜそういうことが必要なのか説得力を持たせるため、連続誘拐殺人事件の捜査という設定にしようということになりました。
オリジナル脚本では色々な人格が出てくるのは最後ですが、そのままだと映画で見せるには一人の俳優に頼って全てを見せなければなりません。そうすると、観客にとってはそれを理解するのがとても難しくなります。

06183 そこでオリジナルの構成を変え、それぞれのキャラクターの関係性をビジュアルイメージを使って見せようと決めました。
具体的な方法として、監督の概念と脳内で何が起きているかを美術の担当に伝え、それぞれの人格が脳内で逃げ出したくても逃げられないということを表現して欲しいと依頼。
光の明暗、画面の切り替え、撮影の技術によって表現してもらう事になりました。
人格が変わるときに首の後ろのチップが点滅しながら効果音を聞かせるという方法も、観客にとってとても助けになるポイントですね。

06184 そして、スタッフの一人がある画家の絵を持って来ました。その絵は暗闇の中に色々な光の線が描かれているもので、幻覚とか脳内の刺激を受けている様子が監督のイメージとピッタリでした。
そこで光を使って脳の状態を表現しよう、喜怒哀楽の気持ちを様々な色で表現しようと決めたそうです。
また、監督のお嬢さんが読んでいる絵本で、怪獣のタイプや気持ちが色分けされていて、これも参考にしました。
こういう良いアイデアが次々出てきたので、あまり時間をかけずに準備が進んでいったということです。

06185 この映画の事件は、身体のハンディを持つ子供ばかりを誘拐して殺害するというものです。
日本でも2016年に「相模原障害者施設殺傷事件」という大量殺傷事件があり、人権を無視した犯人に日本中の人が怒りを覚えました。台湾でも同じような事件が度々起こっていて、犯人の心神喪失状態を理由した判決には、しばしば社会で論争が起きています。
そして、通常身体の疾患や障害は周りから同情されることが多いものの、心の病はなかなか気づかれなかったり、偏見を持たれてしまうことから、監督はこの対比を描きたかったと言っていました。

06186 さらに、監督は主人公について観客に色々考えてもらいたかったとも言っています。
人間は、見るからに悪人だけど実は善の部分もあったり、善人にも悪の心がある、そういうことを見終わったあとに観客が考える余白が生まれれば、と思いこういう設定にしました。
この余白により、台湾でも観客の反応は2極に分かれたそうです。
すごく感動したという人たちと、嫌悪感を持ったという人たちがいました。
最後に犯人が自分の子供の目の前で、銃で自分を撃つように促すというシーンは、受け入れられないという声も少なくなかったそうです。
それでも、監督は商業映画でありながら、観客に色々な思いを感じ、考えてもらうことを試してみたかったと言っていました。

06187 では、あらためて蕭力修監督のご紹介をします。
2001年の短編『COPY:COPY』が短編映画アワードの金穗獎や台北電影節などで受賞し、2004年のSF短編『神的孩子』が金馬獎で2部門ノミネート、2013年に北村豊晴監督と共同監督した『おばあちゃんの夢中恋人(原題:阿嬤的夢中情人)』は各国の映画祭で上映され、日本の大阪アジアン映画祭ではABC賞を受賞しました。
そして2015年、医療ドラマ『麻醉風暴』で金鐘獎の作品賞、監督賞など4冠を獲得。続編の『麻醉風暴2』も高視聴率をあげました。
そして、本作が長編劇映画としては3作目になります。

06188 キャストでは、なんと言っても主役の楊祐寧による複数の人格の演じ分けが素晴らしいですね。
監督は、この役は本当に良い俳優を選ぶことが大事だと思っていたとおっしゃっていました。
実は楊祐寧の方から、この役に興味があると連絡があったそうです。
そもそも博士役のキャスティングの時に、張榕容(チャン・ロンロン)が仲の良い楊祐寧に脚本を見せたところ、これを気に入ったという経緯がありました。

06189 その頃楊祐寧は大陸で仕事していたので、監督は想定外だったそうですが、台湾に戻って出演したいという彼の申し出には驚き、とても嬉しかったと言っていました。
監督は楊祐寧と同時期にこの世界へ入ったので、彼の演技はずうっと見て来ており、コメディもシリアスな役もできる幅の広い俳優だと思っていたそうです。
少年ぽいところもあり、最近は父親としての包容力も魅力で、今回は素晴らしい縁をもらったと言っています。
また、後に出資者としても参加したいと申し出があり、監督はとても有り難く、大きな支えになったと語っていました。

