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2023/10/21

台湾映画上映&トーク『童話・世界』タイムリーなテーマに強い関心と高い評価!

Photo_20230926114001 2016年から始まりました台湾文化センターとアジアンパラダイス共催の台湾映画上映&トーク「台湾映画のいま」、今年度最後、第7回は性暴力事件による人間模様を写し出す『童話・世界』を上映しました。最近台湾では政界や芸能界、スポーツ界でもセクハラ被害の告発が続き、MeToo運動が広がっています。
文学や映像コンテンツが性被害事件を可視化したことも、#MeTooへとつながったと言われ、本作もそのひとつと言えるでしょう。
本作は、弁護士出身の唐福睿(タン・フールイ)監督がデビュー作として、現在と17年前の性暴力事件を通してさまざまな人間模様を描き出しました。

世界で、特に日本でも性被害が社会問題になっているいま、この映画への関心が高いことが、アンケート回答に強く反映されています。
本作は現在と17年前という時間軸が交錯する映画ですが、ほとんどの方が迷子になることなく作品の神髄に触れることができたのは、構成の巧みさと監督の演出力、俳優の演技力によるものでしょう。
(以下、アンケート回答からの抜粋)
「最近よく耳にするようになった<グルーミング>という言葉が何度も浮かんだ。劇中で描かれるのは、わかりやすく暴力を使った性被害ではないが、思わず目を背けたくなるようなシーンが何度もある。少女たちが愛していると言いつつも、その表情が本当に苦しそうで、これは人格を深く傷つける許されない暴力だと何度も怒りを感じた」「俳優の演技はもとより、脚本の素晴らしさに魅了された」「重いテーマだったが、考えさせられる良い映画」「複数の性被害を被告側、原告側から視点を変え、法律的観点から描いておりとても興味深かった。ぐいぐい引き込まれていく、とてもいい映画だった」「曖昧なラインが法律で複雑になっていく感じで、観終わった後も心の置き場所が無い感覚」「作り手のエネルギーを感じる作品で良かった」「非常にセンシティブな題材の映画を、重たくなりすぎず、しかもさまざまな視点からまとめ上げた脚本力と演技力に感嘆した。物語の回収をどうするのかと気になっていたのだが、見事なエンディング」「エンタメ性を排除し訥々と誠実に進む人物描写とストーリー展開、ゆえにリアリティを感じる社会派作品。予備校講師のずるさに腹が立ち、後から李康生が上手かったんだなあと我に返った」「キャスティングも演技ではなく本人、の様に感じるほどに素晴らしかった」「重たいテーマの作品だが俳優陣の見事な演技に引き込まれ夢中で見た。素晴らしい作品!」「今年見た映画で一番見ごたえのある作品」「被害者役二人の心の機微の表現力、加害者役の見事なまでの洗脳する演技、気づくと劇中に引き込まれていた」

1021event また、アタートークで本編解説は作品を理解するのにやくだったようで、金馬奨ノミネートについて、日本と台湾の映画祭上映作品の最新情報をは、タイムリーだと喜んでいただけました。
(以下、アンケート回答からの抜粋)
「作品を深く理解するのに、解説がいつもとても助かる」「映画の背景や役者のバックグランドなどとても分かりやすい」「解説と監督からのメッセージは作品理解に助かる」「監督のコメントも含め、出演者の方々のバックグラウンドの紹介に、より理解が深まった」「作品の背景や現在の台湾映画事情がわかり、とても面白かった」「台湾映画の近況がよくわかり、今後の台湾映画にも期待しつつ、これからもいろいろ観たいと思った」「毎回最新情報がありがたく、いろいろな作品を見てみたいと思う」「東京国際映画祭への流れとしても今日このイベントがあるのはテンション上がる」「金馬奨がより楽しみになった」

※写真はクリックすると別ウィンドウで拡大表示します

10211 台湾でのMeToo運動は、各界で多くの波紋が広がりました。
芸能界でも次々と芸能人の名前が上がり、告発された人の謝罪が絶えません。
アジアでトップのジェンダー平等を実現しているといわれる台湾でも、これまでに性暴力に関する告発や事件は起こっており、2人の有名映画監督がスタッフへのレイプで実刑判決を受けました。
2004年にジェンダーに関する法律が施行され、政府には国内のジェンダー平等に関する現状調査や立法に提言をする機関も設置されている台湾なのに、なぜこういう問題が次々起こるのか。
それを、この映画の唐福睿(タン・フーレイ)監督は「権力」の存在だと言っています。

