第20回大阪アジアン映画祭 暉峻創三プログラミング・ディレクター インタビュー!
第20回大阪アジアン映画祭は、3月14日から開幕を前にゲスト情報も発表になり、チケット発売開始で皆さん期待が膨らんでいることでしょう。
今回は18の国と地域から選ばれた67作品が上映されますが、上映作品やそれを選ぶプログラミング・ディレクターの視点やこだわりが、それぞれの映画祭の個性に繋がっていると思います。
そこで、アジアンパラダイスではこのラインナップがどのように選ばれたのか、暉峻創三プログラミング・ディレクターにお聞きしました。
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Q 今回の見どころや注目作品については、他のメディアでも伝えられているので、アジアンパラダイスではどうやって作品を選ぶのか、ということにフォーカスしてお話しを伺いたいと思います。
まずは応募状況から聞かせていただけますか。
前回、第19回の映画祭あたりから応募数が急激に増えていて、自分の頭の中に入りきれないほどの数になっています。ご存知のように大阪アジアン映画祭は予算が少ないため会場や上映回数が少ない。大きな映画祭だとシネコンとかを全面的に使うけど、そうはいかない。上映会場も日によっては1つ、多くても3つの会場という状況で上映枠を増やせないので、応募して入選するのが宝くじより低いのでは、という確率になってしまう。
プログラミングをひと通り終えるとプログラマーは達成感を持つと思われてるかもしれないですが、そんなことはなくて、ほんとうだったらクオリティ上は入選なのに枠が足りなくて選べなかった作品が山積みになっているのです。毎年、ラインナップを発表して、ますます悔しさが募るばかりですね。
金馬影展(映画祭)で見た、最近の香港の女子高生を描いた『寄了一整個春天』も選びかたったんですが、枠不足で諦めた作品です。そういう残念な気持ちが強いですね。映画祭の成長や発展を軌道に乗せるのが本来の形なのに、枠が足りないという理由で断らなくちゃいけないのは悔しさに繋がります。
Q 狭き門だからこそエントリーしたいと思わせるのではないですか?
例えば台湾とかは大阪アジアンに入選したり受賞してニュースに大きく取り上げられるからよく知られているのはわかるけど、こちらはなにも宣伝していないのに、なんでこの映画祭のことを知っているのだろうというような国からも応募があるんですよね。
それに、カンヌとかベルリンで入選しているのに大阪アジアンではなぜ落選なんだというように怒られたりすることもあります。落選にしなきゃいけなかった作品の事後のケアもたいへんです。
他の映画祭ではカンヌやベルリンで入選した作品を優先的に上映するところもあるけど、大阪アジアンの役割としては同一レベルの作品だったら大きな映画祭で紹介されていない作品、人をピックアップすることに重きを置いている。それが独自性になっていると思います。
Q 世界には三大映画祭(カンヌ、ベルリン、ベネチア)をはじめ台湾や香港、釜山、中国、アメリカなどアジア映画が出品されるたくさん映画祭やマーケットがありますが、実際に足を運ばれているのはどんなところですか?
これがですね、世界のプログラマーの中で最もどこへも行っていないというか、近距離のところしか行っていないんですよ。
みんな三大映画祭とか色々行っていると思いますが、過去1年で言うと最も遠くが香港です。あと台北、韓国は釜山と富川国際ファンタスティック映画祭ですね。もう少し前はシンガポールやバンコクなども行っていたのですが、もう行かなくなっています。飛行機の中で長時間閉じ込められるのが苦痛でしかなくて。(苦笑)
コロナ時代の2021年は、どこにも行かずにプログラミングしましたね。行かなくてもできるということがわかりましたが、やはり現地へ行ったからこそわかること、現地のお客さんと一緒に見ることでここが笑いのツボなんだと気づけるということもあります。本当は行かなきゃいけないんですが、行かなくてもできることも見えてきたということもあります。
一方で企画マーケットの重要性が増しています。たとえば金馬影展に併設されている「金馬創投會議」という海外の投資者と協力して中国語圏映画の企画を支援する企画マーケットがあり、エントリーされた企画のアワードも行われています。こういうのは釜山でも香港でもありますが、これが映画祭のプログラマーにとってもかなり重要な場になっていて、企画のエントリー者とOne-on-Oneでのミーティングで目を付けていきます。
日本でもヒットした台湾との合作『青春18×2 君へと続く道(原題:青春18x2 通往有你的旅程)』も台湾の企画マーケットに出していて、当時の資料を見ると監督は藤井道人ではなくて台湾の監督の名前が書かれていたりしましたが、そこから道が開けていった例ですよね。
Q 暉峻さんがとても気に入った作品があっても、エントリーしないとセレクトの俎上にのらないのですよね?