061810 監督は、楊祐寧の演技は、それぞれのキャラクターがその人そのものだと信じさせる力があったと言います。
陳以文(チェン・イーウェン)の役など、口調やからだの筋肉の動きまで陳以文になりきり、他の人格も同様に素晴らしかったと。
そして、本来の陳光軒に戻った時の父親像、その変わり身が見事で、自分が娘だったらあ、お父さんだ、と思える演技だったと絶讃していました。
誘拐殺人犯の許明哲と妻殺しの死刑囚陳光軒が交互に出てくるシーンは、彼の演技力で陳光軒の娘が自分のお父さんだとわかる設定が成り立つと確信したそうです。

061811 楊祐寧は2004年に映画『僕の恋、彼の秘密(原題:十七歲的天空)』でデビュー、明るいボーイズラブの作品として大きな話題を呼び、金馬獎で新人賞に輝きました。
その後着々とキャリアを重ね、日本で公開や映画祭上映された映画は『夢遊ハワイ(原題:夢遊夏威夷)』、2009年の『台北に舞う雪(原題:台北飄雪)』、2013年の『祝宴!シェフ(原題:總舖師)』、2020年の『足を探して(原題:腿)』などのほか、2016年の香港映画『コールド・ウォー 香港警察 堕ちた正義(原題:寒戰II)』、今年大阪アジアン映画祭で上映された『アニタ(原題:梅艷芳)』、そして2018年の『モンスター・ハント 王の末裔(原題:捉妖記2)』はじめ中国映画もたくさんあります。

061812 映画だけでなくドラマにも多数出演していて、2012〜2013年のアイドルドラマ『向前走向愛走〜Love Forward(原題:向前走向愛走)』や『イタズラな恋愛白書 Part 2(原題:愛的生存之道)』、最近ではNetflixで大ヒットした『華燈初上 -夜を生きる女たち-(原題:華燈初上)』の刑事役が印象的ですね。
本当に演技の振り幅が広く、色々な役で楽しませてくれます。
私もデビュー当時から何度もインタビューしていて、彼のお父さんが経営する鍋の店にも良く行きました。まだ台湾で仕事している時ですが、ご本人も良くお父さんの店を手伝っていて、お店で顔をあわせお喋りすることもありました。

061813 楊祐寧のインタビューで印象深いのは、色々聞いていると「どう思う?」など逆質問が多かったことです。
常に客観的な意見や感想を聞いて、前進を目指しているのだなぁと、思いました。
そして、とても細かい気配りをしてくれる人でした。
香港や大陸の仕事が増えて2014年以降はインタビューの機会がありませんが、この映画でまたひとまわりもふたまわりも大きくなった楊祐寧、色々話を聞ける日が待ち遠しいです。

061814 能の移植に成功した博士の役について、監督は今の台湾でこの年頃で母親を演じられる俳優が少ないので、探すのがたいへんだったと言っていました。
張榕容は芯の強さがあり、特に母性をしっかり演じられることから選んだそうです。
確かに、映画初主演の頃から芯の強さを感じられる役を演じることが多かったのは、彼女自身の本質を色々な監督が引き出していたからかも知れません。
本作では、子を思う母の姿を見せつつ、ひとりの人間として陳光軒に敬意を払い、研究者としての誇りを保ち続ける役を見事にこなしていました。

061815 張榕容は台湾とフランスのハーフで、子役からスタートして、映画やドラマで活躍しています。
2008年の主演映画『渺渺』で金馬奨の主演女優賞にノミネート、2009年の『陽陽』で台北電影奨とアジア・パシフィック映画祭で主演女優賞を獲得しました。そして2012年の『光にふれる(原題:逆光飛翔) 』で再度台北電影奨の主演女優賞に輝いています。
2017年の中国・日本合作の『空海−KU-KAI− 美しき王妃の謎(原題:妖貓傳) 』では楊貴妃を演じ、話題になりましたね。
実際にも一児のお母さんですが、今も広く中華圏で活躍を続けています。

061816 今回の製作費だと、主役でない人物で陳以文のようなレベルの高いキャリアのある俳優をキャスティングするのは難しい、と語る監督。
しかし、陳以文を含め登場する時間は短いけれど、バスの乗客たちは強烈な印象を残さなければならないので、自分のわがままではあるがプロデューサーに聞いてみて欲しいと頼んだそうです。
そうして幸い皆オファーを受けてくれ、これらの人物を演じてくれて本当にラッキーだと語っていました。

