« 第61回金馬獎 作品賞は『一部未完成的電影(未完成の映画)』、張志勇(チャン・ジーヨン)と鍾雪瑩(チュン・セッイン)が主演男女優賞! | トップページ | 2024金馬奨レッドカーペット »

2024/11/30

2024金馬奨授賞式レポート

1130jinma1_20241130154001 第61回金馬獎の発表授賞式が、11月23日に台北の台北流行音楽中心で行われました。
これまでの国父記念館が改修に入ったためと、国家が力を入れて新しく作った施設の活用というのが、会場変更の理由だと思われます。
それに伴い取材環境も大きく変わり、メディアのベースとなるプレスセンターが屋外のテント。
更に驚いたのは、受賞者がトロフィーを持って登壇し撮影したり質疑を受ける受賞者プレスセンターも屋外テントなのです。
これはいかがなものかと思いました。
会場変更については語りたいことがたくさんあるのですが、それはともかく、まずは授賞式の様子をお伝えします。

1130liu 今年の司会者は、旬の俳優である劉冠廷(リウ・グァンティン)がつとめました。
プレスセンターでは受賞者が次々登壇するので授賞式の一部始終を見ることはできませんでしたが、パフォーマンスや機知に富んだコメントなど初めてながら素晴らしかったと、とても評判が良かったです。
そして、残念ながら受賞できませんでしたが、自身が出演している公開中の『餘燼』のPRも上手に織り交ぜていました。
2021年の林柏宏(リン・ボーホン)や2022年の謝盈萱(シエ・インシュアン)に続き、最近の俳優による司会はそれぞれ特色を出して成功していますね。

※写真はクリックすると別ウィンドウで拡大表示します

1130grandprix 作品賞は婁燁(ロウ・イエ)監督の『一部未完成的電影(未完成の映画)』が獲得。監督は中国出身ですが、作品はシンガポールとドイツの合作です。
10年ぶりに未完成の映画製作を再開するもコロナ禍で撮影が中止になり、ホテルに隔離された俳優とスタッフらクルーたちの模様がドキュメンタリーのように始まるフィクション。
授賞理由は、「緊張感に満ちたドラマチックな瞬間を作り出している素晴らしい物語。人々を笑わせ、泣かせ、絡み合い、勇敢で、弁証法的で、思索にふける作品として、審査員たちはこの映画へ敬意を表明した」ということでした。
選考過程では『漂亮朋友』がライバルだったそうです。
トロフィーはプロデューサーらが受け取りました。

1130actor 主演男優賞は、中国映画『漂亮朋友』の張志勇(チャン・ジーヨン)。
かなり接戦だったようですが、張志勇は深い演技の引き出しから恐怖と勇気をもって踏み出す男の心情を表し、創造性に満ち、エロティックで遊び心のある中年の深みのある演技を披露したと評価されました。
各ノミネート者の講評は、『春行』の喜翔(シー・シャン)の身体表現は非常に自然で洗練されており、『餘燼』の張震(チャン・チェン)はアクションとドラマの演技が的確で安定していた。
『看我今天怎麼說』での游學修(ネオ・ヤウ)の手話演技は完璧で説得力があり、将来性の高い役者、『白衣蒼狗』のWanlop RUNGKUMJAは非常に繊細な表現のリアリズムを極めていた。ということです。
張志勇は残念ながら出席できなかった為、耿軍(ゲン・ジュン) 監督が代理受賞しました。

1130chon 主演女優賞もかなりの接戦で、最終段階では『看我今天怎麼說』の鍾雪瑩(チュン・セッイン)、『女兒的女兒(娘の娘)』の張艾嘉(シルヴィア・チャン)、『我談的那場戀愛』の吳君如(サンドラ・ン)が激しいバトルを繰り広げました。
審査員はこの3人に絞って議論を重ね、重層的な演技が際立っていたため鍾雪瑩が頭ひとつリード、張艾嘉と吳君如はずうっと同点でしたが、最後は張艾嘉が次点だったそうです。
鍾雪瑩は「適応できないときも、動けないときも、体調が悪いときもあったけど、いつも心の中に小さな光の玉があったので、この賞をそれに捧げたいと思います。あなたの心の中の小さな光の玉は、ドキドキする瞬間やいつも届かないと思っていた夢のような場所へ連れて行ってくれるでしょう」と、途中から声を詰まらせながらスピーチしていました。