10212 唐福睿監督が弁護士として5年働いた後、映画を学ぶためにアメリカへ留学している2017年、台湾で女性作家が権力による性暴力を受け、その告白を小説にして発表した後自殺した事件がありました。
そして同じ頃にアメリカでMetoo運動が盛んになり、様々な議論が起こりました。
監督は色々リサーチしたところ、多くの議論の中に法律の観点で深く切り込んでいるものがなかなかないということに気づいたそうです。
何故なら、権力により強要する性関係を法律で裁くには限界があるのだそうです。
そこで、法律の世界にいる人間として、ご自身でも教師と生徒による同様の案件を扱ったこともあり、社会で起きているこういった事件を法律の観点から描こうと思い、脚本を書き始めました。

10213 この脚本は、2018年に台北市電影委員会が主催する脚本コンペ「拍台北」で銀賞を受賞、友人に紹介でされた製作会社と映画化に向けて進みました。
監督は権力を使った性暴力において、その権力をどう描くかが難しいと言い、見えない権力を、登場人物の会話や行動で見せるのに苦労したそうです。
そして、その人によって犯罪か愛か?という微妙なところを追求することをテーマにして製作に臨んだということです。
完成した作品は昨年の台北電影節のクロージングフィルムとして上映され、作品賞をはじめ6部門にノミネート、10月7日に台湾で一般公開されました。

10214 この映画は悪を暴き、裁くというだけではなく、その人によって犯罪か愛か線引きが難しいという側面も見せています。そのために、これまで多く描かれてきた被害者からの目線ではなく、法律の専門家という第三者の目から描くことにこだわったそうです。
本作では、主役の弁護士が同じ人物による事件を加害者側と被害者側の立場で2度関わります。違う環境から法律の専門家が第三者の目で、法律の切り口で描くことで、これまでの他の作品との差別化ができたと言っていました。
そして、その弁護士も成長に伴う苦悩や第三者でいるための自身の葛藤などが描かれ、この映画が単なる法律劇ではなく、優れたヒューマンドラマとしても成功していると思います。

10215 さて、その主人公の弁護士を演じたのが、いま台湾を代表する俳優のひとり張孝全(チャン・シャオチュアン)。
『花蓮の夏(原題:盛夏光年)』で注目され、『GF*BF(原題:女朋友。男朋友)』で台北電影奨の主演男優賞を受賞、『失魂』、『あなたを、思う。(原題:念念)』ほか多くの映画やドラマに主演、最近ではNetflixのドラマ『次の被害者(原題:誰是被害者)』で釜山映画祭の主演男優賞を獲得しました。
昨年から今年にかけては、本作と『罪のあと(原題:罪後真相)』という犯罪ミステリー映画で台北電影奨や金馬奨、台湾映画批評家協会賞で主演男優賞にノミネートされました。

10216 監督は、脚本執筆の時からこの役は張孝全をイメージしていたそうです。
彼は演技経験も豊富な素晴らしい俳優で、アート系の作品からジャンル映画まで幅広く演じることができる。この役は自分の中で矛盾や葛藤を抱える難しい役で、かなり演技力が必要になるため、張孝全がふさわしいと思ったそうです。
また、実際に会ってみると彼はどちらかというと寡黙なタイプで、この主人公の内向的な部分と本質的に近いものがあることで、キャスティングが決定しました。

10217 張孝全にとって弁護士の役は初挑戦になりますので、弁護士である監督がで法律家の基本をはじめ色々説明したそうです。
通常こういう映画では法律顧問が必要になるのですが、今回は監督が法律家なのでそれを兼務できました。
弁護士が、案件によって被害者を弁護したり加害者を弁護するというのはなかなか普通の人には理解できないでしょうが、必要だからこそこういう制度があるのだそうです。
ですから、そのことやセリフの中にたくさん出てくる条文や法律用語についても、ただ暗記するだけでは伝わらないだろうから、細かくレクチャーしたそうです。それにより、張孝全は弁護士としての思考を持って演じることができたと思う、と監督が言っていました。

