2023台北取材Day2〜『富都青年』吳慷仁(ウー・カンレン)の演技はとにかく凄い!
今、台湾で一般公開が始まりすでに2500万元を超えるヒット中の『富都青年』、マレーシア映画として史上初の好成績をあげています。
これも、吳慷仁が金馬奨で主演男優賞を獲得したことが大きく影響しているようです。
この映画は、金馬影展と同時期に沖縄で開催された新しい国際映画祭「Cinema at Sea 沖縄環太平洋国際フィルムフェスティバル」でも『アバンとアディ』というタイトルで上映され、こちらでも吳慷仁が主演男優賞に選ばれました。
この映画はマレーシアのプドゥという街を舞台に、多民族国家マレーシアの社会問題を描いた作品です。
マレーシア生まれながら身分証明書を持っていないアバンとアディの兄弟、安定した暮らしを求め、聴覚障害者の兄アバンはで市場で地道に下働きを、一方の弟のアディは違法な仕事に手を染めています。
ふたりを気遣う社会福祉士が彼らの身分証明書を取得する手助けに全力を尽しますが、ある事件が起こり、事態は思わぬ方向へ。
この映画の中で聴覚障害を持つ兄アバンを演じた吳慷仁は、補聴器を使って聞くことはできるものの喋れないという役のため、台詞はなく表情と動作だけで表現しています。
もともと体重の増減をはじめストイックに役作りをする吳慷仁ですから、今回のハンディを持つ下層労働者役も入魂の演技でとてもリアル。
特に、刑務所で全身を使って社会に対する憤懣と生きていく辛さを訴える演技は素晴らしく、誰もが心を大きく揺さぶられます。
実は最初この役は投資家たちが別の俳優を推していたのですが、プロデューサーである李心潔(リー・シンジエ)がプッシュしたと、台湾の報道で伝えられています。
金馬のトロフィーを受け取った吳慷仁が、スピーチで李心潔に謝意を述べていた理由がよくわかりました。
もちろん他の俳優も素晴らしく、弟役の陳澤耀(ジャック・タン)は助演男優男優賞に、兄弟と大きく関わるトランスジェンダーを演じた鄧金煌(タン・キンワン)が新人賞にノミネートされています。
そして、これまでプロデューサーとして多くのマレーシア映画を製作してきた王禮霖(ジン・オン)も、本作で初メガホンを取り、新人監督賞の候補に入っていました。
日本での一般公開が実現すると良いですね。
許鞍華(アン・ホイ)監督の『詩』は、香港の詩人たちを追ったドキュメンタリーで、今年の香港國際電影節のオープニング作品でした。
3部構成の本作では、懐源、殷江、鄧阿蘭、馬若、黄滄蘭、廖偉棠はじめ監督が多くの友人の詩人にインタビュー。
大学で文学を学び詩を専攻した監督は、この映画は詩だけでなく、人生と抵抗、香港の精神的な未来について考えるものでもあると語っています。
監督が香港の詩人の旧友を何人も訪ねて文学や香港について語り合い、その中でも黄滄蘭と劉維棠は故郷を離れ、詩を書くためにひっそり隠遁生活を送っている様子や、家族を台北に移した人など様々な境遇の詩人の姿。
日本ではあまり伝えられなくなった香港の現状をこういう視点から見せられ、あらためて考えさせらることの多い作品でした。
中国の阿爛(アラン)監督の『這個女人』も、なかなか興味深いドキュメンタリー。
「私は一般的な主婦です」という自己紹介から始まる主人公の女性は、ビジュアルは普通ですが、その生き方はとても一般的と思えません。
コロナ禍の北京で失業した主人公は小学生の娘と自分の母と暮らし、しょっちゅう娘を母に預けて地方で恋人と過ごしています。しかも、一緒に店を経営している人や、湖畔で別れ話をする人など、一人でなく何人も。
彼らとの出会いや別れ、ベッドシーンまで見せられ、「一般的な主婦」というのは反語であることがわかってくる展開。
監督はこれがデビュー作で、香港国際電影節で上映、スイスのニヨン国際ドキュメンタリー映画祭で特別賞を受賞、中国のFIRST青年電影展でFirst Frame年度作品、金馬奨では新人監督賞にノミネートされました。
授賞式では主演した李害害(リー・ハイハイ)もレッドカーペットに参加して、写真撮りながら"この人は女優?"と、とても不思議な気持ちでしたが、監督が女性のアイデンティティの探求を描くにあたり、彼女の自由奔放な生き方に触発されたのかも知れないですね。
★リンクは有り難いのですが、写真や記事の転載は固くお断りします。
| 固定リンク
コメント