1130actor2 最も議論に時間がかかったという助演男優賞。なかなか過半数にならず、投票は5回。最後は『角頭-大橋頭』の施名帥(シー・ミンシュアイ)と『小雁與吳愛麗』の曾國城(ツェン・グォチャン)の一騎打ちになり、施名帥が栄冠に輝きました。
映画に対するダイナミックなアプローチ、成熟した俳優の能力を発揮して、起伏に富んだ非常に感動的で力強い演技が決め手となりました。
施名帥は「皆さんの力添えなしにこの役は成り立ちません。俳優とスタッフの皆さんには本当に感謝しています」と、興奮気味に語っていました。

1130actress2 助演女優賞は、最初は混戦模様でしたが、議論の後半は『小雁與吳愛麗』の楊貴媚(ヤン・グイメイ)に票が集中し、すんなりと決まったそうです。
楊貴媚は2004年の『月光下,我記得』以来20年ぶりの主演女優賞。
「客席にはたくさんの映画クイーンがいますが、皆それぞれ長い旅をしていて、共通しているのは一生懸命努力しているということだけだと思います。ありがとう、夏于喬(シア・ユーチャオ=キミ・シア)、私の娘、あなたの心はとても強く、アイリー(楊貴媚の役名)を母親にしてくれました」と、スピーチの最後に惜しくも主演女優賞を逃した夏于喬に向けて言葉をかけていました。

1130feifei 新人賞は、中国映画『空房間裡的女人』の余艾洱(ユー・アイアー)と台湾映画『BIG』の鄭又菲(フェイフェイ・チェン)の闘いでした。
余艾洱は中年の生活感と感情表現が評価されましたが、鄭又菲は小児がん患者という単に同情される役ではなく、幼いながら自分の身体をコントロールし、隣の病室にいる年上の少年に恋をする姿も子供の感情を表に出さずに大人っぽいフリをする演技が出色だということです。
「金馬奨、審査員の皆様、魏徳聖(ウェイ・ダーシェン)監督に感謝します。私を見て、私を選んで、この役を与えてくれてありがとうございます。お世話になった『BIG』ファミリー、そしてスタッフの皆様、本当にありがとうございました。これからも演技を続けて、もっといろんな役に挑戦していきたいと思います」と、まだ11才ですが、しっかりしたスピーチでした。

1130director監督賞は作品賞と同じく『一部未完成的電影(未完成の映画)』の婁燁(ロウ・イエ)が獲得。
こちらも作品賞と同じく『漂亮朋友』の耿軍(ゲン・ジュン)との一騎打ちになりましたが、その前には『鬼才之道』の徐漢強(ジョン・スー)との三つ巴でした。
婁燁監督は東京フィルメックスの審査員として日本へ赴いているため、トロフィーはプロデューサーが受け取りました。
この映画は作品賞の項でも書いたように、当時中国本土が直面していた新型コロナによる街の封鎖など、疫病の流行中に起こった多くの大きな出来事も含まれているため、中国では上映禁止。
でも、台湾では12月20日から一般公開が決まっています。

1130nerdirector 新人監督賞は、『白衣蒼狗』の曾威量(ツェン・ウェイリャン)、尹又巧(イン・ヨウチャオ)両監督が受賞しましたが、台湾の『春行』の彭紫惠(ポン・ツーホイ)、王品文(ワン・ピンウェン)監督と中国人監督 葉星宇(イエ・シンユー)によるアメリカ映画『三個羯子(三匹の去勢された山羊)』(東京国際映画祭で上映)で競ったそうです。
『白衣蒼狗』は究極のリアリズムを備えた魔法の感覚を生み出したという評価で、最終的に勝利を収めました。
手を繋いで登壇したふたりの監督は「この賞を、ニューシネマの先輩方全員に捧げたいと思います。皆さんの映画づくりに捧げたすべてが時空を超えて私を震撼させ、導かれました。台湾ありがとう、金馬賞ありがとう!」とスピーチしていました。