10218 そして加害者として告発される学習塾の人気講師役は、蔡明亮(ツァイ・ミンリャン)監督作品でお馴染みの李康生(リー・カンシェン)が演じました。
ご存知の方も多いと思いますが、李康生は蔡明亮監督にスカウトされ、1992年の『青春神話(原題:青少年哪吒)』でスクリーンデビューしました。
その後数々の蔡明亮監督作品に主演し、2013年に『ピクニック(原題:郊遊)』で金馬奨の主演男優賞を受賞。
ほかにも林正盛(リン・ジェンシェン)、許鞍華(アン・ホイ)、王童(ワン・トン)という名監督をはじめ、気鋭の若手監督の作品に次々出演しています。
また、監督としても『迷子(原題:不見)』など3作を手がけています。

10219 監督は、李康生は特別な魅力を持った俳優で、実際に会うとユーモアに溢れ感情豊かな人だと言っています。
顔もスタイルも良い、女性がひと目ぼれするようなタイプではありませんが、一緒にいると惹きつけられてしまう魅力がある、と。
今回のこの役は、授業を受けていると生徒がその知識、知見、経験に親しみと尊敬、魅力を感じる講師なので、彼をオファーしたそうです。
そして、監督の期待を上回る演技を見せてくれたということです。

102110 具体的には、陳心(チェン・シン)という関係を持った生徒が、自分以外にも関係している生徒が居るのでは、と問い詰めるシーン。李康生演じる湯先生は彼女に好意を持っているけれど、同時に危険な存在だと思っていて、一度遠ざけようとします。しかしその後にレイプするというとても深い、難しい心の動き、矛盾や複雑さをとてもうまく表現していたということです。
その他にも、張孝全演じる弁護士と対立するときに、彼も好意を抱いていた女生徒陳心を法廷に呼んで動揺させるなど、狡猾な演技も印象的でしたね。

102111 この映画のキーになる役と言って良い陳新は、江宜蓉(ジャン・イーロン)が演じています。
江宜蓉は王小棣(ワン・シャオディ)はじめ8人の有名監督が若手俳優育成のために立ち上げたプロジェクト、Q Placeの出身で、ヒットドラマ『お花畑から来た少年(原題:花甲男孩轉大人)』や『華燈初上 -夜を生きる女たちー(原題:華燈初上)』などに出演、Netflixで配信中の『模倣犯』ではヒロインを務めました。
映画は本作が5作目で初ヒロイン、昨年の台北電影獎では主演女優賞にノミネートされました。

102112 江宜蓉はオーデイションの時のパフォーマンスが素晴らしく、この役は真っ直ぐな気持ちで欲しいものを求めるという聡明で誠実な女子生徒なので、彼女ならしっかりとそれを表現できると監督は確信したそうです。
ただ、この役は講師から暴力ではなく対等ではない立場で強要されて関係を持つので、何が起きたのかわからないとという困惑の表現など難しい演技が必要です。それを見事に応えた江宜蓉、やはりQ Placeでの訓練が大きく影響していたのでしょう。

102113 17年後の事件の少女を演じた王渝屏(ワン・ユービン)は、『ガッデム阿修羅(原題:該死的阿修羅)』で一躍注目された王渝萱(ワン・ユーシュアン)の妹で、2018年にドラマデビューしました。
2020年のスクリーンデビューから、本作が3作目の映画になります。
10月21日に発表されるテレビアワード金鐘獎のドラマ部門で、助演女優賞にノミネートされています。
監督は、キャスティングの大きなポイントとして、とても神秘的な魅力がある、と言っていました。

102114 王渝屏が演じる今回の役はセリフが少なく、何を考えているのかを表情や動きだけで見せなければならないことが多くなっています。
それが、彼女の神秘的なところとマッチしており、さらに彼女の演技には大きな爆発力があると監督が言います。
この役はあまり自分の気持ちを語らないのですが、最後に「和解したい。先生が好き」と周囲を驚かせる真情を吐露します。
彼女はその表現でも、見事に監督の期待に応えました。

102115 主人公の上司で、有能な弁護士を演じた尹馨(イン・シン)は、美人でキャリアのある俳優です。
2001年にドラマデビューして幅広い役をこなし、映画では『光にふれる(原題:逆光飛翔)』、東京フィルメックスで上映された『幸福城市』、東京国際映画祭で上映されNetflixで配信中の『ひとつの太陽(原題:陽光普照)』はじめ多くの作品で活躍中。
2014年にテレビアワード金鐘獎で『回家的女人』により主演女優賞、大阪アジアン映画祭で上映された2017年の『川流之島』の演技で台北電影獎と金鐘獎で主演女優賞を獲得。昨年の台北電影獎では本作で助演女優賞にノミネートされました。