061817 陳以文は、物語の中で身代金に関わる不動産仲介業者を演じていて、いかにも狡猾でお金の事しか考えていないワル。さすがに巧いですねぇ。
もともとは『運轉手之戀』などの監督ですが、俳優としてもキャリアが長く、楊德昌(エドワード・ヤン)作品はじめ多くの作品に出演。
2019年は鍾孟宏(チョン・モンホン)監督の『ひとつの太陽(原題:瀑布) 』で金馬奨の主演男優賞を受賞、今年も『修行』で台北電影賞の主演男優賞にノミネートされています。
監督と俳優あわせると、これまで色々な賞に15回ノミネートされて13回受賞というものすごい記録を持っています。

061818 誘拐の実行犯のひとりを演じた王淨は、いま台湾で一番勢いのある若手女優と言って良いでしょう。
小説家としても活躍する才女で、映画やドラマで次々主演してきましたが、ドラマ『子供はあなたの所有物じゃない モリーの最後の日(原題:你的孩子不是你的孩子 茉莉的最後一天)』、『あすなろ白書』の主役に続き、2019年に話題を呼んだ映画『返校 言葉が消えた日(原題:返校)』に主演。
この演技で金馬奨の主演女優賞にベテラン勢の中で唯一の若手ノミネート者となり、2020年の台北電影奨では見事に主演女優賞を獲得しました。
昨年は『ひとつの太陽(原題:瀑布) 』『月老』にも出演、主演ドラマ『悲しみよりもっと悲しい物語(原題:比悲傷更悲傷的故事:影集版)』もありました。

061819 バスの運転手役の林哲熹も、旬の若手俳優です。
誘拐事件には関わっていないのに、たまたま犯人が共犯者を巻き込んで事故を起こすバスの運転手だったことで命を落としてしまう役。ただおばあちゃんを気遣う善良な青年なのに、警察も、そして見ている私たちをも混乱させてくれました。
2018年の社会現象にもなったドラマ『悪との距離(原題:我們與惡的距離)』でブレイクし、金鐘獎の助演男優賞にノミネート。同じ年の映画『狂徒』では吳慷仁(ウー・カンレン)とダブル主役と言っても過言ではないポジションで激しいアクションと存在感を見せ、作品は本作含め5本ん映画に出演し、今年はドラマ5本という売れっ子になりました。

061820 そして、白内障を患いながら執拗に事件を追う刑事役の李銘忠はマレーシアのアクションが得意な俳優です。監督がかっこよくてアクションのできることが必須だからピッタリだと、キャスティングしました。
リアリティと迫力のある刑事でしたね。
お兄さんの李銘順も俳優で、同じようにアジアで広く活躍しています。
香港や中国作品にも出ていて、最近は台湾の作品に出ることが多いので、ぜひ注目して欲しいと、監督がプッシュしています。

061821 犯人がネットで見つけて誘拐の実行犯となった大学生は、新世代俳優の劉修甫(リウ・ショウフー)が演じています。出番は少ないものの、真犯人かも知れないという思わせる雰囲気をよく出していました。
彼はドラマ『子供はあなたの所有物じゃない 猫の子(原題:你的孩子不是你的孩子 貓的孩子)』で頭角を表し、金鐘獎の新人賞にノミネート。
台北電影節の新星を選出する「非常新人(Supernova)」プロジェクトで、昨年10人のひとりとして選ばれ、いま製作中の台湾・シンガポール合作映画に出演、これからが楽しみな新星です。

061822 この他今回はスペシャメルなキャスティングあります。かつてアイドルドラマや映画で人気だった香港の周群達(ダンカン・チョウ)が、真犯人の許明哲を演じました。
終盤にその姿を現し、楊祐寧の陳光軒との脳内バトルは緊張感溢れるシーンでしたね。
周群達は、楊祐寧のデビュー作『僕の恋、彼の秘密(原題:十七歲的天空)』で恋人役でした。10数年ぶりの共演は監督からのプレゼントと言えます。
ちょうど去年『僕の恋、彼の秘密』が台湾で再公開されたこともあり、良いタイミングだったということです。
最近は2018年の『High Flash 引火点(原題:引爆點)』の黒幕や、2020年の『1秒先の彼女(原題:消失的情人節)』のちょい悪男などが印象深いですね。

