2023年台湾映画上映&トーク 第一回『流麻溝(りゅうまこう)十五号(原題:流麻溝十五號)』3年ぶりの会場開催と来日ゲストで大盛況!
2016年から始まりました台湾文化センターとアジアンパラダイス共催の台湾映画上映イベント「台湾映画のいま」は、2020年から2022年までコロナ禍によりオンラインで実施してきましたが、ようやく状況が落ち着いて来たことにより、今年は会場+オンラインのハイブリッド形式で開催することになりました。
但し、第一回は版権の関係で、4月15日に会場開催のみで実施しました。
申込みは瞬殺で定員50名が満席になり、今年から座席指定になったにも関わらず、開催当日は開場時間前から台湾文化センターにいらっしゃるお客様が多く、その期待のほどが伺えました。
2023年度のオープニング『流麻溝(りゅうまこう)十五号(原題:流麻溝十五號)』は、台湾でもヒットした周美玲(ゼロ・チョウ)監督による、台湾で初めて女性の政治犯を扱った実話をもとにした作品であることと、来日ゲストのプロデューサと原作者登壇ということで、メディアや研究者(大学教授など)、業界関係者も多く、熱気溢れる会場でした。
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まず、『流麻溝(りゅうまこう)十五号(原題:流麻溝十五號)』という映画について、ご紹介しておきましょう。
本作は曹欽榮(ツァオ・シンロン)が6人の被害者の口述をまとめた本「流麻溝十五號:綠島女生分隊及其他」をベースにした物語です。
緑島へ連行された年齢も身分も違う3人の女性…高校生、ダンサー、若い母親が、名前を消され、番号に置き換えられた日々を、これまで一貫して女性映画を撮ってきた周美玲監督がメガホンを取り、2022年10月14日から開催された高雄電影節のオープニングを皮切りに、10月28日から台湾で公開され、興行収入4000万台湾ドルというヒットとなりました。
タイトルの「流麻溝十五號」は、台湾の東の離島 緑島にある政治犯の収容所の住所。
昔「火燒島」と呼ばれた緑島は1949年に緑島と改称され、台湾国民政府による白色テロと呼ばれる恐怖政治下で戒厳令が敷かれていた時は、政治犯収容を目的とした教育施設と監獄が置かれていました。
思想改造及び再教育を目的とした「新生訓導処」は1951年から1965年まで設置され、この映画は「新生訓導処」を舞台に収容された女性達が描かれます。
高校生を演じる余佩真(ユー・ペイチェン)は、シンガーソングライターですが、映画やドラマで受賞も果たす期待の若手。
ダンサー役は2015年の歴史ドラマ『一把青』でデビューして一気にブレイクした連俞涵(リエン・ユーハン)。
若い母親を演じるのは、俳優、監督、脚本家、作家というマルチな才能を持つ徐麗雯(シュー・リーウェン)です。
その他、医師役に人気バンドFire EX.(滅火器)の楊大正(ヤン・ダーチャン)、『海角七号 君想う、国境の南』で生意気なキーボード奏者の少女役が印象深い安乙蕎(アン・イーチャオ)が成長した姿を見せています。
海外ではオランダのロッテルダム国際映画祭、スイスのフリブール国際映画祭、イタリアのウーディネ極東映画祭、韓國のチョンジュ国際映画祭に出品され、日本では本イベントを含め東京・大阪で上映会が開かれました。
世界に広く台湾の歴史を知ってもらいたいということで、本作の製作会社代表でプロデューサーの姚文智(ヤオ・ウェンジー)さんと、映画のもとになったオーラルヒストリー「流麻溝十五號」の原作者曹欽榮(ツァオ・シンロン)さんが来日して、4月15日の台湾文化センターでもアフタートークに登壇。
製作の経緯や実際に思想犯の収容所があったロケ地緑島のことなどをお話ししていただき、予定時間をかなりオーバーするという盛り上がりでした。
姚文智(ヤオ・ウェンジー)プロデューサーは、国会議員として長年政界で活躍し、新聞局長として映像や音楽の行政の最高責任者として手腕を振るっていた方です。
2018年に政界を引退し、2019年に「湠臺灣電影公司」を設立して映画業界に進出、『流麻溝十五號』が第一作となります。
白色テロを扱った映画は『悲情城市』や『超級大国民』、最近ではエンターテインメントと歴史を融合させて成功した『返校』などがあり、特に『返校』は若い世代に台湾の歴史を再認識させたことで高い評価を受けています。
姚プロデューサがこの映画を製作した理由は「2005年の新聞局局長時代に、台湾の歴史、特に今回取り上げた白色テロについての作品がもっとあっても良いと思っていた。