102116 この役は自分の魅力を余すことなく仕事で活用し、深みがあり、気品溢れる有能な法律家です。
主人公から見ても憧れと同時に恐れも感じます。
監督は、こういう役を演じられるのは尹馨がベストだということで決めたそうです。
この役は、17年という時の流れで大きな変化を遂げます。かつては勢いがあり顧客のリクエストにしっかり応える弁護士で、17年後は自分が主導権を握る強さを持ちます。この変化により、観客は17年という時間を辿っていくことができる重要な役どころです。
尹馨はその役割をきちんと果たし、説得力ある演技を見せてくれたと、監督は大いに満足しています。

102117 主人公の弁護士の妻で、ソーシャルワーカー役の夏于喬(シア・ユーチャオ)は、2001年にアイドルドラマでデビューして、ファミリードラマや文芸作品へと役の幅を広げました。スクリーンデビューは2004年ですが、彼女の名を一気に上げたのは、日本でも公開された映画『祝宴!シェフ(原題:總舖師)』。
その後ヒットホラー映画『呪いのちまき(原題:粽邪)』シリーズや『アメリカンガール(原題:美國女孩)』など着実にステップアップしています。
2019年に林書宇(トム・リン)監督と結婚し、最近は脚本家にも挑戦しています。

102118 監督は、夏于喬がこの役柄にとても近いものを持っていると感じて、キャスティングしたそうです。
ソーシャルワーカーは理解力が高く、原則に基づいた優しさを持っていなければなりません。様々な制度の中で弱者を守る行動力も必要です。
この映画では最初は被害者が裁判で勝てるように応援しますが、被害者が和解を希望していることがわかると、それに寄り添い和解の道へ進めようと弁護士である夫も説得するという大事なところをしっかりと演じた、と監督が賞賛していました。

102119 ご紹介した様々なキャラクターが織りなす『童話・世界』は、加害者の講師が童話を使って生徒を巧みに誘惑したり、その生徒を利用して弁護士に心理的揺さぶりをかけ、裁判を自分に有利に動かせるようにしたりします。
しかし最後には自分の側近がその良心から提出した証拠により、罪に問われることになります。
そして、主役の弁護士は講師を葬るために、自分のキャリアを捨てるという決断をもって人生をリスタート。
誰も無傷ではいられないつらい物語ですが、ここに監督のこめた思いが凝縮されています。

102120 ここからは、先日発表になった金馬奨のノミネート作品とノミネート者についてお伝えします。
今年は552作のエントリーから各部門の候補作を絞り、発表されました。
エントリーの内訳は、劇映画78作、アニメーション2作、ドキュメンタリー58作、短編劇映画280作、短編ドキュメンタリー76作、短編アニメーション58作。
記者会見では前半を金馬執行長の聞天祥(イエン・テンシャン)が、後半は俳優の黃秋生(アンソニー・ウォン)がノミネートを発表しました。
最多ノミネートは、金馬影展オープニング作品『五月雪』で9部門、続いて日本でも先日公開された『僕と幽霊が家族になった件(原題:關於我和鬼變成家人的那件事)』と台北電影奨で大勝利しNetflixで配信中の『エピデミック(原題:疫起)』が8部門となっています。

102121 まずは劇映画の作品賞をご紹介します。
最多ノミネートとなった『五月雪』は、マレーシアで起きた暴動「513事件」を背景に、二世代にわたる女性たちの半世紀近くにわたる物語。
『僕と幽霊が家族になった件(原題:關於我和鬼變成家人的那件事)』は日本でも公開されましたので、ご覧になった方もいらっしゃると思いますが、幽霊と結婚させられた刑事が、事件を解決していく物語。ユーモアとペーソスで大ヒットしました。
香港の『年少日記』は、少年の心模様を描いた社会派映画。
『エピデミック(原題:疫起)』は、2003年のSARS渦における病院閉鎖事件をもとに人間の葛藤を描いた作品です。
『石門』は昨年の東京フィルメックスで上映された作品で、中国で活躍する日本人監督大塚竜治と中国の黃驥(ホアン・ジー)の共同監督作品です。