そうですね。だから、こちらからエントリーしてくださいと声かけるケースもあります。
大阪アジアンではできるだけできたて新鮮な作品を紹介したいので、完成前に声をかけることもあります。たとえば今回コンペに入っている台湾の『我が家の事』はワールドプレミアですが、台湾のような世界の映画祭で引く手あまたの作品のワールドプレミアができるのは画期的なことです。潘客印(パン・カーイン)はこれまで短編『姉ちゃん』(2022)『できちゃった?!』(2023)を続けて上映しましたが、今回は長編第一作になります。
ワールドプレミアものは、完成品を待って判断したら間に合わないこともあるので、途中の段階で見せてもらう事もあります。
Q 未完成の段階でジャッジをするのは難しそうですね。
そうですね、完成してどこかの映画祭で見ていれば、仮に自分自身がよくわからないところがあっても、それなりに世間にレビューとか出ているので、それを読んで理解を深めることはできます。でも大阪アジアンでは検索してもレビューが見つからないような作品、ワールドプレミアはもちろんそうですし、それ以外でもあまりレビューが出回っていない作品も多いです。
今はだいたいオンラインで見て判断することが多いんですが、未完成のものはある種の賭けという面もありますね。まぁ入選作はそれでも良いですが、それよりはるかに多い落選作もあるので、自分がただわかっていなかっただけだったらどうしようという恐怖感は常にあります。
途中の段階で判断するにしても、最低限の条件は編集だけは固まっているということ。どうやってカットを繋いでいるかというのが重要な判断材料で、それができていないと検討はできない。そうは言っても、その後に編集を変えてる監督もいます。ごく稀にですけど、完成した作品を見たらけっこう違うものになっていたこともありましたね(笑)。
映画の物語はもちろん重要なんですが、映画の基礎文法を重視していて、作り手が映画の文法がわかっているかどうかを気にしていつも見ています。
Q 中国の若い監督を発掘・育成する中国最大級のインディペンデント映画祭「西寧FIRST青年映画祭」は行かれていますか?
招かれたことはありますが、まだ行ったことがないのです。まず遠い、そして標高が高いので、人によっては酸素ボンベを担いで行かないといけなかったり、高山病で開催中ずうっと動けなかった人もいると聞いたので、その高いハードルを考えると…、映画祭自体はチャレンジングなので行ってみたいとは思いますが。
中国だとコロナ前に賈樟柯(ジャ・ジャンクー)監督が2017年に立ち上げた「平遥クラウチング・タイガー・ヒドゥン・ドラゴン国際映画祭」には行きました。歴史は浅いのですが、なかなか頑張っている映画祭です。マルコ・ミュラーというイタリアのプロデューサーがブログラミングディレクターとして中国映画の新世代育成に力を注いでいたのですが、それはけっこう収穫がありました。賈樟柯自身が世界各国の映画祭に呼ばれて行っている人なんで、映画祭がどうあるべきかをよくわかっていますから。ただ、ここも日本から行くのはかなりたいへんでしたが、面白かったです。
Q 海外の映画祭やマーケットに行って、作品や人との出会いなど心震える体験はありましたか?
どこも同じですが、映画祭って参加をきっかけに世界へ飛躍していく可能性があり、それが重要な役割だと思います。そうやって作品が羽ばたいていく姿を見るのは映画祭ならではの醍醐味ですから、見ていても感動させられますね。
そして、受賞しなくても映画祭に選ばれて認知される作品がけっこうあるので、地味かも知れないけどそういうことでも感動します。台北電影節(映画祭)で上映されるドキュメンタリーなんかはその典型でしょう。台北市が主催する台北電影節は第一回から行っていて、スタート時は小規模で上映会場も少なかったけど徐々に拡充していってモデルにしたい映画祭です。カンヌやベルリンのようなマーケットはないですけど、最近は業者の人たちも来るようになっているし、いい感じで発展しているなぁと思って、勉強材料のひとつになっています。
Q 暉峻さんは、台北電影節で審査員もされていましたよね。
そうでしたね。金馬賞も審査員やっていますが、第一回の台北電影節のカタログに、「国際顧問」という肩書きで紹介されていて、びっくりしたこともあります。(笑い)
Q 中国作品といえば、今回『イケメン友だち(原題:漂亮朋友)」が入っていますが、金馬影展で終映後に暉峻さんと立ち話で感想を語り合った想い出があり、これが日本語字幕で見られることはとてもうれしいです。
これは、金馬影展に行ったからこそ見つけられた作品です。出演者も知らないし、監督も国際的な名声がある人でもないので金馬影展に行かなかったら出会えなかった。そのうえ金馬奨で張志勇(チャン・ジーヨン)の主演男優賞や撮影賞、編集賞獲りましたからね。
主演の人だけでなくキャストひとりひとりがの演技が味わい深く、すごいですよね。そのひとりひとりのキャラクターを印象づけられる監督の力も凄い。
これは大阪アジアンではフランス、ポルトガル合作となっていますが、実質中国映画です。特別注視部門でも最後にギリギリで決まった作品です。中国当局を無視して台湾の金馬影展に出したといういわく付きの作品なので、どこに連絡すれば良いのかずうっとわからなかったのです。台湾のあとはどこでも上映されていないので、時間をかけてようやくセールス・エージェントにたどり着いたという経緯でした。
だから、表記としては「ジャパンブレミア」ですが、大阪アジアンが金馬影展以来の世界で2番目の上映になるんです。
Q さて、今回はタイ映画に触れないわけにいかないのですが、どうやってこの作品群を見つけてこられたのですか?
