今年の金像獎は最高だったなぁ・・・映画ライター杉山亮一さんの2023香港電影金像奨レポート!
【アジアンパラダイスの前説】
4年ぶりに金像奨取材に行った友人で映画ライターの杉山さんが、アジアンパラダイスに寄稿して下さいました。
そして、レッドカーペットや授賞式の写真もたくさん提供していただいたので、その貴重な写真とともに現地の様子をお楽しみください。
※写真はクリックすると別ウィンドウで拡大表示します
【本文】 僕は1990年代から、ずーっと毎年、香港電影金像獎の授賞式に通っています。2019年までに一度だけ金像獎に行けなかったのはSARS真っ只中の2003年(四大天王がレスリーの『當年情』を感動的に合唱したあの年です)だったのですが、その後、コロナ禍の影響で授賞式そのものがなくなったり、入国時の待機期間がボトルネックになったりして、4年間も金像獎とは縁がなくなってしまいました。
そんな状況下、満を持しての(?)今年の金像獎は、個人的な思いもさることながら、香港映画の新しいステージを予見させるような、味わい深いイベントだったと思います。
近年の香港映画は、(主としてベテラン監督たちが)中国大陸に軸足を移して制作する映画と、(主として若手監督たちが)香港で香港人観客のために制作するインディーズ映画に二極分化する傾向がみられたのですが、時が経つにつれ、中国マネーが入りつつも限りなく香港映画っぽい作品や、大物スターが無償参加することでメジャー感が付加されたインディーズ映画が登場し始め、現在ではバラエティに富んだ作品群が市場を形成しています。それはかつての、東洋のハリウッドと称された時代とは異なるものではあるのですが、映画大国香港は、確実にその輝きを取り戻してきています。
今年の金像獎のノミネートと授賞結果には、そんな香港の「いま」が色濃く反映されているような気がしてなりません。
最優秀作品賞の『給十九歳的我』は、残念ながら僕はまだ観ることが出来ていないのですが、多くの香港の友人たちから絶賛の声が届いていますし、絶賛とまではいかない友人もその完成度は認めています。ノースターのドキュメンタリー映画ですが、監督のひとりがあの張婉婷(メイベル・チャン)というのも、いまの香港映画ならではの傾向と言えるのではないでしょうか。
上映中止問題等、スキャンダラスな話題が先行しているのが残念ですが、そんな逆風の中で、あえて同作に最優秀作品賞を贈った金像獎のスタンスを僕は強く支持したいです。そして、1日も早く作品を観たい。映画館のスクリーンで観たい。
最優秀主演女優賞と最優秀主題歌賞をW受賞した鄭秀文(サミー・チェン)は、まさに2023年の香港映画を象徴するような受賞と言っていいでしょう。受賞作の『流水落花』は素晴らしい映画ですが、比較的低予算のインディーズ映画です。サミーのキャリアから考えれば、これまでは決して出演することのなかったタイプの映画でしょう。
同じく最優秀主演女優賞にノミネートされた『消えゆく燈火(燈火闌珊)』の張艾嘉(シルビア・チャン)も同様のパターンですが(彼女は昨年の台湾金馬獎で最優秀主演女優賞を受賞しています)、収入にはある程度目を瞑って香港映画の若き才能を応援したスターたちが、このようなかたちで報われるというのは、なんだかとっても嬉しいです。
もちろん『流水落花』のサミーの演技は最高なので、影后の座につくことは至極当然なのですが。
『神探大戰』の最優秀監督賞と最優秀主演男優賞受賞には疑問符をつける向きもあるようですが、2022年の香港で、かつての香港アクション大作の香りを纏った本作のような映画がさらっと公開されて、それがまた金像獎にノミネートされても不思議ではないクォリティだったことを、僕はまずは喜びたいのです。
韋家輝(ワイ・カーファイ)監督にとって『神探大戰』がベストワークではないという意見も理解はできますが、映画賞の受賞にはタイミングもありますし、「合わせ技一本」的にそれまでのキャリアを俯瞰して賞が贈られることもままあります。
劉青雲(ラウ・チンワン)の主演男優賞も同様でしょう。
加えて、強力な対抗馬であった『正義迴廊』の麥沛東(マク・プイトン)と楊偉倫(ヤン・ワイルン)、その壮絶な演技はある意味でラウチンを超越していたのですが、1本の映画で主演が2人ノミネートされた場合、票が割れて受賞に至らないというのもまた映画賞あるあるですし(実際どうだったのかは未確認なのですが)。
最優秀助演男女優と新人俳優の各賞については、これはもぉ文句なしの結果だと思います。
王菀之(イヴァナ・ウォン)の受賞はここ数年の大活躍を受けてのものという見方も出来るかもしれませんが、その安定してレベルの高い演技力と存在感は圧倒的ですし。
でも、それ以上に最高だったのが『風再起時』の許冠文(マイケル・ホイ)! 評価の分かれる『風再起時』ですが、終盤のホイ先生の英語のスピーチのカッコよさといったら!! 僕らのMr.Boo!がいまだに最高なことを、許冠傑(サミュエル・ホイ)の紅館コンサート追加公演の翌々日に再認識するというのも、今年の金像獎は最高だったなぁ・・・としみじみ思わせてくれるのでした。
杉山亮一(映画ライター)
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