『石門』(日本)
『關於我和鬼變成家人的那件事(僕と幽霊が家族になった件)』(台湾)
『年少日記』(香港)
『エピデミック(原題:疫起)』(台湾)
『五月雪』(台湾)

102123 監督賞は台湾、中国、マレーシア、香港、日本と国際色豊かな顔ぶれです。
『僕と幽霊が家族になった件(原題:關於我和鬼變成家人的那件事)』の程偉豪(チェン・ウェイハオ)監督は、『紅い服の少女』をはじめ台湾のヒットメーカー。
『五月雪』の張吉安(チャン・ジーアン)監督はマレーシアの方で、2020年に金馬奨の新人監督賞を受賞していて本作が2作目です。
『老狐狸(Old Fox)』の蕭雅全(シャオ・ヤーチュエン)監督は『台北カフェストーリー』で知られていますが、今回は5年ぶりの新作。
『周處除三害(The Pig, the Snake and the Pigeon)』、周処は三つの害を排除するという中国の故事がタイトルになった作品の黃精甫(ウォン・ジンポ)監督は、香港でアクション映画で活躍、本作で初めて台湾作品を手がけました。
『石門』の黃驥(ホアン・ジー)監督は中国の方で、中国で映画を撮り続ける日本人の大塚龍治監督とこれが3作目の共同監督作品になります。

黃 驥(ホアン・ジー)大塚龍治『石門』
程偉豪(チェン・ウェイハオ)『僕と幽霊が家族になった件(原題:關於我和鬼變成家人的那件事)』
蕭雅全(シャオ・ヤーチュエン)『Old Fox(原題:老狐狸)』
張吉安(チャン・ジーアン)『五月雪』
黃精甫(ウォン・ジンポ)『周處除三害』

102124 主演男優賞は台湾の俳優が5人並びました。
『僕と幽霊が家族になった件(原題:關於我和鬼變成家人的那件事)』で許光漢(グレッグ・ハン)と林柏宏(リン・ボーホン)がダブルノミネート。
アイドル的人気の許光漢の名前が発表されたときは、会場のファンから大歓声が上がりました。
林柏宏は、金馬奨では助演男優賞の受賞歴がある若き演技派です。
『富都青年(Abang Adik)』はマレーシア作品ですが、ノミネートされたのは台湾の吳慷仁(ウー・カンレン)。金鐘奨や台北電影奨では主演男優賞を獲得していますが、金馬奨は初ノミニーです。
『九月に降る風』のデビューから15年、『疫起(エピデミック)』の王柏傑(ワン・ボージエ)は台北電影奨で主演男優賞を受賞しており、二冠なるか?というところですね。
アイドルドラマ時代から映画『モンガに散る(原題:艋舺)』などで活躍していた阮經天(イーサン・ルアン)は、ここ10年ほど中国で活動していましたが、久々に台湾に戻ってきて初のノミネート。

102125 主演女優賞候補は、年齢も国籍も様々です。
『菠蘿,鳳梨』の胡伶(フー・リン)は中国の俳優で、婁燁(ロウ・イエ)監督の『天安門、恋人たち(原題:頤和園)』に出ていました。
『小曉』の林品彤(オードリー・リン)は、阮鳳儀(ルアン・フォンイー)監督の『アメリカンガール(原題:美國女孩)』の次女役で出演していて、まだ12才です。
台湾のベテラン陸小芬(ルー・シャオフェン)は、20年ぶりに出演した『本日公休』で、台北電影獎の主演女優賞に輝いています。
香港の鍾雪瑩(チュン・セッイン)は、『狂舞派3』や『アニタ(原題:梅艷芳)』などの出演作があり、『填詞撚(The Lyricist Wannabe)』で描かれているように、作詞家でもあります。
同じく香港作品『白日之下(白日の下)』の余香凝(ジェニファー・ユー)は、大阪アジアン映画祭で上映された『姉妹関係(原題:骨妹)』や『縁路はるばる(原題:緣路山旮旯)』はじめ多くの映画に出ている旬の俳優です。