去年初めてタイ映画特集を大々的にやったのですが、そのプログラミングをしている時にいくつかの現地報道でタイ映画の人気が急に上がってきているというニュースを見かけるようになって、これはまた新しい波が来ているのかもしれないということで色々情報を集めました。
もともとタイでは商業映画がそれほどたくさん作られていないのですが、作品のクオリティの平均値が高い。応募作としてはめちゃくちゃ多いわけではありませんが、短編も含めると全部で7作あり入選率が高いです。
2000年代はじめに、『トム・ヤム・クン!』などトニー・ジャーがスターだった頃日本でも盛り上がったこともありますが、その後下火になって、GDHによってブームが再燃した感じですね。
2年続けてタイ映画特集ができたのは、去年の上映作が次々に日本で公開されたり買い付けられたりしているので、タイ側も大阪アジアンに出すと成果を期待できると思ってくれているのでしょうね。それか好循環になっている。今年はGDH(タイの制作会社)の作品だけで3本入っています。GDHが作る映画はクォリティが高いので。日本でもGDHの認知度が高く、"タイのA24(アメリカのインディペンデント系エンターテインメント企業)"みたいに形容されているくらいのブランドになっていますが、ほかにも新しい勢力が次々出てきています。
GDHだけに頼らなくても充実してきているので、今回の特集を見てもらえればその辺が見えて来ると思います。GDHに代表されるものとはまた違い、取り上げる素材とか作品規模とかすごく多様ですし、タイ映画はまだまだ伸びていくと感じられると思います。
Q 最後に、どこの映画祭でも、一度上映されたことのある監督の新作の第二作・第三作が選ばれるということがあります。
大阪アジアンでも台湾の林書宇(トム・リン)、潘客印(パン・カーイン)、香港の黄修平(アダム・ウォン)ほかいますが、作家にフォーカスするのか、作品を見ていく中で自然にそうなってくるのか、その辺はいかがでしょうか?
特に作家に注視しているのではないのですが、一度大阪アジアンに出品して入選すると、かなりの率で戻って来てくれますね。カンヌもそういう傾向が強いですが、ある程度作家と共に映画祭も観客も育っていくという側面もあり、カンヌの発展の仕方を見ていてもそれは良いことだと思います。
今年もそういう過去に参加してくれた監督たちが、またエントリーしてくれているということが目立つようになっています。お客さんも毎年来てくれる方が多いので、そういう監督達の作品を注目してくれるでしょうし、それが映画祭の発展のストーリーのひとつを成せているといいなぁと思います。
≪映画祭概要≫
名称:第20回大阪アジアン映画祭(OSAKA ASIAN FILM FESTIVAL 2025)
会期:2025年3月14日(金)から3月23日(日)まで
上映会場:ABC ホール、テアトル梅田、T・ジョイ梅田、大阪中之島美術館
公式 HP:https://oaff.jp
主催:大阪映像文化振興事業実行委員会(大阪市、一般社団法人大阪アジアン映画祭、大阪商工会議所、公益財団法人大阪観光局、朝日放送テレビ株式会社、生活衛生同業組合大阪興行協会、株式会社メディアプラス)
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コメント
大変興味深い内容です。ありがとうございました。大阪アジアン映画祭での上映作が他の都市でも観ることができるようになれば嬉しいです。
エドワード・ヤン監督の「カップルズ」が上映されるようですが、ヤン監督と懇意にしていた暉峻先生もエキストラで出演しています。確か出演料は2,000円。暉峻先生の当時のインタビュー記事が読みたいです。
投稿: 松村直樹 | 2025/03/21 16:19