これはもう自分で創るしかないと、映画製作会社を立ち上げ、台湾の歴史100年を見つめるシリーズの第一弾としてこの映画を作った。今後も第二弾、第三弾と作り続けていきたい」ということです。
10年以上にわたりインタビューとリサーチを蓄積し、貴重な古い写真、公式文書、歴史的画像などを入手し、最も完全な個人記録を完成させた「流麻溝十五號:綠島女生分隊及其他」は、 白色テロ時代の女性の非公式の口述史の最も完全で忠実なバージョン。
この原作者曹欽榮さんは、今回の映画化について「オーラルヒストリーを映画化するには一般の映画製作とは別の難しさがあると思った。
若い人たちに台湾の歴史を理解してもらうのはとても難しいし、一番心配したのは資金が集まるかということでした」と、にこやかに語りました。
本作は、姚プロデューサーが女性の心情を描くのは長けていて、ジェンダー問題の作品も多い周美玲監督に依頼してさ作られましたが、「彼女は歴史に関する資料を読み込んでいて、フィールドリサーチもしている。歴史に対して非常に真摯に取り組み、1953年の緑島に閉じ込められた女性分隊の物語を作ってくれた。
色々話し合った中で唯一意見が違ったのは、死刑確定の認可を出す時に<再検査>という言葉が出てくるが、<厳しく再審査>というのは死刑を意味していて、私はそこをくっきりと描きたかったのですが、監督は若干そこをぼかしたことだと思います」ということでした。
台湾の負の歴史を描いた重い映画ではありますが、お二人は終始にこやかに話してくださり、ご覧になった皆さんのアンケートにも「このような重いテーマの映画を作られたのに(笑)それを観た後にとても気さくそうなお二人に安心しました。いつまでもお話を聞いていたかったです」「社会的に意義のある、この様な映画を作る事は、通常の作品よりもご苦労があったんじゃ無いかと思うのですが、お二人共とてもにこやかで、フランクな印象を受けました」「姚プロデューサーと曹先生のお話がとても楽しかったです。映画のストーリーは厳しいもので気力をかなり消費しましたが、お二人のトークに癒されました」など感想が届いています。
また、映画については「様々な思いや信念を持った人達の強さを感じながらも、でもやっぱり権力には太刀打ちできないもどかしさも見事に描かれていたと思います。処刑された方々がいたという歴史ではありますが、淡々とというか、静かにストーリーが進んでいったのは、ゼロ・チョウ監督の手腕だなぁと思う思いました」
「台湾好きとして関心がありつつも、深く知る機会が少ない綠島での白色テロをテーマに、ここまで深く心に訴える内容で映像化するのは本当に素晴らしかったです。涙なしでは観られませんでした」
「厳しく緊張感あるストーリーでしたが、その中でも、対抗する相手も人間として助けるのは当然である、という心を持つことの大切さ、過酷な環境でも自分の信念を失わない強い意志を持つことの大切さがすごく伝わって来ました。」
他、多くの感動が寄せられました。
実は、今回来日されなかった周美玲監督にも、オンラインインタビューを行い、監督ならではのキャストのことなどたくさんお話しを伺いました。
今回は、会場に来られなかった方、権利上の事情で叶いませんでしたが配信を楽しみにしていた全国の方々に見てもらえるように、周美玲監督のインタビューや姚プロデューサーと曹欽榮さんのトークをもとに、スペシャル映像コンテンツ『流麻溝(りゅうまこう)十五号(原題:流麻溝十五號)の世界』を製作し、オンライン配信することにいたしました。
配信は5月中旬を予定していますので、楽しみにお待ちください。
詳細は決まり次第台湾文化センターとアジアンパラダイスのサイト、SNSで発表します。
また、姚プロデューサーと曹欽榮さんのトーク、周美玲監督インタビューのノーカット版音声も、後日Podcastで配信します。
さて、次回は5月20日(土)、台湾で大ヒットした青春ラブコメ『今日も彼の朝ご飯(原題:我吃了那男孩一整年的早餐』を上映します。
会場とオンライン両方で実施しますので、ご都合の良い方でお申し込み下さい。
詳しいことはGW明けに台湾文化センターとアジアンパラダイスでお知らせします。
皆さまのご参加をお待ちしています。
★リンクは有り難いのですが、写真や記事の転載は固くお断りします。
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