102126 助演男優賞は、台湾からは『本日公休』の傅孟柏(フー・モンボー)と陳慕義(アキオ・チェン)。
傅孟柏(フー・モンボー)は金馬奨では2018年に新人賞にノミネート経験があり、『本日公休』では台北電影獎に続き助演男優賞を受賞できるか、気になります。
もうひとりはベテラン陳慕義(アキオ・チェン)、数々の映画やドラマに出ていますので、顔を見ればあ、あの人!とわかる方も多いと思います。『老狐狸(Old Fox)』で2度目の金馬奨ノミネートになります。
『富都青年(Abang Adik)』の陳澤耀(ジャック・タン)は、マレーシアの人気ボーカルデュオのひとりで、俳優としてもマレーシアや台湾で活躍しています。
香港の歌手・俳優として知られる林保怡(ボウイ・ラム)は、大きな映画賞では『白日之下(白日の下)』が初ノミネート。
同じ香港の黃梓樂(シーン・ウォン)はまだ10才の香港の子役ですが、映画はこの『年少日記』が7作目というキャリアがあります。

102127 助演女優賞は、台湾勢が4人、香港がひとりで、全員金馬奨では初ノミネートです。
『老狐狸(Old Fox)』の劉奕兒(ユージェニー・リウ)は、日本でも公開された映画デビュー作『怪怪怪怪物!(原題:報告老師!怪怪怪怪物!)』の主演からコンスタントに映画やドラマに出演しています。
『小曉(Trouble Girl)』の陳意涵(チェン・イーハン)は、アイドルドラマを経て台湾や中国で多くの映画に出演し、『聽說』で台北電影奨の主演女優賞を獲得。
歌手として俳優として活躍を続けるベテランの萬芳(ワン・ファン)は、テレビアワードの金鐘獎では受賞歴がありますが、映画は今回の『五月雪』が初ノミネート。
ドラマ出演が多かった方志友(ファン・ズーヨウ)は、2011年から映画にも進出し、『本日公休』は6作目になります。
唯一の香港からノミネートされた『白日の下(原題:白日之下)』の梁雍婷(レイチェル・リャン)は、2018年に主役でスクリーンデビューして以来順調にキャリアを重ね、5年ですでに13作に出演。

102128 続いて新人賞です。
『ミス・シャンプー(原題:請問,還有哪裡需要加強)』の洪瑜鴻(ダニエル・ホン)は、台湾の人気ヒップホップグループ玖壹壹(Nine One One)のリーダーで別名洪春風(ホン・チュンフォン)。グループとしても単独でも映画出演していますが、今回は初の主役です。
釜山国際映画祭に出品した『少男少女』の胡語恆(トラヴィス・フー)は、これが映画初出演のまさに新人です。
マレーシア映画『富都青年(Abang Adik)』の鄧金煌(タン・キンワン)と、香港映画『離れていても(原題:但願人長久)』の謝咏欣(ツェ・ウィンヤン)については、情報がないのでご紹介は割愛させていただきます。
そして、本命の呼び声高い葉曉霏(イェ・シャオフェイ)は、王小棣(ワン・シャオディ)はじめ8人の有名監督が創設した新人育成プロジェクトQ Placeの第一期生で、『青春の反抗(原題:青春並不溫柔)』が映画初主役となります。

102129 新人監督賞は、国際色豊かな顔ぶれです。
画家でもあるマレーシアの阿爛(アラン)監督は、この『這個女人』がデビュー作。
同じくマレーシアの王禮霖(ジン・オン)監督は、プロデューサーとしてこれまで6作の映画を製作していて、『富都青年(Abang Adik)』が初監督作品です。
『大山來了』の孫杰(スン・ジエ)監督は中国の方。
香港のの卓亦謙(ニック・チェク)監督はもともと脚本家で、『年少日記』が初めての監督作品。脚本家としては林超賢(ダンテ・ラム)監督の『激戰ハート・オブ・ファイト(原題:激戦)』や葉偉信(ウィルソン・イップ)監督の『SPL 狼たちの処刑台(原題:殺破狼·貪狼)』を手がけています。
そして台湾の李鴻其(リー・ホンチー)監督。『酔生夢死(原題:酔・生夢死)』で俳優デビューし、初監督作品『愛は銃(原題:愛是一把槍)』は、ベネチア国際映画祭でルイジ・デ・ラウレンティス賞(新人監督賞)を受賞しました。
高校生の頃から映画フリークで、もともと監督を目指していたので、今回はその夢を果たしたと言うことになりますね。