061823 ご紹介した個性あふれる俳優達の名演で、私たちはすっかり騙されてしまい、まだ混乱している方もいるのでは…と思います。
バスの乗客達の意識を移植される死刑囚の陳光軒の脳内で最初に覚醒したのが許明哲だと思い込んだ警察と博士に引きずられ、展開が混乱していきます。
でも、これは植物状態から覚醒した陳光軒の意識でした。
そして最後まで隠れていた、連続誘拐殺人事件の真犯人である本当の許明哲が現れて、ようやくこれまでの謎が解けるという構成になっています。

061824 このふたりの人物、許明哲も陳光軒も父親として贖罪の気持ちがあるのだ、と監督が話してくれました。
許明哲が自分の子供のことで障害のある子供は生きていくのが可哀想という自分の中の正義で始めたものの、一連の事件を終わらせたいという思いから、共犯者を道連れにバスの事故で死のうとして仕組みました。
つまり、許明哲も贖罪の気持ちは持っていたのです。
一方の陳光軒は妻を殺したことと、ひとり残した娘への後悔と思いが溢れています。

061825 許明哲と陳光軒、ふたりの名前には「明」と「光」という字が入っています。
これは、2人がどうやって暗闇の世界から光明を見つけていくのか、というテーマから設定されました。
観客が気づいてくれるかどうかわからないけれど、監督はこういう仕掛けが好きなのだそうです。
そして、台湾でも僅かですが気づいてネットに書き込みをしている人がいて、とても嬉しかったと語っていました。

061826さて、最後の振り返る楊祐寧のシーン…これは許明哲なのか陳光軒なのか?と考えさせられるオープンエンディングですね。
この意味を知りたいと思う方、いや、これはそれぞれが感じたもので良いと思う方もいらっしゃると思います。
ここではあえて触れないことにしますが、どうしてもこの意味を知りたい方は、6月20日からPodcastで配信する監督のインタビューをお聞き下さい。

061827 最後に、気になるロケ地をご紹介します。
バスが走る風車のある道は、台中の夕暮れの風景が美しい景勝地、高美濕地の高美風車大道です。
車ごと川に落ちた楊祐寧と張榕容が打ち上げられるところは、台南の二つの川が交わった河口の四草大橋。観光地安平の近くです。
そして、削られた山肌が連なる場所は、高雄の「田寮月世界」で撮影されました。
荒涼とした美しさが月の風景のようなので、その名がつけられました。

061828 ここからは、近年増え続ける台湾のサスペンス映画についてお話しします。
サスペンス映画については、この上映シリーズで過去2回お話ししているのですが、その起点は2002年『ダブルビジョン(原題:雙瞳)』だと思っています。これは台湾とアメリカの合作で、陳国富(チェン・グォフー)監督、蘇照彬(スー・チャオピン)脚本、出演はデヴィッド・モース、梁家輝(レオン・カーファイ)、戴立忍(ダイ・リーレン)などアメリカ、香港、台湾の名優が並んでいます。
作品的にも興行的にも成功し、『ダブルビジョン』の脚本を担当した蘇照彬が監督した2006年の『シルク(原題:詭絲)』はじめ多くの監督がこのジャンルに挑戦し、特に新人監督達の活躍で活況を呈していきます。

061829 では、その新鋭・気鋭の監督達の注目作をご紹介します。
鍾孟宏(チョン・モンホン)監督の2010年の『4枚目の似顔絵(原題:第四張畫)』と2013年の『失魂』、2014年張榮吉(チャン・ロンジー)監督の『共犯』、2018年の程偉豪(チェン・ウェイハオ)監督の『目撃者 闇の中の瞳』、2017年の李啟源(リー・チーユエン)監督の『盜命師』、楊雅喆(ヤン・ヤージャ)監督の『血觀音』、2018年は莊景燊(ジャン・ジンシェン)監督の『High Flash 引火点(原題:引爆點)』など、次々と素晴らしい作品が生まれています。

061830 2019年からの作品としては、趙德胤(チャオ・ダーイン)監督の『ニーナ・ウー(原題:灼人秘密)』、徐漢強(シュー・ハンチャン)監督の『返校 言葉が消えた日(原題:返校)』、2021年は程偉豪(チェン・ウェイハオ)監督の『THE SOUL:繋がれる魂(原題:緝魂)』と『俺の中の奴ら(原題:複身犯)』が主な作品です。
それぞれの作品の詳細は、アジアンパラダイスでタイトルを検索していただくとご覧いただけます。

061831 サスペンス映画と平行して、テレビドラマでもこの現象があります。
名匠王小棣(ワン・シャオディ)がプロデュースし、台湾の名監督・名脚本家が集結して作るドラマシリーズ『植劇場』のシリーズの中のひとつにサスペンスとホラーが混在したとジャンルで4作が製作されました。
そのパート2として今年「茁劇場」というシリーズの製作が発表され、とせんな作品が生まれるのか楽しみです。

