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2025/07/08

台湾文化センター台湾映画上映会2025『赤い柿 デジタル・リマスター版』トークイベント レポート

0708kaki 7月5日(土)に東京大学駒場キャンパスKOMCEE East K011において、台湾文化センター台湾映画上映会2025『赤い柿 デジタル・リマスター版』上映後にトークイベントが行われ、オフィシャルレポートが届きましたのでお伝えします。
今回は実践的な研究や情報発信に努め、人権・人道法の研究が行われる東京大学持続的平和研究センターとの連携企画で、映画評論家の村山匡一郎さんが登壇しました。

※画像はクリックすると別ウィンドウで拡大表示します

以下、オフィシャルレポート。

王童(ワン・トン)監督は2019年、金馬奨終身成就賞を受賞し、2023年には国家電影及視聴文化中心にて大規模な回顧展「在歷史的荒地造景:王童導演回顧展」が開催され、台湾映画界における存在の大きさを示した。
昨年、『台湾巨匠傑作選2024』にて≪台湾近代史三部作≫『村と爆弾』『バナナパラダイス』『無言の丘』が公開されると、『村と爆弾』に漫画家のちばてつやは「人間の本来持っている図太い生命力や朗らかさに魅せられて、大いに励まされた気分になった」と絶賛コメントを寄せ、大ヒットを記録し大きな話題となった。

日本の映画ファンの心を捉えた≪台湾近代史三部作≫に続いて制作されたのが、ワン・トン監督の自伝的要素が強い作品として知られる『赤い柿』だ。本作は、大陸から台湾に移住した家族の生き様を祖母の存在を中心に、大家族が時代に翻弄される様子をあたたかい眼差しで描いている。 時を超えて育まれる、台湾と日本の映画人の交流 台湾ニューシネマとは一線を画す、ワン・トン監督作品の魅力とは─

30年ぶりに『赤い柿』を観た村山匡一郎さんが「戦後、台湾が歩んできた歴史の中で、ひとりひとりがどう生きてきたが描かれている『赤い柿』の魅力は色褪せることがない」と感想を述べた。村山さんがはじめて台湾を訪れたのは、1974年戒厳令下だったという。台湾と日本の映画界の交流に力を注ぎ、台湾映画の国際的な発展を後押しした功績により、旭日双光章、台北電影節卓越貢献奨を受賞した映画評論家の張昌彦氏に誘われたて台湾を訪れたのがきっかけで、「台湾映画に目を向けられるようになったのは、親友である張氏のおかげ」で、そこから台湾映画人との交流もはじまったと語った。

30年ほど前に、福岡アジアフォーカスに参加した際、張氏と立ち寄った店でラーメンを食べていたワン・トン監督とばったり遭遇したという。張氏とワン・トン監督は同じ小学校に通っており、張氏の父はワン監督の父の主治医で、「彼らは家族ぐるみの付き合いがあった。『赤い柿』で将軍である父が怪我をするエピソードがあるが、きっとその時も張氏のお父さんが駆け付けたんじゃないかな」と、村山さんが台湾映画人たちの知られざるエピソードを披露した。

キュレーターのリム・カーワイの母国マレーシアでは、70~80年代はエンタテインメント映画が主流で、アラン・タムが主演したワン監督のデビュー作『仮如我是真的』、『本日公休』で久々にスクリーンにカムバックしたルー・シャオフェンが主演した『海を見つめる日』などが上映されていたという。しかし≪台湾近代史三部作≫のような社会を描く作品になってから、ワン監督作品はあまりマレーシアでは上映されなくなったと語った。

村山さんは、日本ではワン監督が「当時、台湾ニューシネマの監督としては紹介されていなかった」こともあり、映画祭や上映会でしか作品を観る機会がなく、劇場公開されるようになったのは最近になってからだと語った。
ワン監督自身が台湾ニューシネマの監督ホウ・シャオシェン、エドワード・ヤンたちより少し年上で「台湾ニューシネマの監督たちの兄貴分」のような存在だったこと、また彼らとちがって撮影所で美術スタッフとしてキャリアはじめた点、そして作風のちがいもあり、「台湾ニューシネマの監督」として紹介されなかったのでないかと分析した。

「台湾ニューシネマの監督たちの視点は絶えず“自分自身”にある。
『童年往事』『牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件 』も自身の過去を描いている」が、『童年往事』同様に祖母と自身を投影した孫を描いた『赤い柿』は「ワン監督は作中で自身の分身を明確には描いておらず、あくまでもエッセイ風に祖母と過ごす孫たちの日常を描いている。そこに個人の視点はない」と、台湾ニューシネマとワン監督の作風のちがいについて言及した。