阿爛(アラン)『這個女人』
王禮霖(ジン・オン)『富都青年』
卓亦謙(ニック・チェク)『年少日記』
李鴻其(リー・ホンチー)『愛是一把槍(愛は銃)』
孫 杰(スン・ジエ)『大山來了』

102130 この他注目したいのは、ドキュメンタリー映画賞。
ご覧のように、なんと5作全て有名な監督の作品なのです。
香港の許鞍華(アン・ホイ)監督、マレーシア出身の台湾をベースに活躍する蔡明亮(ツァイ・ミンリャン)監督、台湾の林正盛(リン・チェンシェン)監督、ミャンマー出身で台湾で活躍する趙德胤(ミディ・ジー)監督、王兵(ワン・ビン)は中国の監督ですが、今回ノミネートされた『青春(春)』は、台湾の製作です。
台湾でも優秀なドキュメンタリー作家がたくさんいて、毎年新しい才能の誕生を楽しみにしていますが、この大監督たちと同じ土俵で競うのはたいへんだったことでしょう。

『詩』監督:許鞍華(アン・ホイ)
『何處』監督:蔡明亮(ツァイ・ミンリャン)
『撼山河 撼向世界』監督:林正盛(リン・チェンシェン)
『診所』監督:趙德胤(ミディ・ジー)
『青春(春)』監督:王兵(ワン・ビン)

102131 ノミネートされた作品は、11月9日から台北で開幕する金馬影展で上映されます。
10月28日にチケットが発売されますが、今年もまた激戦が予想されます。
そして60回という節目を迎える金馬奨、今年の審査委員長は李安(アン・リー)監督が務めると発表されました。
審査の過程は三段階で、第一次、第二次と多くの映画人や学識者により審査され、最終審査に進みます。
そして、11月25日に発表授賞式が国父記念館で行われます。
その結果は、アジアンパラダイスに掲載します。

102132 では、最新情報をお伝えします。
金馬影展のオープニング作品『車頂上的玄天上帝(Be With Me)』が、11月17日から台湾で一般公開になります。
金馬奨で『フラワーズ・オブ・シャンハイ(原題:海上花)』が美術デザイン賞、『黒衣の刺客(原題:刺客 聶隱娘)』でメイク&コスチュームデザイン奨を受賞している美術監督の黃文英(ホアン・ウェンイン)が初めてメガホンをとった作品で、侯孝賢(ホウ・シャオシェン)がエグゼクティブ・プロデューサー。
恋愛、仕事、家族の問題を抱えた女性が、重病の父親を看病するために故郷に戻り、幼い頃を思い出し人生を見つめ直す物語。このヒロインを林依晨(アリエル・リン)が演じ、周渝民(ヴィック・チョウ)、阮經天(イーサン・ルアン)、張孝全(チャン・シャオチュアン)という3大スターを相手に火花を散らします。

102133 日本では、10月23日から東京国際映画祭が開催になります。
今年は台湾映画が5作、上映されます。
ワールド・フォーカスに、ヴェネチア国際 映画祭で李鴻其(リー・ホンチー)が新人監督賞を受賞した『愛は銃(原題:愛是一把槍)』、藍正龍(ラン・ジェンロン)監督第二作の青春映画『成功補習班』、九把刀(ギデンズ・コー)監督の最新作『ミス・シャンプー(原題:請問,還有哪裡需要加強)』、蕭雅全(シャオ・ヤーチュエン)監督5年ぶりの『Old Fox(原題:老狐狸)』、新人監督蘇奕瑄(スー・イーシュエン)の『青春の反抗』(原題:青春並不溫柔)』。
ゲストも多数来日予定ですので楽しみですね。

このアフタートーク映像を公開しました。
https://v.classtream.jp/tw-movie/#/player?akey=b443576b81293d1a760eafbc3e2e9b06

また、今回唐福睿(タン・フーレイ)監督のインタビューは10月23日にPodcast配信しますので、ご期待下さい。

102134 これにて今年度の上映は終わりました。
この上映&トークを通して、少しでも多くの方に台湾映画の魅力を感じていただければ幸いです。
本日のご参加、そして今年もありがとうございました。

★リンクは有り難いのですが、写真や記事の転載は固くお断りします。

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