2023台北取材Day4〜魏徳聖(ウェイ・ダーシェン)監督に聞く新作『BIG』と監督の原動力
監督にお会いするのは何年ぶりになるのか…それも忘れるほど長い時間が経っています。
でも、相変わらずにこやかに迎えてくれた監督は、大きな試練を感じさせないほど活力に満ちたご様子。
いつも思うのですが、本当にどこからこのパワーが出てくるのでしょう。
そしていつものように作品のグッズであるTシャツをお召しになり、オフィスの応接スペースの壁には『BIG』のアートワークがびっしり貼られていました。
まず、インタビューの内容の前に、アジアンパラダイスで記事になっていない『台湾三部曲』のその後の経過をお伝えします。
2021年8月に製作中断の延長を発表した後、2022年8月、やむなく実写からアニメーション映画に方向転換しました。
そして同年9月15日から10月30日まで高雄電影節とコラボして、特別展「映画『台湾三部曲』への未完の道」が開催。ここには映画の準備に関連したアートや製作のプロセス 小道具、衣装、監督の絵コンテや原稿などが展示され、監督の足跡をたどり、「台湾三部曲」の見果てぬ夢を垣間見ることができるものでした。
現在アニメーション版『台湾三部曲』が製作中で、実写でオファーしていた俳優たちはじめ監督作品に縁の深い人たちが声優として参加。
公開は2025年を予定しているそうです。
さて、今回の本題である新作映画『BIG』は、20年ほど前に監督が受けたテレビの仕事で、小児がんを経験した女子大生の取材からインスピレーションを得たものです。
監督の映画作りは発想から製作の時間軸が複雑で、必ずしも公開順とリンクしていません。
『BIG』の誕生は計画的ではなく、何気ない流れで誕生したという意味で『海角七号』とよく似ている、と監督は言います。
もともと『セデック・バレ』を撮りたくて5分のプロモーション映像を作り資金集めをしたのですがなかなかうまくいかず、一旦断念して『海角七号』を作ることになりました。
ご存知のようにこれが大ヒットして、『セデック・バレ』の製作が実現に向かいます。
『BIG』も『台湾三部曲』を作りたくて試行錯誤しましたが、コロナの影響で実写版を断念せざるを得なくなり、アニメーションにしたことで監督自身が動くことが少ないため『BIG』を作ることにしたということです。
実はかなり前に『BIG』の脚本化を進めていたもののしばらくそのままになっていて、『台湾三部曲』のアニメ製作チームが軌道にのった一昨年、もう一度『BIG』に向き合い、脚本を書き直し始めることになりました。
小児がんと向き合う7人の子供とその親たち、医師、看護師の人間模様を描いたこの作品、生と死というシリアスなテーマでありながら、監督ならではの暖かい眼差しとユーモアを盛り込んだ展開はさすがです。
監督が20年前に女子大生にインタビューした時、彼女は笑顔で、自分が抱えている深刻な問題に対しても積極的に解決していこうという前向きな姿勢だったのがとても印象的だったそうです。
そんな彼女に対しておとなの私たちが悲しい気持ちで向き合っても意味がないのではないかと思った監督は、病院を小学校ととらえて、病室は学校の中のひとつのクラス。もちろん子ども達は病気を抱えて毎日治療をしなければならないのだけど、それ以外の過ごし方は学校と同じように表現したかったと言っていました。
そして、子ども達の出会いや別れ、愛、友情などがひとつの病室で繰り広げられる小さな世界と、アニメを使った大草原での闘いをシンクロさせた世界観のアイデアについてもお聞きしました。
がんの闘病に関しては、リアルに手術をする過程を描くことが一般的だと思うが、それだとビジュアルだけでなく恐いと言う気持ちも生まれ、辛くなる。
頑張れと言われてもどうやって頑張るんだ。子ども達はそこに横たわって治療を受けるしかない。でも心の中では頑張っている。その頑張りをどう表現するのが良いかを考えたとき、ちょうど『台湾三部曲』を実写からアニメにしたこともあり、この手法がある、と思い、がんとの闘いの表現をアニメにしたそうです。
冒頭にも書きましたが、監督のどんな困難にも諦めない前向きな心、この強さの原動力は何か。
監督はこう答えてくれました。
「生んでしまった子供は、最後まで責任もって成長させなければならない。怪我をしても挫折しても、最後まで見届けなければならないという概念です。
多くの人たちが私はとても勇敢に最後までやり遂げていると言うのですが、私としてはそんな美しいものではなく、抱えきれないから最後まで走り抜くだけなのです。(笑い)」
このほかキャスティングについて、子ども達の演技指導、観客の反応などたっぷりお聞きしたインタビューは、後日Podcast配信します。
どうぞお楽しみに!
『BIG』
監督・脚本:魏徳聖(ウェイ・ダーシェン)
出演:范逸臣(ファン・イーチェン)、田中千絵、馬志翔(マー・ジーシアン)、鄭人碩(チェン・レンシュオ)、曾沛慈(ツェン・ペイズー)、曾珮瑜(ツェン・ペイユー)、黃鐙輝(ホアン・ダンフイ)、周厚安(チョウ・ホウアン)、夏宇童(シア・ユートン)ほか
台湾で公開中
公式サイト(中国語):https://big816.taiwantrilogy.com/
※『BIG』に関するこれまでの記事
2023/12/11
2023台北取材Day3〜話題の『五月雪』と魏徳聖(ウェイ・ダーシェン)監督の新作『BIG』
http://www.asianparadise.net/2023/12/post-54b1e8.html
2023/07/12
【台湾】魏徳聖(ウェイ・ダーシェン)監督の新作映画『BIG』台湾で12月1日公開!
http://www.asianparadise.net/2023/07/post-8789ee.html
※『臺灣三部曲』に関するこれまでの記事
2021/08/24
魏徳聖(ウェイ・ダーシェン)監督の台湾映画『臺灣三部曲』製作中断の延長を発表
http://www.asianparadise.net/2021/08/post-9597bb.html
2020/09/04
魏徳聖(ウェイ・ダーシェン)監督の壮大すぎる映画『臺灣三部曲』製作プロジェクト正式に始動!
http://www.asianparadise.net/2020/09/post-336c3b.html
2020/08/06
魏徳聖(ウェイ・ダーシェン)監督の壮大すぎる新作『臺灣三部曲』クラウドファンディング開始、PR動画第一弾解禁!
http://www.asianparadise.net/2020/08/post-07ece2.html
2019/11/02
魏徳聖(ウェイ・ダーシェン)監督の壮大すぎるプロジェクト「臺灣三部曲歷史文化園區」臺南市政府との契約記者会見!
http://www.asianparadise.net/2019/11/post-ea2f2e.html
2018/08/08
魏徳聖(ウェイ・ダーシェン)監督の壮大すぎる新作『臺灣三部曲』始動記念、日本初インタビュー in 台北!
http://www.asianparadise.net/2018/08/in-ca01.html
★リンクは有り難いのですが、写真や記事の転載は固くお断りします。
| 固定リンク
コメント