2024台北電影獎授賞式 授賞理由とスピーチなど!
7月6日に台北の中山堂で行われた2024年第26回台北電影奨授賞式は、既報の通り最高賞の百万元大賞はドキュメンタリーの『由島至島』が受賞しました。
ここのところ毎回お伝えしていますが、台北電影奨の百万元大賞はドキュメンタリーが獲得することが多く、2021年から4年連続でドキュメンタリーが選ばれています。
過去には2010年から2014年まで5年連続という時もありました。
トロフィー獲得数は、『オールド・フォックス 11歳の選択(原題:老狐狸)』が長編劇映画賞、監督賞、脚本賞、撮影賞、メイク&コスチュームデザイン賞の5部門。続いて『由島至島』、『我、邪で邪を制す(原題:周處除三害)』、『BIG』、『トラブル・ガール(原題:小曉)』がそれぞれ2部門ずつという結果でした。
プレスセンターで必ず質問が出る恒例の映画祭総監李亞梅(リー・ヤーメイ)が明かす激戦報告では、主演男優賞の阮經天(イーサン・ルアン)は圧勝で、『金魚の記憶(原題:(真)新的一天)』の李銘忠(リー・ミンジョン)は及ばなかったそうです。
主演女優賞の林品彤(オードリー・リン)は最後に『明日之子』の李雪(リー・シュエ)に競り勝ち、助演男優賞は『我、邪で邪を制す(原題:周處除三害)』の李李仁(リー・リーレン)と『少男少女』の李銘忠が接戦で李李仁に軍配が。
『トラブル・ガール(原題:小曉)』の陳意涵(チェン・イーハン)は『オールド・フォックス 11歳の選択(原題:老狐狸)』劉奕兒(ユージェニー・リウ)との一騎打ちで助演女優賞を獲得。
新人賞では『BIG』の鄭又菲(フェイフェイ・チェン)が『少男少女』の尹茜蕾(イン・チェンレイ)を下したということです。
それにしても、主演男優賞と助演男優賞で最後まで競った李銘忠の健闘に、拍手を贈りたいですね。
今年の審査委員長をつとめた陳果(フルーツ・チャン)は、主演女優賞と新人賞、そして惜しくも奨は逃しましたが主演男優賞にノミネートされた『オールド・フォックス 11歳の選択(原題:老狐狸)』の白潤音(バイ・ルンイン)の演技に、「こんなに子役のレベルが高いのは驚いた」と言っていたそうです。
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百万元大賞とドキュメンタリー映画賞を受賞した『由島至島』は、第二次世界大戦中の台湾で隠された記憶を発掘して再構成した作品。息子から父親への質問から始まり、世代を超えた会話、家族の手紙、日記などを通じて、日本帝国内の台湾の兵士や医師、東南アジアに住む台湾人の経験からこの時代のアイデンティティを探ります。
授賞理由は「監督の一貫した創造的文脈の中で、マクロ的な視点と意図を示し、複雑なアジアの歴史における戦争と人間性の間の葛藤を描く勇気を持った作品。悲しいことではあるが、とても意義深い」。
監督の廖克發(リャオ・カーファ)に替わりプロデューサーの林婉玉(リン・ワンユー)がトロフィーを受け取り、「人間の本性は脆弱であり、私たちはいかに簡単に悪に屈してしまうかを常に思い出さなければなりません。そして、個人としての自分自身を凡庸でなくすための努力こそがドキュメンタリーの力を発揮するところです」とスピーチしました。
長編劇映画賞の『オールド・フォックス 11歳の選択(原題:老狐狸)』は、現在日本でも公開中のヒューマンドラマ。1989年バブルに揺れる台湾を舞台に、人生の選択肢を知って成長していく少年と、彼を優しく見守る父の姿に心打たれる感動作です。
「成熟した構成力、時代の雰囲気を見事に再現し、子供の視点を通して、人間の本質と優しさとを写実的かつファンタジックに描いている」というのが授賞理由です。
蕭雅全(シャオ・ヤーチュエン)監督は、「皆さんありがとうございます。この賞をスタッフ、俳優全員で共有できることを光栄に思います」と謝辞を述べました。
『オールド・フォックス 11歳の選択(原題:老狐狸)』で監督賞、脚本賞でもトロフィーを受け取った蕭雅全(シャオ・ヤーチュエン)監督ですが、これまで撮った長編映画4作のうち、3作で監督賞に輝くという偉業を成し遂げました。しかも、本作では金馬奨とのダブル受賞です。
「監督の技術は成熟しており、テーマと美的スタイルが確立している。作品の情緒やメッセージを十分に伝える深い技術を持っている」というのが監督賞の授賞理由。
脚本賞の授賞理由は「構成が絶妙で、登場人物が立体的、それぞれの登場人物の思いや言葉、重要な転換点など、作り手の伝えたいことがはっきりと伝わってくる」。
脚本賞のスピーチでは、それぞれ以下のように語りました。
監督「脚本を書く度に、歴史から養分を引き出しているような気がします。だから脚本を書くことで未来へ養分を貯めていけることを願っています」
詹毅文(じゃん・イーウェン)「台湾の映画製作者全員がこの蝶のように美しく、遠くまで羽ばたけることを願っています」
(写真は脚本賞受賞時)
主演男優賞の阮經天(イーサン・ルアン)は欠席のため、『我、邪で邪を制す(原題:周處除三害)』のプロデューサー李烈(リー・リエ)がトロフィーを受け取りました。
授賞理由は「役に入り込み繊細な感情で命知らずの輩を表現し、目を見張る演技だ」ということです。