061832 台湾のサスペンス映画とドラマは、日本のような原作ものではなく、そのほとんどがオリジナルであるということも注目すべきポイントです。
そして、やはり優れた作品には深い人間ドラマがあるということも共通しています。
ご覧いただいた『俺の中の奴ら』の蕭力修監督に、最近のサスペンス映画の状況をどう見るか、伺いました。
「今台湾映画のジャンルは多様化していて、みんながそこに挑戦したいと思い、自分も含め、みんなが業界として頑張っている。
その中のひとつにサスペンスがある。
ただ台湾は市場が小さく、映画館ではハリウッドの大作と勝負をしなければならない状況なので、台湾だけでなく、日本や韓国、東南アジアとコラボして、国際市場に出て行けると良いなと思っている」
ということでした。

061833 その様々なトライの一つとして、国際的な配信プラットフォームとのコラボがあります。
Netflixのオリジナルコンテンツ『次の被害者』や、台湾のテレビとNetflix配信というハイブリッド形式の『華燈初上 -夜を生きる女たち(原題:華燈初上)』、どちらも高評価を得ています。
そして、今年は宮部みゆきの小説をドラマ化した『模倣犯』が間もなくNetflixで配信されます。
さらに、最近はDisney+とコラボも増え、蕭力修(シャオ・リージョウ)監督含む4人の監督が手がけた実際に起きた4つの犯罪事件をテーマ西田、Disney+オリジナルドラマシリーズ『タイワン・クライム・ストーリーズ(原題:台湾犯罪故事)』(仮題)が9月に配信予定で、いまポスプロ中だそうです。

061834 では、台湾の最新情報をお伝えします。
6月23日から始まる台北電影節では、ノミネート作品の他に公開前の作品を逸早く見られるという楽しみがあります。
オープニングの『初戀慢半拍』は、『台北の朝、僕は恋をする(原題:一頁台北)』『Will You Still Love Me Tomorrow?(原題:明天記得愛上我)』に続く(アーヴンン・チェン)監督のロマンティックなラブストーリー。徐若瑄(ビビアン・スー)と柯震東(クー・チェンドン)のダブル主役です。
クロージングの『童話.世界』は、どんな犠牲を払っても自身の正義を追求する主人公の物語で、張孝全(チャン・シャオチュアン)主演。
その他、溫昇豪(ウェン・シェンハオ)と曾珮瑜(ツェン・ペイユー)主演の『夢遊樂園』、少女のエロティシズム探求を描いた『小藍』、ある殺人事件を通して若者の精神的な旅を記録したドキュメンタリー『草原上,我們開始跳舞』など見たい作品が目白押しです。

061835 そして、台北電影賞にノミネートされている作品で、このオンライン上映&トークでご覧いただける作品が3作あります。
次回7月23日の『一人にしないで(原題:不想一個人)』、范少勳(ファン・シャオシュン)が主演男優賞にノミネートされています。
8月20日の短編スペシャルでは、短編映画賞ノミネートの笑いと涙と感動の物語。『聞いちゃいない(原題:講話沒有在聽)』、そして10月22日は作品賞、莫子儀(モー・ズーイ)の助演男優賞など9部門ノミネートのサスペンス映画『阿修羅/アシュラ(原題:該死的阿修羅)』。
受賞結果と共に、楽しみにしていて下さい。

このアフタートークは、映像として10月31日までアーカイブ配信します。
https://v.classtream.jp/tw-movie/#/player?akey=9e166e6253f6ffcf1892d0c2900b2141

蕭力修(シャオ・リージョウ)監督ムービーメッセージも公開します。
https://v.classtream.jp/tw-movie/#/player?akey=e7761b28b4cb8a03238112d6405cc1da

また、今回お話しを伺った蕭力修(シャオ・リージョウ)監督のインタビュー音声は、6月20日(月)からPodcastで配信予定です。

そして、次回は7月23日(土)14時から。
社会の光のあたる所で活躍していても心の空洞を埋められない女性、陽の当たらない場所でわずかな光を求める男女が織りなすラブストーリー『一人にしないで(原題:不想一個人)』です。
詳細は6月24日に台湾文化センターとアジアンパラダイスでお知らせします。
どうぞ、お楽しみに!

★リンクは有り難いのですが、写真や記事の転載は固くお断りします。

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