『赤い柿』は≪台湾近代史三部作≫とちがい、1949年に台湾にやってくることが示されてはいるが、明確な時代設定、時間経過は示されない。祖母と孫を中心にした家族の日常を小さいエピソードをエッセイ風に綴った作品で、「社会的な背景を描いてしまうとそれが全面にでてしまい、家族の物語を邪魔してしまう。あえて社会的な背景をぼかすことで、個人史をエッセイ風に切り取ることができたのはないか」と村山さんが『赤い柿』の魅力を語ると、「ワン監督が好きだという小津安二郎監督の映画のように、全体が淡々と描かれ過剰なものがない。まさに最高傑作」とリムが応じた。

作品冒頭、上海のシーンはモノクロで描かれているが、庭になる柿だけが赤く色づいている。そこから台湾に渡ると、黄色いバナナが登場することについて、「画家を目指していたワン監督ならではの色彩感覚」があると村山さんが指摘した。
リムはタイトルにもなっている「赤い柿」について、「華語で“柿”と“世”は同じ読み方をする。おばあちゃんが大事にしていた斉白石の絵は5つの柿が描かれている。5世代がおなじ場所で、共に繁栄していくようにという意味がタイトルの赤い柿に込められているのではないか」と分析した。

会場からいま大ヒット中のタイ映画『おばあちゃんと僕の約束』(タイ・バンコクの古く美しい風景の中で織りなされる祖母と孫の心温まる交流を、ユーモアを交えながら描いた感動作)との比較について質問されると、「家族はどんな文化のひとにも共通する普遍的なテーマ」であり、最近はそうした個人史を描く若手監督が増えていて内向きになっているのを感じると村山さんが指摘すると、「『おばあちゃんと僕の約束』もとても素敵な作品だったが、おばあちゃんと主人公の1対1の関係性が描かれていた。それに対して『赤い柿』の孫は11人!大家族の生活から、時代そのものを描いている点」が大きなちがいだとリムが分析した。
「歴史の中に個人のドラマがあり、その生き様をいかに普遍的なものとして描くことができるかが、映画人としてのうでのみせどころ。『赤い柿』には普遍的なものがある」と村山さん『赤い柿』の魅力を語った。

最後に台湾映画の魅力について問われた村山さんは、「親友である張氏とコンタクトをとりながら、台湾映画にずっと接してきた。特にホウ・シャオシェンと同い年で、さらに台湾ニューシネマ、中国第五世代、香港ニューウエーブも同世代だった。世界中に活躍している同世代の映画人たちがいた。彼らを応援したいという気持ちがあり、その中のひとつが台湾だった」と、台湾ニューシネマの監督、作品と共に駆け抜けた映画人生を振り返った。「はじめて台湾に行った時に、多民族国家で多言語社会である台湾に触れ、衝撃を受けた。時代を重ねていく中で、多元的な社会はとてもおもしろく、その多元的な魅力は台湾映画に反映されている」と語ると、会場はあたたかい拍手に包まれた。

『赤い柿 デジタル・リマスター版』
1995年/168分/台湾 原題:紅柿子 數位修復版/英題:Red Persimmon
監督:ワン・トン(王童)
出演:タオ・シュ(陶述)、シー・チュン(石雋)、チャン・スー(張世)、ワン・ジュエン(王娟)
字幕:新田理恵
◆金馬奨1996最優秀美術賞
1949年、祖母は赤い柿の実の絵を抱え、家族と共に大陸から台湾へ渡った。悲しみと喜びの中で家族は生きる道を模索していく。
「台湾巨匠傑作選2024~台湾映画の傑物 ワン・トン監督と台湾ニューシネマの監督たち~」にて”台湾近代史三部作”が公開され、注目を集めるワン・トン監督。本作はワン・トン監督の自伝的要素が強い作品で、ホウ・シャオシェン監督『童年往事 時の流れ』同様に、大陸から台湾に移住した家族の生き様を祖母の存在を中心に描いていく。

【登壇者紹介】
0708murayama 村山匡一郎/映画評論家
日本経済新聞をはじめ映画雑誌などで評論活動にたずさわる傍ら、山形国際ドキュメンタリー映画祭などの審査員、各種の映像審査にかかわる。台湾・韓国・中国などアジア映画にも関心を寄せる。主な著訳書に「世界映画全史」(国書刊行会)、「映画史を学ぶクリティカル・ワーズ」(フィルムアート社)など。

★リンクは有り難いのですが、写真や記事の転載は固くお断りします。

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