代読したスピーチは、「20年俳優をやって来ましたが、自分の人生の一部が偶然かどうかはともかく、映画のシーンと似ていることに気づきました。映画に感謝、そして決して諦めないという贈り物をくれた母に感謝します」というものでした。
金馬奨に続き主演女優賞に輝いた『トラブル・ガール(原題:小曉)』の林品彤(オードリー・リン)。
「問題を抱えたキャラクターを独特かつ自然な演技で、複雑な脚本の状況を浮き彫りにするのは非常に難しいが、見事にこなした」という授賞理由です。
トロフィーを手に、「2年前の夏、私は『アメリカン・ガール』で新人賞の候補として客席に座っていました。当時この映画の撮影をしていたのですが、そのシャオ・シャオ(役名)は私をここまで連れて来てくれました。夢のようです。私もシャオ・シャオのように良いことにも悪いことにも勇敢に向き合い成長したいと思います」と、とてもしっかりしたスピーチでした。
『我、邪で邪を制す(原題:周處除三害)』で助演男優賞を獲得した李李仁(リー・リーレン)、授賞理由は「少ないセリフと鋭い目つきで強烈なオーラを放つ演技で、主人公はじめ主要な登場人物間のバランスをとる重要な役割を果たした」。
スピーチでは「監督、プロデューサー、阮經天(イーサン・ルアン)、あなたたちのお陰でこの役が存在した。ふたりの先輩、陳以文(チェン・イーウェン)と袁富華(ベン・ユエン)に感謝します。そして今の私があるのは家族のおかげです」と、愛妻家で有名な李李仁らしいことばで締めました。
ちなみに、彼の妻は有名な司会者で多才な陶晶瑩(タオ・ジンイン)です。
助演女優賞に輝いた『トラブル・ガール(原題:小曉)』の陳意涵(チェン・イーハン)は、「介護者の心理的ジレンマを忠実に表現し、さまざまな相手と対峙する様子を明確に表現しており、非常に難しい役を適切な解釈で、演技力を十分に発揮した」という授賞理由です。
「2010年に『聽說』で主演女優賞をいただいたときは何もわかりませんでしたが、14年後、私は2人の子供の母になり、多くのサポートを与えてくれた台北映画祭に感謝しています」とスピーチしました。
そして新人賞は『BIG』の鄭又菲(フェイフェイ・チェン)。4才でデビューし、今年小学校五年生です。名前を呼ばれるとすぐに感激で泣き出し、「信じられない!俳優になりたくて30回以上オーディションを受けましたが、落ちました。親に諦めるように言われましたが、それでも頑張りました。実は受賞スピーチは準備していたのですが、ステージに上がったら頭が真っ白になりました」ということでした。
授賞理由は「自然体で誠実な演技は脚本に豊かな生命力を加えるだけでなく、多くの登場人物に物語を定着させ、今後の成長を期待させる」。
その他多くの受賞者の中から、印象深かった2人をご紹介します。
この日が誕生日だったという音楽賞を受賞した『サリー(原題:莎莉)』の李英宏(リー・インホン)。同作で助演男優賞にもノミネートされていました。
「助演男優賞を受賞できなかったのは残念ではなかったけど、この音楽賞をいただけて少しドキドキしています。
現在、新しい映画のサウンドトラックを手がけいるのですが、今年の10月頃に完成する自分のアルバムも制作中で、コンサートの準備もあり、実はとても忙しいです」と、2018年には金馬奨で『先に愛した人(原題:誰先愛上他的)』で主題歌賞を獲得しているアーチストだけに、音楽賞獲得はとてもうれしそうでした。
授賞理由は「オーケストレーションの爽やかな音色が映画の調性と共鳴し、主人公サリーのためにキャッチーなメロディーを展開しているのが印象的だ」。
また、卓越貢獻賞には手書き看板絵師の顏振發(イエン・チェンファ)が選ばれました。
デジタル技術が進化する中で、長年手書きの映画の看板を書き続けてきた職人です。
彼には弟子がいないため、台南の全美戲院支配人の提案で、週末に「手描き看板文化創造ワークショップ」を開き、国内外から多くの人が学びに来ました。
「私は今年で71歳になります。50年間、絵と芸術に人生を捧げてきましたが、右眼はほとんど見えません。目が見えなくなるまで絵を描き続けます」とスピーチ。
未来への変革と文化の継承という課題に、国家と台湾映画界はどのように向き合っていくのでしょうか。
今年のパフォーマンスは「映画の中の台北」というテーマで、范逸臣(ファン・イーチェン)が『52Hzのラヴソング』より「大世界小世界」、『赤い糸 輪廻のひみつ(原題:月老)』の「如果可以」(原曲は韋禮安)、『ミス・シャンプー(原題:請問,還有哪裡需要加強)』から「一生只督妳一人」(原曲は玖壹壹)を歌いました。
スクリーンには多くの映画のシーンが写し出されましたが、歌った主題歌は魏徳聖(ウェイ・ダーシェン)と九把刀(ギデンズ)の監督作品。
二人ともノミネートされて会場にいたからなのか、選曲理由が知りたいところです。
※台北電影奨の受賞とノミネート一覧はこちらから。
2024/07/06
【速報】2024台北電影奨 百万元大賞は今年もドキュメンタリー映画『由島至島』!
http://www.asianparadise.net/2024/07/post-8c3fe3.html
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