1130special そして、事前に発表されていた終身成就獎のひとり鄭佩佩(チェン・ペイペイ)は今年7月に亡くなりましたので、息子さんと3人のお嬢さんがトロフィーを受け取りました。
そのスピーチがとても感動的でした。
「私たちは李安(アン・リー)監督からトロフィーをいただけたことを大変光栄に思います。私たちの母が今も生きていたら、私たちの4人の子供たちは間違いなく、この一生に一度の瞬間を母と一緒に過ごしていたでしょう。
いつも母を応援してくださったファンの皆様、そして母と一緒に仕事をしてきたすべての監督、俳優、スタッフに感謝します。武侠アクションの女王であり、尊敬される俳優として母を覚えていてくれてありがとう。彼女は才能、努力、プロフェッショナリズム、時間厳守、親しみやすさ、そして寛大さの究極の模範であり続けるでしょう」

1130kiss プレゼンターの中で話題になったのは、吳君如(サンドラ・ン)と兵役中に休暇をもらって参加した許光漢(シュー・グァンハン)。オリジナル脚本賞と脚色賞を担当したのですが、吳君如は台本のセリフは全て忘れたと言い、戸惑う許光漢に場内は笑いの渦。
今回吳君如が主演女優賞にノミネートされたのが、中年女性と若い男の子とのストーリーなので、それにリンクしたコンビネーションと演出なのか、吳君如は「白雪姫は王子のキスで目ざめたから、キスして」と迫り、たじろぐ許光漢は「するふりでも良いですか?」と、リクエストに応え、場内は笑いと歓声で盛り上がりました。

1130woaudrey また、中国のマネジメント会社と契約したことが波紋を呼んでいる吳慷仁(ウー・カンレン)は、撮影のためノミネートされていたテレビアワード金鐘賞は欠席していました。
金馬奨では前年の主演男優賞受賞者として必ずプレゼンターをつとめるのですが、こちらも欠席を表明していて、事前にメディアに配布されるリリースには名前がなく、当然レッドカーペットにも現れません。
ところが、主演女優賞のプレゼンターとして突然林品彤(オードリー・リン)と一緒に登壇、私達メディアも驚かされました。

1130litam 今年の最終審査を担当したのは、審査委員長に香港の譚家明(パトリック・タム)はじめ、監督の九把刀(ギデンズ)、林君陽(リン・ジュンヤン)、俳優の謝盈萱(シエ・インシュアン)ら17人。
しかし、8時半〜午後3時半まで7時間の長丁場で、審査委員長の譚家明が持病(坐骨神経痛?)の再発のため審査は途中降板となり16人で審査を行ったそうです。
それでも、作品賞のプレゼンターだけは予定通りつとめました。

1130lian 授賞式の後、例年各作品ごとの祝賀会が各所で行われますが、これを全て回ったのは、主席の李屏賓(リー・ピンビン)と李安(アン・リー)。
李安監督は、主席や審査委員長を務めた時に必ず祝賀会をまわりましたが、今年も深夜1時半から翌朝6時半まで各祝賀会会場を回ってみんなを祝い、労をねぎらったそうです。
その行程をつぶさにレポートしたニュース記事もあり、最後は『青春18×2 通往有你的旅程(青春18×2 君へと続く道)』で、李安は張震(チャン・チェン)や藤井道人監督とと朝ご飯の豆漿を食べたと報道されていました。
毎年書いていますが、世界の李安、本当に素晴らしいお人柄です。

プレゼンターの写真をどうぞ。

1130abe 1130zhanglin 1130xie 1130shusandra 1130zhenyun 1130bolinwang

ノミネート一覧はこちらをご参照下さい。
http://www.asianparadise.net/2024/11/post-071ef3.html

★リンクは有り難いのですが、写真や記事の転載は固くお断りします。

|

« 第61回金馬獎 作品賞は『一部未完成的電影(未完成の映画)』、張志勇(チャン・ジーヨン)と鍾雪瑩(チュン・セッイン)が主演男女優賞! | トップページ | 2024金馬奨レッドカーペット »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« 第61回金馬獎 作品賞は『一部未完成的電影(未完成の映画)』、張志勇(チャン・ジーヨン)と鍾雪瑩(チュン・セッイン)が主演男女優賞! | トップページ | 2024金馬奨レッドカーペット »