第五十九回金馬獎授賞式
作品賞は、金馬影展のオープニングを飾った詹京霖(ジャン・ジンリン)監督による『一家子兒咕咕叫』(台湾)。競技用の鳩で生計を立てる家族が、息子の失踪や経済的不安などで身体も心も徐々に病んでいく姿を描いています。
今回5つのトロフィーを獲得した香港の『智齒(リンボ)』に1票差で競り勝ちました。
キャラクター設定が非常に珍しく、人、自然、動物のつながりが奥深く、リアルであることが評価されました。
社会の低層に生きる人々を描いてきた詹京霖監督は、2012年に『狀況排除』で台北電影賞の監督賞を受賞、大阪アジアン映画祭でも上映された2016年のテレビ映画『川流之島』は金鐘賞で作品賞、監督賞ほか計5部門受賞しています。
監督賞を受賞したのは、『哈勇家』(台湾)の陳潔瑤(チェン・ジエヤオ)監督。一貫して原住民の世界を描き続けるタイヤル族の陳潔瑤監督の三作目の劇映画で、2016年の台北電影獎では前作『只要我長大』が100万元大賞と長編劇映画賞を獲得した陳潔瑤(チェン・ジエヤオ)監督が監督賞、子役達10人が新人賞、編集賞の5冠を獲得しています。
今回も、出演者のほとんどが素人で、プロの俳優は黃瀞怡(ホアン・ジンイー)ただ一人。
素人出演者は脚本を読むことはなく、三世代のタイヤル族の家族の悲喜こもごもをユーモアを交えて、「GAGA」と呼ばれるタイヤル族の生命価値観を描いています。
こちらも、香港映画『智齒(リンボ)』の鄭保瑞(ソイ・チェン)監督と1票差での受賞となりました。
新人監督賞は、香港映画『白日青春』のマレーシア出身で香港に在住する劉國瑞(ラウ・コッルイ)の頭上に輝きました。
この映画は、パキスタン人の難民少年と香港のタクシードライバーを通して香港の難民問題を描いたものです。
完成度の高い素晴らしい脚本を、新人らしからぬ見事な演出。プロの俳優と素人俳優を融合させた手腕、限られた予算の中、アクションシーンもバランス良く、少ない時間のため夜のシーンも多いがキャラクターの選択と変化を成熟した演出力で見せた。という講評でした。
この『白日青春』に主演した黃秋生(アンソニー・ウォン)が、満場一致で主演男優賞を獲得。
演技に見えない演技が素晴らしく、突出していたというのが授賞理由でした。
名前を呼ばれた時は、新人賞にノミネートされていましたが受賞ならなかった少年役の林諾(サハル・ザマン)の失意を慰めるために一緒に登壇し、トロフィーを持たせていたのが印象的でした。
香港を代表する有名俳優ですが、雨傘運動を支持したことにより中国からの締め付けで香港ではインディペンデント映画、台湾のドラマに出演している黃秋生ですが、金馬奨ではこれで主演男優賞2回、助演男優賞2回受賞という記録になりました。
主演女優賞は、香港映画『燈火闌珊(消えゆく燈火)』の張艾嘉(シルヴィア・チャン)。
同じ香港映画『智齒(リンボ)』の劉雅瑟(チャ・リウ)とは1票差でしたが、金馬奨ではこれで3度目の受賞になります。
時間の変化を見せる演技が秀逸だという評価でした。
「この賞を95才の母に捧げたいと思います。母はかつて女優になることを夢見ていたのですが,環境がそれを許さず、私にこの仕事を任せてくれました。とても感謝しています。審査員の皆さんありがとうございます。これからも頑張ります」とスピーチしていました。
初ノミネートで助演男優賞を受賞したのは、『黑的教育』の朱軒洋(ベラント・チュウ)。2019年の映画『下半場(ぼくらの後半戦/運命のマッチアップ)』で注目され、映画やドラマで活躍中の若手です。
審査経過は、最初過半数に満たなかったものの、討論を重ねるうちにこの映画のダークな部分のキーとなる演技で存在感を見せ、物語の展開により役柄の変化が説得力があり演技の幅を見せた、ということで受賞が決まりました。
名前を呼ばれると仲間達との握手やハグもせず無表情ですぐ壇上に上がり、渡される前にプレゼンターの黃秋生の手からトロフィー取って、スピーチも短いお礼の言葉を述べて去って行きました。
皆あっけにとられたようでしたが、『黑的教育』の監督柯震東(クー・チェンドン)が「僕も新人賞もらった時頭が真っ白になったから」とメディアに対してフォローしていたようです。
『哈勇家』で助演女優賞を受賞したのは、74才で映画初出演の林詹珍妹(カーガウ・ビリン)でした。
陳潔瑤監督の前作『只要我長大』に主演したタイヤル族の少年の祖母。
『一家子兒咕咕叫』のベテラン楊麗音(ヤン・リーイン)のシーンごとに異なる泣く演技、沈黙と心の表裏の表現が高く評価されましたが、自然体の演技の林詹珍妹に1票差で軍配が上がりました
名優を破る素人俳優という結果は、映画賞あるあるですね。
新人賞は、助演男優賞にもノミネートされた『一家子兒咕咕叫』の胡智強(フー・ジーチャン)が満票で獲得。
登壇してトロフィーを受け取ると、嗚咽をおさえながら「僕を信じてこの役を与えてくれた監督に感謝します。毎日、撮影を終えて家に帰ると、自分の身体ではないような気分になりました。 たくさんの素晴らしい俳優たちと仕事ができて光栄です」とスピーチ。
そして、今日の服は可愛がってもらっている傅孟柏(フー・モンボー)が貸してくれたそうです。
今回のパフォーマンスは、司会を務めた謝盈萱(シエ・インジュアン)が陳奕迅(イーソン・チャン)の「謝謝儂」の歌とダンスを披露。
A-Linはスミンの「不要放棄」と「ROMADIW」を歌い、原住民の群舞で盛り上がりました。
今年無くなった映画人のメモリアルコーナーでは、李玖哲(ニッキー・リー)が自身の「Will You Remember Me」で故人たちを偲びました。
プレゼンターたちの写真もお楽しみ下さい。
★リンクは有り難いのですが、写真や記事の転載は固くお断りします。
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